基本情報技術者試験 科目A免除試験 (旧 午前免除試験) の講評 ~ 2023年6月11日実施

試験対策講座の講師として、誠に勝手ながら、 2023 年 6 月 11 日(日)に実施された基本情報技術者 科目 A 免除試験(修了認定に係る試験)の講評をさせていただきます。
今回受験された人は振り返りの題材として、今後受験される人は対策の資料として、参考にしていただければ幸いです。
実施月 | 問題 | 解答 |
---|---|---|
2023 年 6 月 | 問題 | 解答 |
もくじ
今回の科目 A 試験の内容
基本情報技術者試験は、 2023 年 4 月から新制度となり、従来の午前試験と午後試験が、それぞれ科目 A 試験と科目 B 試験に変わりました。 それに伴い、従来の午前免除試験は、科目 A 免除試験に変わりました。
今回の試験は、科目 A 免除試験として初めて実施されたものなので、内容を詳しく分析し、従来の午前免除試験とどのような違いがあるのかを説明して、今後の試験に向けての学習方法をアドバイスしましょう。
図 1 は、今回の科目 A 免除試験の内容です。 問題の番号、分野、テーマ、難易度、および過去問題の再利用かどうかを示しています。
分野は、テクノロジ系、マネジメント系、ストラテジ系を、それぞれ T 、 M 、 S で示しています。
難易度は、筆者の講師経験から、
- A
- 受講者のほぼ全員ができるもの
- B
- 半数ぐらいができるもの
- C
- ほとんどができないもの
としています。
過去問題の再利用である場合は(すべての問題が過去問題の再利用でした)出題された主な年度を示し、基本情報技術者試験の過去問題ではない場合は「 H 30 秋 問 6 ( AP )」のようにカッコの中に試験区分の略語を示しています。
- AP
- 応用情報技術者試験の略語
- SG
- 情報セキュリティマネジメント試験の略語
- AD
- 初級システムアドミニストレータ試験(現在の IT パスポート試験)の略語
なお、問 2 は、平成 12 年度 秋期に第 2 種情報処理技術者試験(現在の基本情報技術者試験)の問 71 に出題されているので、基本情報技術者試験の過去問題とみなしています。
番号 | 分野 | テーマ(分類) | 難易度 | 過去問題 |
---|---|---|---|---|
1 | T | 浮動小数点数演算の誤差の種類 (基礎理論) |
B | H 20 秋 問 4 |
2 | T | 標準偏差の説明 (基礎理論) |
B | H 12 秋 問 71 |
3 | T | 逆ポーランド表記法の変換 (基礎理論) |
B | H 21 秋 問 3 |
4 | T | コンピュータの演算速度 (基礎理論) |
B | H 23 秋 問 3 |
5 | T | 二分木の構造 (アルゴリズム) |
C | H 30 秋 問 6 (AP) |
6 | T | 二分探索法の比較回数 (アルゴリズム) |
B | H 21 春 問 7 |
7 | T | プログラムの性質 (ソフトウェア) |
B | H 22 春 問 8 |
8 | T | CPU の命令実行回数 (ハードウェア) |
B | R 01 秋 問 12 |
9 | T | メモリインタリーブの説明 (ハードウェア) |
B | H 19 秋 問 22 |
10 | T | RAID 1 ~ 5 の方式の違い (システム構成) |
B | H 21 春 問 13 |
11 | T | 分散処理システムのアクセス透過性 (システム構成) |
A | H 25 秋 問 14 (AP) |
12 | T | MTBF と MTTRの説明 (システム構成) |
B | H 27 秋 問 14 |
13 | T | OS のジョブ管理機能 (ソフトウェア) |
C | H 19 秋 問 28 |
14 | T | 3 アドレス命令で得られる結果 (ソフトウェア) |
C | H 22 春 問 22 |
15 | T | Hadoop の説明 (ソフトウェア) |
A | H 29 秋 問 19 (AP) |
16 | T | 複数回の ON 、 OFF が発生する現象 (ハードウェア) |
A | H 23 特別 問 26 |
17 | T | チェックディジットの計算 (マルチメディアとヒューマンインタフェース) |
B | H 15 秋 問 49 |
18 | T | 主キーを構成する列に必要な条件 (データベース) |
