令和7年度 基本情報技術者試験 公開問題の講評

2025年7月4日に、情報処理推進機構の Web ページで、令和7年度の基本情報技術者試験の公開問題が公開されました。
試験対策講座の講師として、誠に勝手ながら、公開問題の講評をさせていただきます。
今後、基本情報技術者試験を受験される皆様の参考になれば幸いです。
公開問題の内容
今回公開された公開問題の内容は、令和5年度と令和6年度と同様に、科目Aが20問だけで、科目Bが6問だけです。実際の試験は科目Aが60問で、科目Bが20問なので、かなり少なくなっています。
ただし、公開問題は、情報処理推進機構が「これが試験問題の具体例である」として正式に公開したものなので、試験対策において最も重要です。
以下に表1として、今回の公開問題の内容を示します。
筆者の講師経験から、以下のように設定しています。
・易:受講者のほぼ全員ができるもの
・中:受講者の半数ぐらいができるもの
・難:受講者の数名しかできない問題
●再利用
試験の区分(FE=基本情報技術者試験、AP=応用情報技術者試験、SG=情報セキュリティマネジメント試験)と年度を示しています。
同じ問題が複数の試験区分で何度か再利用されている場合もありますが、表に示した区分と年度は、それらの中から1つだけを示したものです。
また、過去問題の再利用でない場合は「なし」と示しています。
●集計結果
科目Aの難易度を集計すると、易が7問、中が13問、難が0問です。
科目Bの難易度を集計すると、易が0問、中が4問、難が2問です。
それぞれ、易が90%できて、中が50%できて、難が25%できるとすれば、正解率の期待値は以下の通りです。
科目A : (7問×0.9+13問×0.5+0問×0.25) ÷ 20問 = 64.0%
科目B : (0問×0.9+4問×0.5+2問×0.25) ÷ 6問 = 41.7%
実際の試験は、科目Aと科目Bの両方が1000点で、それぞれで600点以上が合格なので、正解率60%が合格の目安です。
表1-1 【科目A】令和7年度 公開問題の内容
問 | 分野 | テーマ | 難易度 | 再利用 |
---|---|---|---|---|
1 | 情報の基礎理論 | 事前学習済みのモデルのファインチューニング | 中 | なし |
2 | 情報の基礎理論 | 浮動小数点数の丸め誤差 | 易 | FE H19秋問4 |
3 | アルゴリズム | 二分探索木の値の大小関係 | 中 | なし |
4 | システム構成 | 稼働率の計算 | 中 | なし |
5 | ソフトウェア | ローコード開発ツール | 易 | なし |
6 | データベース | SQLのSELECT命令 | 易 | なし |
7 | ネットワーク | ネットワークの回線利用率の計算 | 中 | なし |
8 | セキュリティ | HTTPと比較してHTTPSだけが持つ特徴 | 中 | なし |
9 | セキュリティ | 暗号の危殆化に該当するもの | 中 | なし |
10 | セキュリティ | WAFの説明 | 易 | FE H28秋問42 |
11 | 開発技術 | E-Rモデルのエンティティの特徴 | 中 | なし |
12 | 開発技術 | オブジェクト指向プログラミングの多相性 | 中 | なし |
13 | 開発技術 | スクラムにおけるプロダクトオーナの役割 | 中 | なし |
14 | マネジメント系 | アローダイアグラムからプロジェクトの最短所要日数を求める | 中 | FE H27春問54 |
15 | マネジメント系 | 監査人が監査報告書に記載すべきもの | 易 | なし |
16 | ストラテジ系 | マーケットバスケット分析 | 易 | なし |
17 | ストラテジ系 | オプトアウトが有効な場合 | 中 | なし |
18 | ストラテジ系 | ロングテールを成功させる施策 | 易 | なし |
19 | ストラテジ系 | 利益を出すための客数の計算 | 中 | FE H16秋問75 |
20 | ストラテジ系 | カーボンフットプリントの説明 | 中 | なし |
※テクノロジ系(問1~問13)だけ、問題の分野を細かく示しています。
表1-2 【科目B】令和7年度 公開問題の内容
問 | 分野 | テーマ | 難易度 | 再利用 |
---|---|---|---|---|
1 | アルゴリズムとプログラミング(プログラムの基本要素) | 同じ値を返す二つの関数 | 中 | なし |
2 | アルゴリズムとプログラミング(プログラミングの諸分野への適用) | 1円玉、5円玉、10円玉を使ってn円にする組合せの総数 | 難 | なし |
3 | アルゴリズムとプログラミング(データ構造及びアルゴリズム) | スタックを実現するプログラム | 中 | なし |
4 | アルゴリズムとプログラミング(データ構造及びアルゴリズム) | 同じ文字列の並びをすべて探す | 中 | なし |
5 | アルゴリズムとプログラミング(プログラミングの諸分野への適用) | 予防接種の効果の集計結果から理論度数を得る | 難 | なし |
6 | 情報セキュリティ | データのバックアップ時間と承認 | 中 | なし |
令和5年度、令和6年度および令和7年度の公開問題の比較
現行制度になってから入手可能な公開問題は、令和5年度、令和6年度、および今回の令和7年度だけです。
表2に、それぞれの比較を示します。
令和5年度と令和6年度に比べて、令和7年度には大きな違いが3つあります。
【2】科目Aで他の試験区分の過去問題の再利用がなくなったこと
その理由を勝手に推測すると、これまでは、問題のストックが少ないことを、他の試験区分の問題の再利用で対処していましたが、新たな問題が作成されてストックが増えたので、他の試験区分の問題を削除したのではないか、ということです。
【3】科目Bの問題のアルゴリズムとプログラミングの難易度が上がったということ
これまでに公開されている問題では、難易度に「易」を付ける問題が数問かありましたが、令和7年度にはありません。その理由を勝手に推測すると、実際の試験でも難易度が上がっているか、もしくは、たまたま今回の公開問題で易しい問題を選ばなかったのでしょう。
実際の試験の内容が、今回の公開問題と同様に、科目Aで新しい問題が増え、科目Bの難易度が上がっているかどうかは、定かではありませんが(実際の試験を受けた人は、問題の内容を他者に知らせてはならないルールになっています)、これまで以上に気合いを入れて学習する必要があります。
科目Aは、過去問題や公開問題を練習するだけで合格点を取るのは困難でしょう。技術の仕組みをきちんと理解し、より多くの用語の意味を知る必要があります。
同様に、科目Bも、過去問題や公開問題を練習するだけで合格点を取るのは困難でしょう。何らかのプログラミング言語で、プログラミングの基礎をきちんと習得し、さらに、その言語で基本的なアルゴリズムとデータ構造をきちんと習得する必要があります。
表2 令和5年度〜令和7年度の公開問題の比較
年度 | 科目A 過去問題の再利用 |
科目A 正解率の期待値 |
科目B 過去問題の再利用 |
科目B 正解率の期待値 |
---|---|---|---|---|
令和5年度 | FE 9問 AP 3問 SG 0問 なし 8問 |
66.8% | なし | 65.8% |
令和6年度 | FE 9問 AP 3問 SG 1問 なし 7問 |
64.0% | なし | 63.3% |
令和7年度 | FE 4問 AP 0問 SG 0問 なし 16問 |
64.0% | なし | 41.7% |
シラバスに新たに追加された用語に注目
最後に、今後の試験で少しでも得点を上げるための方法を1つだけアドバイスしましょう。
基本情報技術者試験に出題される知識と技能の細目を示した「シラバス」という資料があり、試験を実施しているIPA(情報処理推進機構)のWebページで公開されています。
シラバスは、ときどき改訂されて、追加と削除があります。
シラバスに新たに追加された用語は、市販教材に説明がなく(市販教材の発刊後に追加された用語だからです)、問題に取り上げられることが多いので、ご自身で調べて学習しておきましょう。
IPAのWebページには、通常のシラバスと変更箇所表示版のシラバスがあります。
現時点で入手可能な最新の変更箇所表示版のシラバスは、「基本情報技術者試験(レベル2)」シラバス(Ver.9.0)(変更箇所表示版)です。
この中では、追加された部分が赤色で示され、削除された部分が青色の取り消し線で示されています。
以下は、「基礎理論」の分野の「AIに関する技術」の一部です。「ファインチューニング」という言葉が追加されていることに注目してください。

