2019 基本情報技術者試験の シラバス 改訂(出題範囲の変更)でどう変わる?注目ポイントや新出用語を解説

2019 年 5 月 27 日に、IPA(情報処理推進機構)の Web ページで、基本情報技術者試験のシラバス(出題範囲を詳細に示した資料)の最新版である Ver.6.0 が公開されました。
このシラバスは、令和元年( 2019 年)秋期試験以降に適用 されます。
今後、受験を予定されている方は、改訂のポイントを押さえておきましょう。
もくじ
変更箇所が色分けされたシラバスを見てみよう
シラバスが改訂された直後は、通常のシラバスと、変更箇所が色分されたシラバス の 2 種類の PDF ファイル が公開されます。
変更箇所が色分けされたシラバスは、何が変わったのかがすぐにわかるので、ダウンロードして内容を見てみましょう。
「基本情報技術者試験(レベル2)」シラバス(Ver.6.0)(変更箇所表示版)picture_as_pdf
すでに、2019 年 1 月 24 日付けの IPA のニュースリリースで、令和元年( 2019 年)秋期試験から
ということが発表されています。
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今回公開されたシラバスから、具体的な内容を知ることができるはずです。数学以外にも、変更があるかもしれません。
数学の分野に難しそうな用語がズラリ
それでは、改訂されたシラバス Ver.6.0 の内容を見てみましょう。
「数学に関する出題比率を多くする」と発表されたとおり、数学の分野で新しい用語が数多く並んでいます。
赤色 で示されたものが、新しい用語です。どれも難しそうですね。
(1) 確率と統計
1 確率
順列, 組合せ, 場合の数, 確率とその基本定理, 確率分布と期待値, マルコフ過程のあらましを理解する。
2 統計
度数分布表, ヒストグラム, 代表値, ばらつき, 相関関係, 回帰直線など, 統計分析の手法を理解する。
(2) 数値計算
連立一次方程式の解法など, 数値計算に関する基本的な内容を理解する。
当然のことですが、新しい用語は、これまでに出題されたことはありません。 したがって、過去問題で練習することができません。
どのような対策をしたらよいでしょう?
行列に関する主な用語の意味
これらの用語を示している「 2.応用数学」という分野では、【目標】にも改訂があります。
以下のように、赤色 で「線形代数、行列などの数値計算を理解し、担当する事項に適用する」とあります。
新しい用語をすべて調べるのは困難だと思いますので、まず、目標に掲げられた「行列」に関する用語に的を絞って、意味を覚えておきましょう。
2. 応用数学
【目標】
- 確率・統計の計算, 分析手法を理解し, 担当する事項に適用する。
- 線形代数, 行列などの数値計算を理解し, 担当する事項に適用する。
- 数値解析, グラフ理論, 待ち行列理論など基本的な数学的原理を理解し, 担当する事項に適用する。
連立方程式を解くことを例にして、「行列」「単位行列」「逆行列」という用語の意味を説明しましょう。
行列とは
以下の連立方程式を解くとします。
この連立方程式を「行列」で表すと、以下のようになります。
行列は、数値や変数を縦横に並べてカッコで囲み、全体に名前を付けたものです。ここでは、連立方程式の左辺の係数( x と y に掛けられている数値)を A 、変数 x と y を B 、右辺の数値を C という名前の行列にしています。
そして、行列どうしで計算を行う式にしています。先ほどの連立方程式は、A × B = C という行列の式で表せるのです。
何を行列にして、どのような名前を付けるのかは自由ですが、行列の計算方法は決められています。
この例では、行列 A と 行列 B の 掛け算 を行っています。
A の行と、B の列で、対応する成分(行列を構成する個々の数値や変数のこと)同士を掛け算し、さらにそれらを合計する、というルールで計算を行う約束になっています。
「なんのこっちゃ?」と思われるかもしれませんが、早い話が、もとの連立方程式にするためのルールです。
単位行列とは
行列の左上から右下に向かって 1 が並び、それ以外の要素がすべて 0 となっているものを「単位行列」と呼びます。