A | H 25 秋 問 30 |
19 | T | E-R 図の説明 (データベース) |
A | H 24 春 問 28 |
20 | T | 埋込み SQL のカーソルの機能 (データベース) |
B | H 25 春 問 29 (AP) |
21 | T | Java のデータベースアクセスAPI (データベース) |
A | H 23 特 別 問32 |
22 | T | ロックの両立性の説明 (データベース) |
B | H 27 秋 問 29 |
23 | T | 無線 LAN の SSID の説明 (ネットワーク) |
B | H 29 秋 問 31 |
24 | T | イーサネットのブロードキャストの説明 (ネットワーク) |
A | H 30 秋 問 33 (AP) |
25 | T | DNS の役割 (ネットワーク) |
A | H 30 秋 問 33 |
26 | T | SDN の説明 (ネットワーク) |
B | H 29 秋 問 35 (AP) |
27 | T | シャドー IT の説明 (セキュリティ) |
A | H 30 秋 問 16 (SG) |
28 | T | 暗号方式の種類 (セキュリティ) |
B | H 24 秋 問 39 |
29 | T | CAPTCHA の目的 (セキュリティ) |
A | H 31 春 問 36 |
30 | T | リスクの回避に該当するもの (セキュリティ) |
A | H 30 春 問 2 (SG) |
31 | T | IDS の機能 (セキュリティ) |
B | H 30 秋 問 42 |
32 | T | VDI サーバの動作の特徴 (セキュリティ) |
B | H 30 春 問 41 (AP) |
33 | T | 攻撃と対策の適切な組合せ (セキュリティ) |
B | H 24 秋 問 41 (AP) |
34 | T | UML のアクティビティ図の特徴 (開発技術) |
B | R 02 秋 問 46 (AP) |
35 | T | オブジェクト指向の継承の説明 (開発技術) |
B | H 30 春 問 46 |
36 | T | ソフトウェアの使用性を向上させる施策 (開発技術) |
A | H 26 春 問 47 (AP) |
37 | T | ブラックボックステストの説明 (開発技術) |
B | H 24 春 問 48 |
38 | T | プロトタイピングモデルの特徴 (開発技術) |
A | H 20 秋 問 28 (AD) |
39 | T | アジャイル開発の “ふりかえり” を行う適切なタイミング (開発技術) |
B | H 30 春 問 48 (AP) |
40 | T | エクストリームプログラミングにおけるリファクタリングの説明 (開発技術) |
A | H 27 秋 問 49 (AP) |
41 | M | ファンクションポイント法の説明 | A | H 13 秋 問 55 |
42 | M | アローダイアグラムからクリティカルパスを求める | B | H 18 春 問 46 |
43 | M | ローカルサービスデスクの特徴 | A | H 23 秋 問 56 |
44 | M | バックアップの運用に必要な磁気テープの本数 | C | H 28 秋 問 57 (AP) |
45 | M | 電子証明書の有効期間 | B | H 30 秋 問 39 (SG) |
46 | S | エンタープライズアーキテクチャの To-Be モデル | B | H 22 秋 問 63 (AP) |
47 | S | SaaS の説明 | A | H 24 秋 問 63 |
48 | S | プライバシーバイデザインの説明 | B | R 01 秋 問 64 |
49 | S | M & Aの垂直統合に該当するもの | A | H 27 秋 問 67 (AP) |
50 | S | マーケティングミックスの説明 | A | H 23 秋 問 69 |
51 | S | バランススコアカードの学習と成長の視点 | A | H 29 春 問 70 |
52 | S | ファウンドリ企業のビジネスモデルの特徴 | B | R 04 春 問 70 (AP) |
53 | S | 3PLの説明 | B | H 29 秋 問 73 (AP) |
54 | S | 実現可能な最大利益の計算 | B | H 26 春 問 71 |
