IT初心者のための基本情報ではじめる サービスマネジメント 入門 ~マネジメント分野 2


2023-04-07 更新

この連載は、これから IT の勉強をはじめる人を対象としたものです。 基本情報技術者試験の出題分野ごとに、仕組み、主要な用語、および過去問題を紹介します。 受験対策としてだけでなく、 IT の基礎知識を幅広く得るために、ぜひお読みください。

今回は、「マネジメント」その 2 として サービスマネジメント の分野を取り上げます。

サービスマネジメントの構成と流れ

「サービス( IT サービス)」とは、コンピュータシステムによって顧客に提供される役務です。 「サービスマネジメント」とは、サービスの計画立案、設計、移行、提供、および改善のために、組織の活動と資源を指揮し管理する一連の能力やプロセスです。

現在、世界中で活用されているサービスマネジメントのフレームワーク(ひな形となるもの)として「 ITIL ( Information Technology Infrastructure Library 、アイティル)」という書群があります。

ITIL ® info

  • サービス・ストラテジ(戦略)
  • サービス・デザイン(設計)
  • サービス・トランジション(移行)
  • サービス・オペレーション(提供)
  • 継続的なサービス改善

から構成されています。
(infoITIL ® は AXELOS Limited の登録商標です。 以降は文面の読みやすさから ® を省略して表記しますが、あくまで商標登録があるものとしてお読みください)

サービスマネジメントでは、サービス・ストラテジに基づいて、サービス・デザイン → サービス・トランジション → サービス・オペレーションという流れを、継続的なサービス改善をしながら繰り返すのです(図 1 )。

図 1 ITIL におけるサービスマネジメントの構成と流れ

すぐ後で示すサービスマネジメントに関する用語の中にある「サービスポートフォリオ(顧客に提供するサービスをまとめたもの)」や「サービス・パイプライン(まだ顧客に提供していないサービスをまとめたもの)」などは、 ITIL の用語です。

サービスマネジメントの主要な用語

図 2 は、サービスマネジメントに関する用語です。 前回のプロジェクトマネジメントと同様に、シラバスの「用語例」に示されたすべての用語をテーマごとに示しています。 膨大な数の用語がありますが、ざっと目を通してみると、ほとんどの用語の意味は、一般常識で理解できるものだとわかるでしょう。

一般常識では理解しにくいと思われる用語(それほど多くありません)は、赤色文字で示してあります。 これらが、試験対策における主要な用語ということになるでしょう。 この後で示す過去問題も、主要な用語に関するものです。