たとえば、2 行 2 列の行列では、以下が単位行列です。
単位行列は、単独の数値(行列ではないひとつの数値)の 1 に相当するものです。単独の数値に 1 を掛けても値が変わらないように、行列に単位行列を掛けても成分の値は変わりません。
逆行列とは
たとえば、2 の逆数は、1 / 2 です。2 × 1 / 2 = 1 なので、逆数は「もとの数に掛けると 1 になる数」だといえます。
この考え方を行列に適用して、「もとの行列に掛けると単位行列になる行列」を「逆行列」と呼びます。
逆行列は、行列名に「-1」という指数を付けることで示します。たとえば、行列 A の 逆行列 は「A-1」と示します。
逆行列の求め方は複雑なので、おそらく出題されないでしょう。もしくは、求め方が示されると思われます。
という 行列 A の 逆行列 A-1 は、
になります。
ずいぶん長い説明でしたが、いよいよクライマックスです。
逆行列を使うと、連立方程式の解を容易に求めることができます。
これまで例にしてきた連立方程式は、行列 A 、B 、C によって、A × B = C と表されています。
ここで、両辺に A の 逆行列 A-1 を掛けてみましょう。
A-1 と A を掛けると 単位行列 になります。単位行列 と B を掛けても成分は変わりません。
したがって、以下のように B = A-1 × C という式が得られます。行列 B は、変数の行列なので、右辺にある A-1 × C が、連立方程式の解になります。
▼
単位行列 × B = A-1 × C
▼
B = A-1 × C
逆行列を使って、連立方程式を解いてみましょう。
という連立方程式の解は、以下のようにして解くことができ、x = 2、y = 3 です。
何事も、理解が一歩進めば、意欲が湧くものです。
ここでは、行列に関する主な用語の意味を説明しましたが、数学関連の他の用語の意味も、まずは 1 つ、そしてもう 1 つ、と少しずつ調べて覚えていきましょう。
完璧を目指す必要はありませんが、できる限りの努力をしてください。
数学以外の分野の注目ポイント
基本情報技術者試験は、ルールに従って実施される厳正な国家試験です。
出題者の気まぐれではなく、シラバスに沿って問題が出されます。シラバスに示されたことは出題され、削除されたことは出題されません。
数学以外の分野で、シラバス Ver.6.0 で追加された用語と、削除された用語を見ておきましょう。
追加された用語は 赤色 、削除された用語は 青色 で示します。「なんじゃこれ?」と思われる用語には、 紺色 で解説を付けておきましたので、参考にしてください。
追加された用語
- AI( Artificial Intelligence:人工知能)
- 機械学習、汎化、ディープラーニング(深層学習)
- 制御に関する理論
- 温度センサ、湿度センサ、圧力センサ、ひずみゲージ、サーミスタ、ホール素子
- 温度センサに使われる素子
- 磁気センサに使われる素子
- その他の言語
- YAML
- データやオブジェクトを文字列にするためのデータ形式
- 入出力インターフェイスの種類と特徴
- DisplayPort 、BLE( Bluetooth Low Energy )
- システム構成
- VDI( Virtual Desktop Infrastructure:デスクトップ仮想化)、FaaS、エッジコンピューティング、マイグレーション(ライブマイグレーションほか)
- サーバレスでアプリの開発や設定が可能なクラウドサービス
- ヒューマンインタフェース
- VUI( Voice User Interface )、UX デザイン( User Experience デザイン)
- ユニバーサルデザイン
- JIS X 8341
- ウェブアクセシビリティに関する JIS 規格
- ユーザビリティ評価
- ユーザビリティテスト
- マルチメディア
- コンテナフォーマット、4K / 8K
- 静止画処理
- HEIF
- 圧縮率の高い静止画のフォーマット
- 動画処理
- H.264、HEVC、H.265
- MPEG-2 の 2 倍の圧縮率を持つ動画圧縮の規格
- MPEG-2 の 4 倍の圧縮率を持つ動画圧縮の規格
