2018年度(平成30年度) 春期 基本情報技術者 試験講評
皆さん、こんにちは。基本情報技術者受験ナビで執筆することになった矢沢久雄と申します。いつもは対策書籍の執筆や研修講師として登壇しています。
平成 30 年 4 月 15 日(日)に開催されたばかりの基本情報技術者試験の問題を、講師の視点から講評させていただきます。今後、基本情報技術者試験を受験される皆さんに、少しでも参考になれば幸いです。
もくじ
過去問題を練習しておけば、今回の午前問題も十分に合格できる
私が試験対策講座を行うときには、「午前問題は、過去問題が再利用されることが多いので、過去問題を数多く練習しておけば、合格点が取れます」と指導しています。
はたして、今回の試験も、そうだったのでしょうか。
テクノロジ系、マネジメント系、ストラテジ系、および午前問題全体における過去問題の再利用率は、以下の通りです。私の判断で、過去問題を練習すれば正解できる問題を再利用としました(これ以降も同様です)。
試験の合格圏が 60 % 以上の正答ですから、過去問題を練習しておけば、今回の午前問題も十分に合格できることがわかります。
テクノロジ系の再利用率 | 37 問 / 50 問 | 74 % |
マネジメント系の再利用率 | 10 問 / 10 問 | 100 % |
ストラテジ系の再利用率 | 17 問 / 20 問 | 85 % |
午前問題全体の再利用率 | 64 問 / 80 問 | 80 % |
最新の技術動向に目を向けておこう
これまでに出題されなかった問題の多くは、最新の技術動向をテーマにしたものです。
テクノロジ系が最も多く 26 % で、ストラテジ系が 15 % です。マネジメント系には、新しい話題がなかったようで、0 % でした。
今後、試験を受験される皆さんが、合格をより確実なものとするためには、今回の試験で取り上げられた新しい用語の意味を知っておきましょう。今回の試験は、そのためのよい学習資料となります。
主な用語を以下に示します。
- AI におけるディープラーニング
- SD メモリカードの上位規格の SDXC
- 大規模データの分散処理を実現する OSS の Apache Hadoop
- 動画の圧縮符号化方式の H.264 / MPEG-4 AVC
- AR( Augumented Reality )
- SPF( Sender Policy Framework )
- ビッグデータ
ビックリするような問題が 1 問だけ出題されています。以下の問題を見てください。
「 SQL の問題は SELECT 命令を覚えれば OK 」と多くの受験者が思っていますが、これまでに見たこともないような SQL(埋込み SQL )が出題されたのです。
EXEC SQL OPEN X;
EXEC SQL FETCH X INTO :NAME, :DEPT, :SALARY;
EXEC SQL UPDATE 従業員
SET 給与 = 給与 * 1.1
WHERE CURRENT OF X;
EXEC SQL CLOSE X;
ア カーソル イ スキーマ ウ テーブル エ ビュー
このような問題に対処するために、埋込み SQL をきちんと勉強するべきなのでしょうか。
その必要はないと思います。選択肢を見てください。選択肢に示された用語は、どれも過去問題に出題されたものばかりです。
この埋込み SQL を英語として解釈し、皆さんが持っている知識を駆使すれば、選択肢アのカーソルが正解だとわかるでしょう。消去法で、イのスキーマ、ウのテーブル、エのビューでないと判断するのでもOKです。
ただし、興味があるなら、この機会に埋込みSQLとは何かを調べておきましょう。
午後問題(問 1 ~ 問 7 )は、問題の選択がポイント
問 1(必須問題)は、情報セキュリティです。
パスワードをサーバに保存する場合、そのまま保存すると漏洩する恐れがあるので、ハッシュ値に変換することを知っているかどうかを問う内容になっています。
さらに、シラバスの改訂で追加されたソルトの役割を知っているかどうかもテーマになっています。午後問題の対策としても、新しい用語の意味を知っておきましょう。
問 2(選択問題)は、ハードウェアの問題です。
論理回路をテーマにしています。この手の問題は、得意なら時間をかけずに簡単に溶けますが、苦手なら絶対に避けるべきです。
ただし、苦手であっても、この機会に論理回路を猛練習するものよいと思います。短い時間で解ける問題なので、他の問題に割ける時間が多くなるからです。
問 3(選択問題)は、データベースです。
すべて SQL の問題であり、基本的な SQL の命令を散りばめたような内容になっています。
DISTINCT 、GROUP BY 、HAVING 、副問い合わせ、集約関数、これらの意味がわかるなら、容易に解けるはずです。SQL が苦手なら、もちろん選択しないでください。
ただし、論理回路と同様に、この機会に苦手な SQL を克服する題材としてはいかがでしょう。試験対策としての SQL の学習のゴールは、この問題で出題されているレベルです。
問 4(選択問題)は、ネットワークの問題です。
