IT初心者のための基本情報ではじめる プロジェクトマネジメント 入門 ~マネジメント分野 1
この連載は、これから IT の勉強をはじめる人を対象としたものです。 基本情報技術者試験の出題分野ごとに、仕組み、主要な用語、および過去問題を紹介します。 受験対策としてだけでなく、 IT の基礎知識を幅広く得るために、ぜひお読みください。
今回は、「マネジメント」その 1 として プロジェクトマネジメント の分野を取り上げます。
もくじ
プロジェクトマネジメントが必要な理由
図 1 は、情報処理技術者試験の試験要綱( Ver.4.9 )に示された基本情報技術者試験の対象者像です。 ここで、注目してほしいのは、赤色文字で示した
「情報技術を活用した戦略立案」
「信頼性・生産性の高いシステムを構築」
「安定的な運用サービスの実現」
です。
基本情報技術者試験は、社会人である IT エンジニアを対象とした試験です。 IT エンジニアは、テクノロジ(技術)がわかるだけではいけません。 信頼性・生産性の高いシステムを構築して、安定的な運用サービスの実現するためのマネジメント(管理)の知識や、情報技術を活用した戦略立案のためのストラテジ(戦略)の知識も必要なのです。
だから、基本情報技術者試験の問題は、テクノロジ系、マネジメント系、ストラテジ系から構成されているのです。 この連載では、これまでテクノロジ系を取り上げてきましたが、今回と次回はマネジメント系を取り上げ、次々回はストラテジ系を取り上げます。どれも IT エンジニアに必須の知識です。
- 対象者像
- 高度 IT 人材となるために必要な基本的知識・技能をもち、実践的な活用能力を身に付けた者
- 業務と役割
- 基本戦略立案又は IT ソリューション・製品・サービスを実現する業務に従事し、上位者の指導の下に、次のいずれかの役割を果たす。
- 需要者(企業経営、社会システム)が直面する課題に対して、情報技術を活用した戦略立案に参加する。
- システムの設計・開発を行い、又は汎用製品の最適組合せ(インテグレーション)によって、信頼性・生産性の高いシステムを構築する。また、その安定的な運用サービスの実現に貢献する。
図 1 基本情報技術者試験の対象者像
プロジェクトマネジメントの流れ
マネジメント系の出題分野は、プロジェクトマネジメントとサービスマネジメントに大きく分けられています。 今回は、プロジェクトマネジメントを取り上げ、次回はサービスマネジメントを取り上げます。
プロジェクトマネジメントとは、何でしょう?
プロジェクトは、プロジェクトの目標を達成するために遂行する、開始日と終了日とをもち、調整し、かつ、管理する活動で構成するプロセスの独自性のある集合である
と示されています。 さらに
「プロジェクトマネジメントとは、方法、ツール、技法及びコンピテンシーを、あるプロジェクトに適用することであり、複数のプロセスを通じて遂行するものである」
と示されています。 コンピテンシー( competency )とは「職務や役割において優れた成果を発揮する個人の能力や行動特性」という意味です。
やや難しい説明なので、ポイントだけを抽出すると、
- プロジェクトとは
- 「目標があって、それを開始日と終了日の間に実現するもの」
- プロジェクトマネジメントとは
- 「プロジェクトを構成する複数のプロセス(工程)に、技術や人材を効果的に適用すること」
です。
ここで、プロセスという言葉が出てきましたが、プロセスの種類には
- 立ち上げのプロセス群
- 計画のプロセス群
- 実行のプロセス群
- 管理のプロセス群
- 終結のプロセス群
があり、これらがプロジェクトマネジメントの流れです。
プロジェクトマネジメントの対象は
- 統合の対象群
- ステークホルダの対象群
- スコープの対象群
- 資源の対象群
- 時間の対象群
- コストの対象群
- リスクの対象群
- 品質の対象群
- 調達の対象群
- コミュニケーションの対象群
です。 ステークホルダ( stakeholder )とは「あらゆる利害関係者」という意味です。 プロジェクトのステークホルダには、株主、債権者、経営者、労働者、仕入先、販売先、金融機関、行政機関などがあります。
プロジェクトマネジメントの主要な用語
図 2 は、プロジェクトマネジメントの用語です。 膨大な数の用語があることを知っていただくために、シラバスの「用語例」に示されたすべての用語を、テーマごとに示しています(重複して示している用語もいくつかあります)。
ただし、ざっと目を通してみると、ほとんどの用語の意味は、一般常識で理解できるものだとわかるでしょう。 一般常識では理解しにくいと思われる用語(それほど多くありません)は、赤色文字で示してあります。 これらが、試験対策における主要な用語ということになるでしょう。 すぐ後で示す過去問題も、主要な用語に関するものです。
- プロジェクトマネジメント
- プロジェクト、プロジェクトマネジメント、プロジェクトの環境、プロジェクトガバナンス、プロジェクトライフサイクル、プロジェクトの制約、 JIS Q 21500 、 PMBOK ®( Project Management Body of Knowledge: プロジェクトマネジメント知識体系)、プロジェクトスポンサー、プロジェクトマネージャ、プロジェクトマネジメントチーム、プロジェクトチーム、 PMO( Project Management Office )、作業計画立案、進捗管理、品質管理、コスト管理、リスク管理、変更管理、問題発見、問題報告、対策立案、文書化、コミュニケーション