55 | S | シェアリングエコノミーの説明 | A | H 31 春 問 73 |
56 | S | マトリックス組織の説明 | A | H 28 秋 問 76 |
57 | S | 定量発注方式の在庫モデル | C | H 28 秋 問 78 |
58 | S | バスタブ曲線の説明 | A | H 25 春 問 74 (AP) |
59 | S | 財務諸表分析の売上原価 | B | H 18 春 問 73 |
60 | S | 委託で開発したプログラムの著作権の帰属 | B | H 22 春 問 78 |
従来の午前免除試験は、
試験時間 150 分( 2 時間 30 分)で全 80 問を解くものでしたが、
科目 A 免除試験は、
試験時間 90 分( 1 時間 30 分)で全 60 問を解くものに変わりました。
1 問当たりの解答時間は、午前免除試験では
150 分 ÷ 80 問 = 約 1.9 分
でしたが、科目 A 免除試験では
90 分 ÷ 60 問 = 1.5 分
です。
科目 A 免除試験の解答時間は、やや短くなりましたが、これまでの午前免除試験の受験者の多くは「 30 分ぐらい時間が余った」と言っているので、それほど心配する必要はないでしょう。
問題の構成
テクノロジ系、マネジメント系、ストラテジ系の構成は、従来の午前免除試験では、
50 問、 10 問、 20 問( 62.5 % 、 12.5 %、 25 % )
でしたが、今回の科目 A 免除試験では、
40 問、 5 問、 15 問( 67 % 、 8 %、 25 % )
です。
テクノロジ系がやや増えて、マネジメント系がやや減っていますが、それほど大きな違いではないので、従来通りの構成だと考えてよいでしょう。 テクノロジ系の問題でセキュリティに重点が置かれていること(問題数が多いこと)も従来通りです。
全体的に見て、特定の分類(基礎理論、データベース、ネットワーク、セキュリティなど)の問題が増えたとか、計算問題が増えたとか、用語に関する問題が増えた、といったこともありません。
問題の難易度
今回の科目 A 免除試験の問題の難易度は、
A (とても簡単)が 23 問、
B (やや難しい)が 32 問、
C (とても難しい)が 5 問
でした。
A が 90 % できて、 B が 50 % できて、 C が 25 % できる(四択問題なので最低でも 25 % できます)とすれば、正解数の期待値は、
23 × 0.9 + 32 × 0.5 + 5 × 0.25
≒ 38 問
です。
合格基準は、 60 問中 36 問以上の正解なので、ちゃんと勉強していれば合格できたでしょう。 これは、従来の午前免除試験と同様の難易度です。
他の試験区分の過去問題の再利用
近年の午前免除試験では、他の試験区分の過去問題が数多く出題されていました。 これは、今回の科目 A 免除試験でも同様であり、 60 問中、基本情報技術者試験の過去問題だったものは 38 問(約 63 % )であり、残りの 22 問(約 37 % )は他の試験区分の過去問題でした。
他の試験区分の過去問題は、
応用情報技術者試験が 18 問、
情報セキュリティマネジメント試験が 3 問、
初級システムアドミニストレータ試験が 1 問
でした。
過去問題の年度は、古いものでは平成 21 年度があり、新しいものでは令和 4 年度があります。 特定の年度からよく出る、ということはありません。
今後の科目 A 免除試験に向けての学習方法
今回の科目 A 免除試験の内容から、今後の試験に向けての学習方法をアドバイスしましょう。
新しい順に基本情報技術者試験の過去問題を解く
科目 A 免除試験の内容は、試験時間と問題数が減ったこと以外は、従来の午前免除試験と同様です。 したがって、これまでと同様に「過去問題を数多く解いて、できなかった問題をできるようになるまで練習する」ということが、最も効率的かつ効果的な学習方法です。
現時点では、科目 A 試験の過去問題はないので、旧制度の午前試験の過去問題を解いてください。 特定の年度からよく出るということはないので、新しい順に過去問題を解いていくとよいでしょう。 古い過去問題の中には、時代に合わないものがあるからです。
他の試験区分の問題を解く必要はない
「基本情報技術者試験の過去問題だけではなく、よく出題されている応用情報技術者試験の過去問題も解いた方がよいのではないか?」と思われるかもしれませんが、その必要はないでしょう。 なぜなら、先ほど図 1 に示した過去問題の出典は、まったく同じ問題が出た年度と試験区分を示したものであり、同じテーマの問題であれば、基本情報技術者試験の過去問題にも出ているからです。
