基本情報技術者試験はどう変わる? 開発者向けから「デジタル人材」向け資格へ ~試験要綱とシラバス変更点(科目 B 試験など)を調査

IPA から 2023 年 4 月 基本情報技術者試験の試験制度が大きく変わることが発表されました。 通年試験化、午後試験の大幅な変更といったトピックに注目が集まる中、試験要綱やシラバスも同時に改定されました。

ここではその試験要項とシラバスの変更点を深掘りしました。 すると、従来の “開発者の登竜門” という資格の位置づけから、より広い対象となる DX に必要な “デジタル人材” 向けに変化したことがわかりました。

 

まずは試験要項から確認しましょう。

「情報セキュリティマネジメント試験、基本情報技術者試験における実施方式、出題範囲などの変更について(試験要綱抜粋)」(変更箇所表示版)

試験要綱で対象者像が大きく変化。 デジタル人材の輩出が目的に

変更前
高度 IT 人材となるために必要な基本的知識・技能をもち,実践的な活用能力を身に付けた者
変更後
IT を活用したサービス,製品,システム及びソフトウェアを作る人材に必要な基本的知識・技能をもち,実践的な活用能力を身に付けた者

「高度 IT 人材」と “開発者” を意識した文章から、 「活用および作る人材」と表現が変化しています。 これはノーコード / ローコードツールの普及により開発者ではない IT ユーザでもソフトウェアを組み合わせて作ることが増えたことに伴う変更と考えられます。

つまり基本情報技術者試験は従来の “開発者” の登竜門から、より垣根を広くした DX に必要な “デジタル人材” への登竜門というポジションを狙ったのであろう、ということが見て取れます。

期待する技術水準で IT 企業だけではなく事業会社も含む表現に変更

対象者像が変わったことをうけ、期待する技術水準も変更されました。

変更前
需要者(企業経営,社会システム)が直面する課題に対して,情報技術を活用した戦略立案に参加する。
変更後
組織及び社会の課題に対する, IT を活用した戦略の立案,システムの企画・要件定義に参加する。

「需要者」という委託を受ける側の表現から、「組織及び社会の課題」と変化しました。 これは先程述べた、対象者像が “IT ユーザ” にも広がったことで、従来の “IT 企業” だけではなく “事業会社” も含まれるようになった証左です。

 

またレベルについても変化が見られます。

変更前
上位者の方針を理解し,自らソフトウェアを開発できる。
変更後
上位者の方針を理解し,自らプログラムを作成できる。

ソフトウェアという複数のプログラムやミドルウェアを意識した開発ではなく、あくまでプログラミング能力が求められるレベルに変化しました。 これが後述する午後の選択問題を廃止するという理由になったと考えられます。

また、従来の “開発者” の登竜門という位置づけであれば、詳細設計までが担当業務と考えられてきましたが、事業会社の “デジタル人材” は DX をリードする立場にもなるため、担当業務が拡大しました。

追加
上位者の指導の下に,システムの企画・要件定義に参加できる。

 

このように基本情報技術者試験の対象者像が “開発者” も含めた “デジタル人材” へ変化したことが試験要綱からわかります。

採点方式を変更し、デジタル人材をより増やす方向へ

変更前
60 点以上
変更後
IRT による採点方式に変更し 600 点以上 1000 点満点

IT パスポート試験でも採用されている IRT の採点方式が基本情報技術者試験でも採用されるようになります。 この IRT (Item Response Theory) は項目応答理論と呼ばれ、各回の試験の難易度を調整するため、毎回、出題した問題ごとに採点の比重を変える方式です。

通年試験となり、試験難易度の公平性を保つ上では重要な仕組みなので、受験者を増やして “デジタル人材” を増やそうとする意図がここでもわかります。

ただ、一方で受験者が勉強する上では、従来の午後試験で行っていた配点による対策のメリハリはつけにくくなりました。

科目 B 試験における変更で、デジタル人材向けのレベルに

科目 A 試験(旧午前試験)では出題数 ( 80 問から 60 問に変更) と制限時間 ( 150 分から 90 分に変更) が変更されたぐらいで、試験範囲の変更はありません。