- プロジェクトの統合
- プロジェクト作業規定書、プロジェクト憲章、プロジェクト全体計画(プロジェクト計画及びプロジェクトマネジメント計画)、変更要求、承認された変更、変更登録簿、是正処置、プロジェクト完了報告書、プロジェクト又はフェーズの終結報告書、得た教訓文書、ベースライン、 CCB ( Change Control Board: 変更管理委員会)
- プロジェクトのステークホルダ
- ステークホルダ登録簿、ステークホルダ分析
- プロジェクトのスコープ
- スコープ規定書、 WBS 、 WBS 辞書、活動リスト、進捗データ、スコープ(作業及び成果物)、活動、ワークパッケージ、プロジェクトスコープのクリープ
- プロジェクトの資源
- 資源要求事項、プロジェクトの組織図、 RAM ( Responsibility Assignment Matrix: 責任分担マトリックス)、 OBS( Organizational Breakdown Structure: 組織ブレークダウンストラクチャ)
- プロジェクトの時間
- 活動順序、活動所用期間見積り、活動リスト、スケジュールの制約、スケジュール、類推見積り、パラメトリック見積り、三点見積り、ボトムアップ見積り、スケジュールネットワーク分析、 PERT 、 CPM ( Critical Path Method: クリティカルパス法)、 PDM ( Precedence Diagramming Method: プレシデンスダイアグラム法)、アローダイアグラム、ガントチャート、マイルストーン、クラッシング、ファストトラッキング、ラグ、リード、 EVM ( Earned Value Management )、大日程計画表(マスタスケジュール)、中日程計画表(工程別作業計画)、小日程計画表(週間作業計画)、進捗報告
- プロジェクトのコスト
- 予算、実コスト、予想コスト、類推見積り、パラメトリック見積り、三点見積り、ボトムアップ見積り、ファンクションポイント法、 LOC ( Lines of Code )法、 COCOMO ( Constructive Cost Model )、 COCOMOⅡ ( Constructive Cost ModelⅡ )、 EVM ( Earned Value Management )、コストベースライン
- プロジェクトのリスク
- リスク登録簿、優先順位付けされたリスク、リスクの定性的分析技法、リスクの定量的分析技法
- プロジェクトの品質
- 品質要求事項、品質計画、進捗データ、検査報告書、是正処置、予防処置、プロジェクトにおける品質管理測定値の活用(データ表現技法の選択など)
- プロジェクトの調達
- 契約書又は注文書、プロジェクトにおける調達戦略(契約のタイプの選択など)
- プロジェクトのコミュニケーション
- 進捗報告書、配布情報、双方向コミュニケーション、プッシュ型コミュニケーション、プル型コミュニケーション、電子メール、ボイスメール、テレビ会議、紙面、コミュニケーションチャネル
図 2 シラバスに示されたプロジェクトマネジメントの用語
プロジェクトマネジメントの過去問題
プロジェクトマネジメントの分野の過去問題を 3 問ほど紹介しましょう。
WBS に関する問題
最初は、 WBS に関する問題です。
WBS は、とてもよく出題される用語であり、試験によく出る用語の Top 10 に入ります(筆者の独自調査)。
プロジェクトスコープマネジメントにおいて, WBS 作成のプロセスで行うことはどれか。
- ア
- 作業の工数を算定して,コストを見積もる。
- イ
- 作業を階層的に細分化する。
- ウ
- 作業を順序付けして,スケジュールとして組み立てる。
- エ
- 成果物を生成するためのアクティビティを定義する。
WBS は、Work Breakdown Structure の略であり「作業分解構成図」と訳されています。 WBS は、プロジェクトを構成する作業を、階層的に分解した図もしくは文書です。 階層的とは、大きく分解した作業を、段階的に詳細化するということです。
したがって、この問題の答えは、選択肢イの「作業を階層的に細分化する」です。 WBS を作ることによって、プロジェクトで行うべき作業の範囲と内容が明確になり、管理がしやすくなります。
アローダイアグラムに関する問題
次は、アローダイアグラムに関する問題です。 これは、マネジメント系の鉄板問題と呼べるものであり、試験によく出る問題の Top 3 に入ります(筆者の独自調査)。
あるプロジェクトの日程計画をアローダイアグラムで示す。 クリティカルパスはどれか。
ア A, C, E, F
イ A, D, G
ウ B, E, F
エ B, E, G
アローダイアグラムの問題を解くために必要な知識
アローダイアグラムは、プロジェクトを構成する作業の順序を示した図です。
作業を矢印( arrow = 矢印)で表し、その上に作業名(この問題では、 A, B、C, D, E, F, G が作業名です)と所要日数を書き添えます。
作業が切り換わる日を結合点と呼び、円で表します。
破線で示されたダミー作業は、実際の作業ではありませんが、作業の順序がつながっていることを意味します。 ダミー作業は、所要時間 0 の作業として取り扱います。