図 2 シラバスに示されたサービスマネジメントの用語

サービスマネジメント
サービス、サービスコンポーネント、サービス品質、サービスマネジメント、サービスライフサイクルの段階(計画立案、設計、移行、提供、改善)、サービスマネジメントシステム、サービスの要求事項、顧客、サービス提供者、 JIS Q 20000 の規格群( ISO/IEC 20000 シリーズ)ITILSLA 、サービス可用性、信頼性、サービス時間、応答時間、サービス及びサービス、マネジメントシステムのパフォーマンス
サービスマネジメントシステムの計画及び運用
PDCAJIS Q 9001 、マネジメントシステム、資源、力量、認識、コミュニケーション、文書化した情報、知識、サービスの要求事項、変更要求、サービスポートフォリオサービス・パイプライン、サービスの状態(計画中、開発中、稼働中、廃止など)、サービスカタログ、資産管理( IT アセットマネジメント( ITAM : IT asset management ))、ソフトウェアアセットマネジメント( SAM )、ライセンスマネジメント、構成管理、構成品目( CI )、構成情報、版(バージョン)、事業関係管理、顧客関係、顧客満足、サービス満足度、苦情、サービスレベル管理、サービスレベル目標、パフォーマンス、供給者管理、外部供給者、内部供給者、供給者として行動する顧客、契約、アウトソーシングの利用、 SaaSPaaSIaaS などのクラウドサービスの利用、サービスの予算業務及び会計業務、財務管理、予算業務、会計業務、総所有費用( TCO )、需要、需要管理、需要予測、容量・能力(キャパシティ)、容量・能力計画、容量・能力管理、監視、しきい(閾)値、管理指標( CPU 使用率、メモリ使用率、ディスク使用率、ネットワーク使用率ほか)、変更管理、変更要求( RFC )、優先度、変更のカテゴリ(標準変更、通常変更、緊急変更など)、ロールバック(切り戻し)、変更諮問委員会( CAB )、変更実施後のレビュー( PIR )、サービスの設計及び移行、新規サービス又はサービス変更の計画、サービス受入れ基準、設計・開発、サービス設計書、非機能要件、構築、移行、運用サービス基準、業務及びシステムの移行、移行計画、移行リハーサル、移行判断、移行の通知、移行評価、運用テスト、受入れテスト、運用引継ぎ、リリース及び展開管理、リリース、緊急リリースを含むリリースの種類、展開、リリースの受入れ基準、受入れ試験環境、稼働環境、インシデント管理、インシデント、影響、記録、優先順位、解決目標時間、エスカレーション(機能的エスカレーション、階層的エスカレーション)、回避策、重大なインシデント、サービス要求管理、サービス要求、記録、緊急度、優先順位、実現、問題管理、問題、根本原因、予防処置、既知の誤り、サービス可用性管理、サービス可用性、信頼性、回復力、保守性、 MTBFMTTR 、事業継続計画( BCP )、サービス継続計画、復旧、 RTO (目標復旧時間)RPO (目標復旧時点)コールドスタンバイホットスタンバイウォームスタンバイ
パフォーマンス評価及び改善
サービスの報告、パフォーマンス、有効性、傾向情報、不適合、是正処置、継続的改善、ギャップ分析、 CSF ( Critical Success Factors :重要成功要因)KPI ( Key Performance Indicator :重要業績評価指標)
サービスの運用
システム運用管理、運用の資源管理(要員などの人的資源及びハードウェア、ソフトウェア、データ、ネットワークなどインフラストラクチャの技術的資源)、仮想環境の運用管理、ジョブの管理、データ管理、利用者の管理、運用オペレーション、スケジュール設計、ジョブスケジューリング、バックアップ、システムの監視と操作、アウトプットの管理、ジョブの復旧と再実行、運用支援ツール(監視ツール、診断ツール)、業務運用マニュアル、サービスデスク、 SPOC ( Single Point Of Contact )、コールセンター、 CTI ( Computer Telephony Integration )、 FAQ 、応対マニュアル、知識ベース、一次サポート、 AI の活用(チャットボットなど)
ファシリティマネジメント
ファシリティマネジメント、施設管理、建物管理(免震装置、アレスタなどのサージ防護デバイス、防災防犯設備、安全管理関連知識ほか)、電気設備( UPS 、自家発電設備ほか)、空調設備(空調機器、コールドアイルホットアイルほか)、通信設備( MDFIDF ほか)、施設・設備の維持保全、環境側面、グリーン IT

サービスマネジメントの過去問題

サービスマネジメントの分野の過去問題を 3 問ほど紹介しましょう。

SLA に関する問題

最初は、 SLA という用語に関する問題です。

問 57 平成 30 年度 春期

次の条件で IT サービスを提供している。 SLA を満たすことができる, 1 か月のサービス時間帯中の停止時間は最大何時間か。 ここで, 1 か月の営業日数は 30 日とし,サービス時間帯中は,保守などのサービス計画停止は行わないものとする。

    〔 SLA の条件〕

  • サービス時間帯は,営業日の午前8時から午後 10 時までとする。
  • 可用性を 99.5 % 以上とする。

ア 0.3  イ 2.1  
ウ 3.0  エ 3.6

SLA は、 Service Level Agreement の略語であり、「サービス水準の合意」という意味です。 SLA は、サービスの提供者と顧客の間で結ばれるサービスの水準の合意であり、サービスの品質、可用性、責任などについて取り決めます。