- H.265の通称
- データ資源管理
- 構造化データ、半構造化データ、非構造化データ、ストリーミングデータ
- プロトコルとインタフェース
- IPoE(IP over Ethernet)
- LANとWANのインタフェース
- メッシュWi-Fi
- ルータ機とサテライト機とでメッシュ(網目)状の安定したネットワークを構築すること
- モバイルシステム
- 5G
- モバイルシステム構成要素
- テレマティクス
- 自動車などの移動体と情報システムを統合して、何らかのサービスを提供すること
- モバイル通信技術
- ハンドオーバ、ローミング、MIMO 、LPWA( Low Power Wide Area )、IoT エリアネットワーク
- 移動中に通信の基地局を切り替えること
- 通信事業者間が提携して、ユーザーが利用できるエリアを拡大すること
- 受信機と送信機の両方で複数のアンテナを使い通信の品質を向上させる仕組み
- 脅威の種類
- ビジネスメール詐欺( BEC )、SNS の悪用
- 攻撃者の種類、攻撃の動機
- ダークウェブ、サイバーキルチェーン
- 特殊な Web ブラウザでしかアクセスできない Web サイトや Web サービスのこと
- 標的型攻撃の手順を構造化して、早期に攻撃を検知すること
- 利用者認証
- 多段階認証
- 人的セキュリティ対策
- 情報セキュリティ訓練(標的型メールに関する訓練、レッドチーム演習ほか)
- セキュリティの専門家が攻撃チーム(レッドチーム)を作り、現実に近い各種の攻撃を仕掛け、企業のセキュリティ対策を検証するサービス
- セキュアプロトコル
- WPA3
- WiーFi のセキュリティの規格
- アプリケーションセキュリティ
- セキュリティバイデザイン、プライバシーバイデザイン
- アジャイルの概要
- アジャイルソフトウェア開発宣言、アジャイルソフトウェアの 12 の原則、スクラム、ユーザストーリ、継続的インテグレーション(CI)、ふりかえり(レトロスペクティブ)
- チームで効果的に仕事を進めるための仕組み
- スクラムの特徴
- スプリント
- スクラムにおける仕事時間の単位
- プロジェクトのコミュニケーション
- コミュニケーションチャネル
- 業務プロセスの改善と問題解決
- RPA( Robotic Process Automation )
- パソコンを使った定型業務を、ソフトウェア型のロボットで自動化すること
- システム活用促進と評価の目的と考え方
- チャットボット
- 会話を自動的に行うプログラムのことで、よくある問合せの回答などに使われる
- データの分析及び活用
- データマイニング(テキストマイニングほか)、エンタープライズサーチ、オープンデータ、パーソナルデータ、データサイエンティスト
- システム化構想の立案
- SoR( Systems of Record )、SoE( Systems of Engagement )、SoI( Systems of Insight )
- 記録・保管中心のシステム
- 顧客をつなぐシステム
- SoE と SoR で顧客インサイトを理解するシステム
- 経営戦略
- デジタルトランスフォーメーション( DX )
- IT によって業務や生活の様々な場面を向上させること
- 製品戦略
- カニバリゼーション
- 自社の製品同士が競合してシェアを奪い合ってしまうこと
- 価格戦略
- スキミングプライシング、サブスクリプションモデル
- 早期の資金回収を目的として、製品のライフサイクルの初期段階で価格を高く設定すること
- 買取りではなく、利用した期間に応じて料金を支払うこと
- ビジネス戦略と目標の設定・評価
- ビジネスモデルキャンバス
- ビジネスモデルを視覚化して分析するためのツール
- 技術開発戦略の目的と考え方
- オープンイノベーション、イノベーションのジレンマ、リーンスタートアップ、API エコノミー
- 無駄のない小さな(リーン)規模でプロジェクトを開始(スタートアップ)し、検証を行いながら改善していく手法
- 自社のシステム開発の機能単位である API を公開することで、企業のビジネスを拡大すること
- 価値創出の三要素