アローダイアグラムの左端にある結合点はプロジェクトの開始日であり、右端にある結合点はプロジェクトの終了日です。
- アローダイアグラムを左端から右端にたどると、プロジェクトが最短で何日間で完了するかがわかります。
- それがわかってから、アローダイアグラムを右端から左端にたどると、クリティカルパスが求められます。
クリティカルパスは、余裕がない作業をつないだ流れであり、もしもその流れに遅れが生じると、プロジェクト全体に遅れが生じてしまいます。 クリティカルパス( critical path )は、直訳すると「極めて重要な道筋」という意味です。 管理の対象として、極めて重要な道筋なのです。
アローダイアグラム問題の定番の解き方
この問題では、クリティカルパスを求めます。 そのためには、定番の方法があります。
- まず、ダミー作業の矢印の上に所要日数として 0 を書き込んでください。
- 次に、すべての結合点に 2 階建ての四角形を書いてください。
- それができたら、結合点を左端から右端にたどって、四角形の下段に、それぞれの結合点の最早開始日(結合点から先の作業を最も早くて、いつから始められるか)を書き込んでください。
- 左端の結合点の最早開始日に 0 を書き込んでから、他の結合点をたどって最早開始日を書き込んでいきます。
- 注意してほしいのは、複数の作業が結合する点では、最も遅い作業がたどりつく日を最早開始日にすることです。
図 3 の 1 は、すべての結合点に再早開始日を赤色文字で書き込んだ結果です。 右端の結合点の再早開始日は 14 なので、このプロジェクトは最短で 14 日間で完了することがわかりました。
- 今度は、結合点を右端から左端にたどって、四角形の上段に、最遅開始日(結合点から先の作業を最も遅くて、いつから始めなければならないか)を書き込んでください。
- 右端の結合点に 14 を書き込んでから、他の結合点を逆方向にたどって最遅開始日を書き込んでいきます。
- 注意してほしいのは、複数の作業を開始する点では、最も早い作業を始めなければならない日を最遅開始日にすることです。
最早開始日(いつから始められるか)と最遅開始日(いつまでに始めなければならないか)が同じになる作業は、余裕がないことがわかります。
図 3 の 2 は、すべての結合点に最遅開始日を青色文字で書き込んだ結果です。 余裕がない作業は、青色の太い矢印で示しています。
たとえば、作業 F は 9 日に始められて、 9 日に始めなければならないので、余裕がありません。
作業 G は、 9 日に始められて、 10 日に始めなければならなので、 1 日の余裕があることがわかります。
余裕がない作業は、 B 、 E 、 F であり、それらをつないだ流れがクリティカルパスです。 したがって、この問題の答えは、選択肢ウの「 B, E, F 」です。
ファンクションポイント法に関する問題
最後は、ファンクションポイント法に関する問題です。
ファンクションポイント法は、ソフトウェア開発のコストを見積る技法の一種です。
シラバスには、パラメトリック見積り、三点見積り、ボトムアップ見積り、ファンクションポイント法、 LOC ( Lines of Code )法、 COCOMO( Constructive Cost Model )、 COCOMOⅡ( Constructive Cost ModelⅡ )などが示されていますが、試験にはファンクションポイント法が圧倒的によく出題されます。
あるソフトウェアにおいて,機能の個数と機能の複雑度に対する重み付け係数は表のとおりである。このソフトウェアのファンクションポイント値は幾らか。 ここで,ソフトウェアの全体的な複雑さの補正係数は 0.75 とする。
ユーザファンクションタイプ | 個数 | 重み付け係数 |
---|---|---|
外部入力 | 1 | 4 |
外部出力 | 2 | 5 |
内部論理ファイル | 1 | 10 |
ア 18 イ 24 ウ 30 エ 32
ファンクションポイント法では、
- ソフトウェアを構成する機能( function = 機能)ごとにに、複雑さに応じた点数( point = 点数)を付ける
- すべての点数を合計した値に補正係数を掛ける
それをファンクションポイント値とします。 この問題では、複雑さに応じた点数のことを重み付け係数と呼んでいます。
ファンクションポイント値の計算方法は、とてもシンプルです。 それぞれの機能の個数と重み付け係数を掛けて、それらを合計して補正係数を掛けます。 問題に示された値を使って計算すると、
になります。 したがって、選択肢アの「 18 」が正解です。
今回は、「マネジメント」その 1 として「プロジェクトマネジメント」の分野のポイント、主要な用語、技法、および過去問題を紹介しました。
次回は、「マネジメント」その 2 として「サービスマネジメント」の分野を取り上げます。
それでは、またお会いしましょう!
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主な著作物
- 「プログラムはなぜ動くのか」(日経BP)
- 「コンピュータはなぜ動くのか」(日経BP)
- 「出るとこだけ! 基本情報技術者」 (翔泳社)
- 「ベテランが丁寧に教えてくれる ハードウェアの知識と実務」(翔泳社)
- 「ifとelseの思考術」(ソフトバンククリエイティブ) など多数