この問題は、可用性(サービスをどれだけ利用できるか)の取り決めです。 計算問題になっていますが、事前に特殊な計算式を覚えておく必要はありません。常識的な考えで計算できます。

サービス時間帯が午前 8 時から午後 10 時までなので、 1 日あたり 14 時間です。 1 か月の営業日数が 30 日なので、時間に換算すると

14 時間 × 30 日 = 420 時間

です。

可用性が 99.5 % 以上というのは、サービスを利用できる割合が全営業時間の 99.5 % 以上ということです。 したがって、サービスを停止できるのは、残りの 0.5 % 以下であり、最大で

420 時間 × 0.5 %
= 420 時間 × 0.005
= 2.1 時間

です。

選択肢イが正解です。

事業継続計画で用いられる用語に関する問題

次は、事業継続計画で用いられる用語に関する問題です。 事業継続計画とは、災害の発生に備えて立てられた事業の継続や復旧の計画です。 BCP ( Business Continuity Plan )という略語で示されることもあります。

問 57 令和元年度 秋期

事業継続計画で用いられる用語であり,インシデントの発生後,次のいずれかの事項までに要する時間を表すものはどれか。

  1. 製品又はサービスが再開される。
  2. 事業活動が再開される。
  3. 資源が復旧される。

ア MTBF  イ MTTR  
ウ RPO  エ RTO

問題の選択肢に示された MTBF 、 MTTR 、 RPO 、 RTO は、どれもシラバスの用語例に示されています。 これらの中で、事業継続計画で用いられる用語は、 RPO と RTO です。 このような略語の用語の意味は、何の略なのかを調べ、それを直訳して覚えるとよいでしょう。 これは、最初の問題の SLA でも同様です。

RPO
Recovery Point Objective (復旧、時点、目標)の略であり、復旧の目標としてインシデント発生の何時間前の状態に戻すかを示します。
RTO
Recovery Time Objective (復旧、時間、目標)の略であり、復旧の目標としてインシデント発生の何時間後にサービスを再開するかを示します。

ここでは、サービス、事業活動、資源の再開や復旧に要する時間を表す用語を選ぶので、 RTO が適切であり、選択肢エが正解です。

info_outlineMTBF MTTR に関する記事はこちら

稼働率の計算方法がわかる|かんたん計算問題

過電圧から情報システムを守るための手段に関する問題

最後は、過電圧から情報システムを守るための手段に関する問題です。 この問題は、落雷によって発生する瞬間的な過電圧を英語で何と言うかを知っていれば、正解できます。

問 57 平成 29 年度 秋期

落雷によって発生する過電圧の被害から情報システムを守るための手段として,有効なものはどれか。

サージ防護デバイス ( SPD ) を介して通信ケーブルとコンピュータを接続する。
自家発電装置を設置する。
通信線を,経路が異なる 2 系統とする。
電源設備の制御回路をディジタル化する。

落雷によって発生する瞬間的な過電圧を英語で「サージ」と呼びます。 サージ( surge )は、「大波」や「急上昇」という意味です。

したがって、選択肢アの「サージ保護デバイス( SPD )を介して通信ケーブルとコンピュータを接続する」が正解です。 SPD という略語が示されていますが、これは Surge Protective Device (大波、保護、装置)の略です。

今回は、「マネジメント」その 2 として「サービスマネジメント」の分野のポイント、主要な用語、技法、および過去問題を紹介しました。

次回は、「ストラテジ」の分野を取り上げます。

それでは、またお会いしましょう!

label 関連タグ
科目A試験は、
免除できます。
独習ゼミで科目A試験を1年間免除して、科目B試験だけに集中しましょう。
免除試験を受けた 74.9% の方が、
科目A免除資格を得ています。
科目A免除試験 最大 2 回の
受験チャンス !
info_outline
科目A免除試験 最大 2 回の
受験チャンス !
詳しく見てみるplay_circle_filled
label これまでの『基本情報ではじめる IT の勉強』の連載一覧 label 著者