これは、当然のことですが、基本情報技術者試験には、基本情報技術者試験の出題範囲を超えた問題が出るはずがありません。 基本情報技術者試験の対策には、基本情報技術者試験の過去問題を解けばよいのです。
例として、今回の科目 A 免除試験の問 26 を見てみましょう。 以下に問題を示します。 テーマは、 SDN ( Software Defined Network )であり、同じ問題が、平成 29 年度 秋期 応用情報技術者試験の問 35 として出ています。
ONF (Open Networking Foundation) が標準化を進めている OpenFlow プロトコルを用いた SDN (Software Defined Networking) の説明として,適切なものはどれか。
- ア
- 管理ステーションから定期的にネットワーク機器の MIB (Management Information Base) 情報を取得して,稼働監視や性能管理を行うためのネットワーク管理手法
- イ
- データ転送機能をもつネットワーク機器同士が経路情報を交換して,ネットワーク全体のデータ転送経路を決定する方式
- ウ
- ネットワーク制御機能とデータ転送機能を実装したソフトウェアを,仮想環境で利用するための技術
- エ
- ネットワーク制御機能とデータ転送機能を論理的に分離し,コントローラと呼ばれるソフトウェアで,データ転送機能をもつネットワーク機器の集中制御を可能とするアーキテクチャ
(この問題の正解は、選択肢エです)
同じ問題ではなくても、 SDN をテーマにした問題が、基本情報技術者試験の過去問題にあります。 以下は、平成 29 年度 春期 基本情報技術者試験の問 35 です。 この問題を練習しておけば、先ほどの応用情報技術者試験の問題も解けるはずです。
OpenFlow を使った SDN (Software-Defined Networking) の説明として,適切なものはどれか。
- ア
- RFID を用いる IoT (Internet of Things) 技術の一つであり,物流ネットワークを最適化するためのソフトウェアアーキテクチャ
- イ
- 音楽や動画,オンラインゲームなどの様々なソフトウェアコンテンツをインターネット経由で効率的に配信するために開発された,ネットワーク上のサーバの最適配置手法
- ウ
- データ転送と経路制御の機能を論理的に分離し,データ転送に特化したネットワーク機器とソフトウェアによる経路制御の組合せで実現するネットワーク技術
- エ
- データフロー図やアクティビティ図などを活用して,業務プロセスの問題点を発見し改善を行うための,業務分析と可視化ソフトウェアの技術
(この問題の正解は、選択肢ウです)
以上、試験対策講座の講師として、誠に勝手ながら、試験問題の講評をさせていただきました。
今回の午前免除試験に合格できた人は、ここで気を緩めずに、科目 B 試験の学習を始めてください。 残念な結果になってしまった人は、ここで気落ちせずに、次回の科目 A 免除試験に向けて学習を続けてください。
いずれの場合も、コツコツと学習を続けていれば、必ず良い結果が得られるはずです。 皆様のご健闘をお祈り申し上げます!
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※独習ゼミは、受験ナビ運営のSEプラスによる試験対策eラーニングです。

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大手電気メーカーでPCの製造、ソフトハウスでプログラマを経験。独立後、現在はアプリケーションの開発と販売に従事。その傍ら、書籍・雑誌の執筆、またセミナー講師として活躍。軽快な口調で、知識0ベースのITエンジニアや一般書店フェアなどの一般的なPCユーザの講習ではダントツの評価。
お客様の満足を何よりも大切にし、わかりやすい、のせるのが上手い自称ソフトウェア芸人。
主な著作物
- 「プログラムはなぜ動くのか」(日経BP)
- 「コンピュータはなぜ動くのか」(日経BP)
- 「出るとこだけ! 基本情報技術者」 (翔泳社)
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