以下は、今回の公開問題の問1です。
「ファインチューニング」という用語がテーマになっています。
このように、シラバスに新たに追加された用語は、問題に取り上げられることが多いのです。
なぜなら、追加したのに問題に取り上げないなら、シラバスを改訂した意味がないからです。
ア 強化学習を行い、最適な結果がえられるようにする。
イ 事前学習と同じデータを繰り返し用いて学習を行い、モデルの精度を高めるようにする。
ウ 大量のテキストデータを用いて学習を行い、モデルの精度を高めるようにする。
エ 特定のデータを用いて追加で学習を行い、目的とするタスクに適用できるようにする。
「ファインチューニング(fine tuning)」は、直訳すると「微調整」という意味です。
機械学習におけるファインチューニングとは、あるデータセットを使って学習済みとなったモデルに、別のデータセットを使って再度学習をさせることです。別のデータセットは、最初のデータセットより小規模なものであるため、モデルの微調整をすることになります。
したがって「特定のデータを用いて追加で学習を行う」とある選択肢が正解です。
以上、試験対策講座の講師として、誠に勝手ながら、公開問題の講評をさせていただきました。
基本情報技術者試験に合格するには、これまで以上に気合を入れて、きちんと学習するしかありません。
受験される皆様のご健闘をお祈り申し上げます!
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矢沢講師が令和7年度公開問題の各問についてポイントを解説している動画をSEプラスIT教育チャンネルにて公開中です!ぜひご確認ください!
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免除試験を受けた 74.9% の方が、 科目A免除資格を得ています。
※独習ゼミは、受験ナビ運営のSEプラスによる試験対策eラーニングです。

令和7年度 基本情報技術者試験 公開問題の講評
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『プログラムはなぜ動くのか』(日経BP)が大ベストセラー
IT技術を楽しく・分かりやすく教える“自称ソフトウェア芸人”
大手電気メーカーでPCの製造、ソフトハウスでプログラマを経験。独立後、現在はアプリケーションの開発と販売に従事。その傍ら、書籍・雑誌の執筆、またセミナー講師として活躍。軽快な口調で、知識0ベースのITエンジニアや一般書店フェアなどの一般的なPCユーザの講習ではダントツの評価。
お客様の満足を何よりも大切にし、わかりやすい、のせるのが上手い自称ソフトウェア芸人。
主な著作物
- 「プログラムはなぜ動くのか」(日経BP)
- 「コンピュータはなぜ動くのか」(日経BP)
- 「出るとこだけ! 基本情報技術者」 (翔泳社)
- 「ベテランが丁寧に教えてくれる ハードウェアの知識と実務」(翔泳社)
- 「ifとelseの思考術」(ソフトバンククリエイティブ) など多数