- キャズム、魔の川( Devil River )、死の谷( Valley of Death )、ダーウィンの海( Darwinian Sea )
- 市場を独占するために越えなければならない大きな溝(キャズム)のこと
- 研究を製品化に進めるための難関のこと
- 製品を事業化に進めるための難関のこと
- 事業で他社との競争に勝つための難関のこと
- 技術開発戦略の立案
- デザイン思考、PoC( Proof of Concept:概念実証)、PoV( Proof Of Value:価値実証)
- 基幹業務支援システム及び業務パッケージ
- ブロックチェーンの活用(トレーサビリティ確保、スマートコントラクトほか)
- ビットコインの中核となる技術であり、ブロックと呼ばれるデータの単位を連結する仕組み
- 契約を実行するためのコンピュータプロトコル
- 行政システム及び公共情報システム
- 超スマート社会、Society 5.0
- 電子決済システム
- キャッシュレス決済(スマートフォンのキャリア決済、非接触 IC 決済、QR コード決済ほか)、フィンテック( FinTech )、暗号資産(仮想通貨)
- Finance(金融)と Technology(技術)を組合せた造語。金融サービスで IT を活用すること
- e-ビジネスの進め方
- クラウドソーシング
- インターネットで不特定多数の人から資金援助を募ること
- ソーシャルメディア
- ライフログ、情報銀行、シェアリングエコノミー
- 人間の生活をデジタルデータとして記録すること
- 物、サービス、場所を他者と共有する社会的な仕組み
- IoT システム
- BLE ビーコン
- BLE( Bluetooth Low Energy )を利用した位置特定技術のこと
- 民生機器の例
- スマートスピーカ
- 産業機器の特徴と動向
- スマートファクトリー、インダストリー 4.0
- 産業機器の例
- ロボット(産業用、医療用、介護用、災害対応用ほか)、ドローン
- 自動車制御システムの特徴と動向
- コネクテッドカー、自動運転
- 通信端末としての機能を有する自動車のこと
- ヒューマンリソースマネジメント
- アダプティブラーニング、HR テック( HRTech )、テレワーク
- 学習者の理解度に合わせて学習方法を最適化する教育技法
- HR( Human Resource、人材)とテクノロジーを組合せた造語、IT を活用して人事の課題の最適解を見出すこと
- 通信技術を使って、離れた場所(テレ)で仕事を行う(ワーク)こと
- 経営環境の変化
- レピュテーションリスク
- 企業の評価が下がり業績が悪化する危険性のこと
- サイバーセキュリティ基本法
- サイバーセキュリティ協議会
- 個人情報保護法、マイナンバー法
- 要配慮個人情報、匿名加工情報、一般データ保護規則( GDPR )
- 情報セキュリティに関する基準
- 中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン、コンシューマ向け IoT セキュリティガイド、IoT セキュリティガイドライン、サイバー・フィジカル・セキュリティ対策フレームワーク
- 取引関連の法規
- 資金決済法
削除された用語
- 伝送理論
- 直列、並列
- 出力装置
- CRT ディスプレイ、プラズマディスプレイ
- ファイルシステムの種類と特徴
- HFS( Hierarchical File System )
- UNIX系OS
- IRIX
- 情報の圧縮・伸張
- LZH
- 民生機器の例
- DLNA
ご存じの方も多いと思いますが、今回の変更に加えて、基本情報技術者試験の 午後試験 の問題構成も、令和 2 年( 2020 年)春期試験から大幅に改訂 されます。
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受験される皆様のご健闘をお祈り申し上げます!
fiber_new IPA より Python の具体的なシラバス (試験範囲) とサンプル問題が発表され、矢沢 久雄さんに解説いただきました。詳しくは下記の記事をご覧くださいませ。


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