クラウドサービスや仮想マシンといった、過去問題であまり取り上げられなかったテーマになっています。ただし、基本的な用語と概念がわかっていれば、説明文の内容と照らし合わせて、選択肢を選べるでしょう。
問 5(選択問題)は、ソフトウェア設計の問題です。
この分野は、フローチャートで示されたファイル処理か、UML で示されたオブジェクト指向設計なのですが、今回は、前者が出題されました。
現行以前の試験制度からあるテーマなので、過去問題を練習しておけば、正解は容易なはずです。ただし、これは私見かもしれませんが、他の問題よりボリュームが多いので、時間に余裕がないなら選ぶべきではないでしょう。
問 6(選択問題)は、プロジェクトマネジメントの問題です。EVM( Earned Value Management )がテーマになっています。
問 7(選択問題)は、ストラテジ系の問題です。
収益を検討するための計算がテーマになっています。どちらも、あれこれと計算をする内容になっていますが、基本情報技術者試験には、公式の丸暗記を必要とする問題が出題されたことはありません。
問題文に示された通りに計算すれば、必ず答えを選べます。今回も同様です。
ただし、問 2 ~ 問 4 と比べて、時間がかかるので、この手の問題は、先に選ばない方がよいでしょう。
午後問題(問 8 )は、有名なアルゴリズムがテーマ
問 8(必須問題)は、多くの受験者の合否を分けるポイントとなるアルゴリズムの問題です。
問題のテーマは、
- 出題者オリジナルのアルゴリズム
- 午前問題に出題される有名なアルゴリズム
- 2 進数を使ったアルゴリズム
の 3 つの大きく分類できます。
今回の問題のテーマのヒープソートは、午前問題に出題される有名なアルゴリズムです。
したがって、あらかじめヒープソートとは何かを知っておくことが、この問題を解くポイントです。午後問題の対策として、午前問題に出題される有名なアルゴリズムを、確実に理解しておきましょう。
実は、ヒープソートをテーマにした問題は、現行の試験制度(平成21年度春期から現行制度)になる前の平成 17 年度 春期試験 午後 問 4 で出題されています。このことから、午後問題でも、過去問題を解いて練習することが効果的であることがわかります。
午後問題(問 9 ~ 問 13 )は、お手本のような問題
問 9 ~ 問 13 のソフトウェア開発(プログラミング言語)は、初めて受験する人が選択することが多い、問 12 のアセンブラと問 13 の表計算を講評させていただきます。
どちらの問題も、奇抜な部分がないので、今後の受験に向けた学習題材として、とても適していると思います。
問 12(選択問題)のアセンブラは、数字列を数値に変換する、文字列の先頭から数字列を探索する、2 つの整数の積を求める、という3つのプログラムが出題され、それらが連携して動作します。
個々のプログラムのアルゴリズムは、常識的に理解できるものですが、初めて学ぶ人には常識的でないと思いますので、この問題を使って練習しておきましょう。
アセンブラの過去問題のプログラムの穴埋めは、ジャンプ命令を選択肢に並べたものが多いのですが、今回も同様でした。プログラムの処理の流れを変えるジャンプ命令の種類と意味を、しっかり理解してください。
問 13(選択問題)の表計算は、会議室の予約システムという、一般的にイメージしやすいテーマでした。
特に真新しさはないので、前半部のワークシートは、どのセルに何を求める式を入れるのかを読み取り、選択肢の違いに注目して消去法で答えを選ぶという方法で正解できるでしょう。
ただし、後半部のマクロは、これまでの過去問題と比べて、関数を多用しています。選択肢に示された関数の引数の違いに注目した消去法で答えを絞りましょう。
試験問題の末尾には、関数の説明が掲載されていますが、試験当日に見ているようでは時間が足りなくなってしまいます。あらかじめ、関数の種類と役割を、しっかりと理解しておいてください。
丸暗記でなく、過去問題を解くことで覚えてください。
以上で、私の講評を終わります。全体として言えるのは、今回の試験は、午前問題も午後問題も、今後の学習題材として、とても適しているということです。基本情報技術者試験を受験される皆さんの合格を心よりお祈りいたします。
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大手電気メーカーでPCの製造、ソフトハウスでプログラマを経験。独立後、現在はアプリケーションの開発と販売に従事。その傍ら、書籍・雑誌の執筆、またセミナー講師として活躍。軽快な口調で、知識0ベースのITエンジニアや一般書店フェアなどの一般的なPCユーザの講習ではダントツの評価。
お客様の満足を何よりも大切にし、わかりやすい、のせるのが上手い自称ソフトウェア芸人。
主な著作物
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- 「コンピュータはなぜ動くのか」(日経BP)
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