多く変更されたのが科目 B 試験(旧午後試験)です。

変更前
出題数 11 問
情報セキュリティ (選択必須) 1 問 / アルゴリズム (選択必須) 1 問
テクノロジ系・マネジメント系・ストラテジ系から 4 問出題 (選択問題)
プログラミング(アセンブラ・ C 言語・ Java ・ Python ・表計算 それぞれ 1 問) 5 問出題
大問(長文読解 [複数設問])
解答数 5 問
必須選択 2 問
選択問題 2 問
プログラミング 1 問
変更後
出題数 20 問
fiber_new 情報セキュリティから 4 問とアルゴリズムから 16 問を出題
プログラミング的思考力を問う擬似言語による出題に統一
選択問題とプログラミング言語の選択は廃止
小問(2 ページ弱の短文と単問)
解答数: 20 問
全問必須選択

従来は各プログラム言語の “プログラムを読める” ことが要求されてきましたが、 “プログラミング思考” を問う問題に変更されます。 各言語を習得する時間が減り、アルゴリズム・擬似言語に集中できる時間が増えました。

また従来、選択分野で出題されたデータベース、ネットワークなども廃止され、そこで必要とされた SQL 、 ER 図、ネットワーク図、 IP アドレスのような各要素技術を深掘りする必要はありません(引き続き、科目 A 試験 [従来の午前試験] レベルの知識は必要です)。

これは冒頭の対象者像の変化、 “デジタル人材” を多く輩出するための変更と考えると合点がいきます。 逆に開発者としての登竜門を “応用情報技術者試験” に据えるという思惑があるのかも知れません。

シラバスを変更し「プログラミング思考」に変化

ここからは試験シラバスと呼ばれる出題範囲を記した資料で、変更前と変更後の差分を確認しましょう。 なお、シラバスには従来通り、科目 A 試験、科目 B 試験による試験範囲の違いは明記されていません。

「基本情報技術者試験 シラバス 通年試験化に伴う変更内容」(変更箇所表示版)
「情報セキュリティマネジメント試験、基本情報技術者試験における実施方式、出題範囲などの変更について(試験要綱抜粋)」(変更箇所表示版)

アルゴリズム

シラバス上は “擬似言語” を追加しただけの変更です。

目標
変更前
アルゴリズム,流れ図の基本的な考え方,表現方法を修得し,適用する。
変更後
アルゴリズムの基本的な考え方と,流れ図や擬似言語による表現方法を修得し,適用する。

ただし、これは後述しますが、サンプル問題を見ると、その擬似言語の記述方法に変更がありました。

また、 5/25 に IPA が補足してアルゴリズムの試験範囲を発表しました。 詳細は以下のとおりです。

looks_one プログラミング全般に関すること
実装するプログラムの要求仕様(入出力,処理,データ構造,アルゴリズムほか)の把握,使用するプログラム言語の仕様に基づくプログラムの実装,既存のプログラムの解読及び変更,処理の流れや変数の変化の想定,プログラムのテスト,処理の誤りの特定(デバッグ)及び修正方法の検討 など
注記 プログラム言語について,基本情報技術者試験では擬似言語を扱う。
looks_two プログラムの処理の基本要素に関すること
型,変数,配列,代入,算術演算,比較演算,論理演算,選択処理,繰返し処理,手続・関数の呼出し など
looks_3 データ構造及びアルゴリズムに関すること
再帰,スタック,キュー,木構造,グラフ,連結リスト,整列,文字列処理 など
looks_4 プログラミングの諸分野の適用に関すること
数理・データサイエンス・AI などの分野を題材としたプログラム など

「情報セキュリティマネジメント試験、基本情報技術者試験における実施方式、出題範囲などの変更について(試験要綱抜粋)」(変更箇所表示版) より

これまでの試験でもシラバスに掲載されていましたが、基本要素とデータ構造及びアルゴリズムに関することがより明確になりました。 ここに挙げられた論理演算や再帰などは最低限、試験合格にあたってはマスターすべき内容となります。

情報セキュリティ

IPA の補足発表で正式に科目 B 試験で情報セキュリティとアルゴリズムのみが出題されることになり、情報セキュリティの試験範囲も発表されました。

looks_5 情報セキュリティの確保に関すること
情報セキュリティ要求事項の提示(物理的及び環境的セキュリティ,技術的及び運用のセキュリティ),マルウェアからの保護,バックアップ,ログ取得及び監視,情報の転送における情報セキュリティの維持,脆弱性管理,利用者アクセスの管理,運用状況の点検 など

プログラミング

従来プログラム言語で求めていた内容が、この “プログラミング” の中項目に移行されてきました。

特筆すべきは “オブジェクト指向” です。 これは従来 Java や Python で求めれていました。 これに伴い “擬似言語でオブジェクト指向を表現する” 記述方法が新しく追加されます。

(以下はすべて追加された項目)

目標

プログラミングの基礎を修得し,適用する。

内容
  1. データ型と変数
    プログラム言語で使用される代表的なデータ型と,変数の概念を理解する。
    用語例整数型,実数型,論理型,文字型,文字列型,抽象データ型,構造型,代入
  2. 演算
    プログラム言語における代表的な演算を理解する。
    用語例算術演算,比較演算,論理演算,ビット演算
  3. 制御構造
    プログラム言語の基本的な制御構造を理解する。
    用語例選択処理,繰返し処理
  4. 手続,関数
    プログラムにおける,手続,関数の概念とそれらの使用方法を理解する。
    用語例引数,戻り値,局所変数
  5. オブジェクト指向プログラミング
    クラスやメソッドを使用したオブジェクト指向プログラミングの考え方を理解する。
    用語例コンストラクタ,メンバ変数,オーバーライド,オーバーロード

プログラム言語

特筆すべき事項はありません。

Python は過去問題が公開されないまま、合計 5 回の出題で終了することになりました。

目標
変更前
プログラム言語の種類,特徴,基本的な記述方法を修得し,適用する。
変更後
プログラム言語の種類,特徴,基本的な記述方法を理解し,適用する。
削除
C,Java,Python,アセンブラ言語のプログラム作成方法を修得し,適用する。
削除
表計算ソフトの活用方法を修得し,適用する。
内容
削除
looks_one C 言語 から looks_6 表計算ソフトまで

ご覧いただいた通り、シラバス “だけ” を見ると、擬似言語で変更が予想されるほかは、特に目立った変更点はありませんでした。

科目 B 試験のサンプル問題でわかった擬似言語の変更

試験要綱、シラバスと合わせて、 IPA から科目 B 試験のサンプル問題も公開されました。

「基本情報技術者試験 科目 B 試験のサンプル問題」

これを確認すると、従来の擬似言語の記法が変わったことがわかります。

infoスマートフォンでご覧の際、プログラムは右スクロールできます

(以下、変更前のプログラムは午後問題の巻頭の仕様書から抜粋。 変更後のプログラムはすべて上記サンプル問題から抜粋。)

if 文

変更前
▲ 条件式
|  処理 1
+---
|  処理 2
▼
変更後
if (age が 3 以下)
  ret ← 100
elseif ( "[   空欄   ]" )
  ret ← 300
else
  ret ← 500
endif
return ret

for 文

変更前
■ 条件式
|  処理
■
変更後
for (i を 1 から matrixの行数 まで 1 ずつ増やす)
  for (j を 1 から matrixの列数 まで 1 ずつ増やす)
    if (matrix[i, j] が 0 でない)
      sparseMatrix[1]の末尾 に iの値 を追加する
      sparseMatrix[2]の末尾 に jの値 を追加する
      sparseMatrix[3]の末尾 に matrix[i, j]の値 を追加する
    endif
  endfor
endfor

クラス

追加
大域: ListElement: listHead ← 未定義の値
○append(文字型: qVal)
  ListElement: prev, curr
  curr ← ListElement(qVal)
  if (listHead が "[   空欄 a   ]" )
    listHead ← curr
  else
    prev ← listHead
    while (prev.next が 未定義でない)
      prev ← prev.next
    endwhile
    prev.next ← "[   空欄 b   ]"
  endif

従来の擬似言語の独特な矢印を使った記述方法ではなく、 Ruby や PHP といったスクリプト言語に近い記述方法(型推論あり)に変わり、実際のプログラミングに近くなりました。 これにより直感的に理解しやすくなりました。

また、先程シラバスのアルゴリズムで触れたオブジェクト指向の構文(大域 がクラス ListElement の宣言、 ○append がメソッド)が追加されました。

 

なお、このサンプル問題の解説は、後日、お馴染みの矢沢久雄さんに執筆いただき、記事を公開する予定です。

まとめ

2023 年 4 月から大きく試験制度を変更することになった基本情報技術者試験の変更点を、対象者像からシラバスまで詳しく見てきました。

通年試験化、午後問題の変更が大きなトピックとされていますが、対象者像を見ると、より広い対象を目指した試験制度の変更であることがわかります。 これを機に、 IT 企業で開発者になりたい方だけでなく、事業会社で DX を主導するユーザやプロダクトマネージャのような方にもふさわしい資格になる、ということが言えそうです。

 

基本情報技術者試験 受験ナビでは今後も引き続き、この試験制度の改定を詳しくレポートして参ります。

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