基本情報でわかる トランザクション


2021-02-25 更新

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この記事は基本情報技術者試験の旧制度( 2022 年以前)の記事ですが、試験対策ではなく、技術用語を理解する上では問題ないと考えています。
試験対策としてお読みになる場合は、現在の試験制度では出題されない午後問題を一部題材にしているので、ご注意ください。

この連載では、基本情報技術者試験によく出題されるテクノロジー関連の用語を、午前問題と午後問題のセットを使って解説します。

午前問題で用語の意味や概念を知り、午後問題で技術の活用方法を知ってください。それによって、単なる丸暗記では得られない明確さで、用語を理解できるようになります。

今回のテーマは、 トランザクションにおける共有ロックと専有ロック です。

トランザクションと共有ロック・専有ロックとは?

データベースに対するひとまとまりの処理を トラザクション と呼びます。

多くの場合に、データベースは、複数のユーザーから利用されるサーバーになっているので、複数のトランザクションを同時に実行することがあります。もしも、同じデータを処理する複数のトランザクションを同時に実行するとどうなるでしょう。

あるトランザクションの処理が完了していない中途半端な状態のデータを、他のトランザクションが処理することになるので、データの内容に矛盾が生じてしまうかもしれません。そこで、データベースには、他のトランザクションに実行を待たせる機能が用意されていて、これを「ロック( lock = 錠前)」と呼びます。

 

ロックには、 共有ロック専有ロック という種類があります。

  • データを閲覧する(データの内容を変化させない)トランザクションは、共有ロックをかけてからデータを処理します。
  • データを更新する(データの内容を変化させる)トランザクションは、専有ロックをかけてからデータを処理します。

あるトランザクションによって共有ロックがかけられたデータには、他のトランザクションが共有ロックをかけることができますが、専有ロックをかけることはできません。

これは、「誰かが見ているデータは、他の人が見ても構わないが、他の人が書き換えてはダメである」ということです。複数のトランザクションにデータが共有されるので、共有ロックと呼ぶのです。

 

あるトランザクションによって専有ロックがかけられたデータは、他のトランザクションが共有ロックをかけることも専有ロックをかけることもできません。

これは、「誰かが書き換え中のデータは、他の人が見ても書き換えてもダメである」ということです。ひとつのトランザクションにデータが専有されるので、専有ロックと呼ぶのです。

共有ロックと専有ロックに関する午前問題

それでは、共有ロックと専有ロックに関する午前問題を解いてみましょう。以下に、問題を示します。

問題文の中にある「ロックの両立性」とは、「同時に両方のロックをかけられるかどうか」ということです。
「ロックを獲得する」とは、「トラザクションが要求したロックが、データベースによって受け付けられる」ということです。
「資源」とは、「処理の対象となるデータ」のことです。

問 29 平成 27 年度 秋期 午前

ロックの両立性に関する記述のうち,適切なものはどれか。

トランザクション T1 が共有ロックを獲得している資源に対して,トランザクション T2 は共有ロックと専有ロックのどちらも獲得することができる。
トランザクション T1 が共有ロックを獲得している資源に対して,トランザクション T2 は共有ロックを獲得することはできるが,専有ロックを獲得することはできない。
トランザクション T1 が専有ロックを獲得している資源に対して,トランザクション T2 は専有ロックと共有ロックのどちらも獲得することができる。
トランザクション T1 が専有ロックを獲得している資源に対して,トランザクション T2 は専有ロックを獲得することはできるが、共有ロックを獲得することはできない。

トランザクション T1 が共有ロックをかけている場合には、トランザクション T2 は、共有ロックをかけられますが、専有ロックをかけられません。
トランザクション T1 が専有ロックをかけている場合は、トランザクション T2 は、共有ロックも専有ロックもかけられません。

したがって、選択肢イが適切です。

解答

共有ロックと専有ロックに関する午後問題(ロックの必要性)

今度は、共有ロックと専有ロックに関する午後問題です。以下に問題を示します。

この問題を通して、ロックの必要性や注意点を理解できます。設問ごとに区切って説明しましょう。なお、この問題では、「専有ロック」を「占有ロック」と表現しているので、これ以降では、「専有ロック」を「占有ロック」と呼びます。

問 3 平成 23 年度 特別 午後(一部抜粋)

 データベースのトランザクション管理に関する次の記述を読んで,設問 1 ~ 4 に答えよ。

 個人向けに,画材をインターネット販売する会社が運営する Web サイトがある。 この Web サイトが在庫管理に利用しているデータベースでは,絵の具の在庫数は色別に個々のデータとして管理されており,処理に応じて次の 3 種類のトランザクションが生成される。

(1)
1 回の商品注文に対して,一つの出荷トランザクションが生成される。
(2)
1 回の商品入荷に対して,一つの入荷トランザクションが生成される。
(3)
1 回の在庫照会に対して,一つの照会トランザクションが生成される。

 なお,一つのトランザクションで,複数の色の絵の具を処理することができる。

設問 1

 ACID 特性に関する次の記述中に入れる正しい答えを,解答群の中から選べ。

 ACID 特性とは,データベースの一貫性を保証するために必要な特性で,原子性,一貫性,独立性,耐久性の四つがある。このうち,一貫性や独立性を保証するためにトランザクション管理では排他制御が必要となる。例えば,白絵の具の在庫数が 50 だった場合,表 1 に示すトランザクション T1 と T2 が同時に実行されたとき,排他制御を行わないと実行後の在庫数は 55 とならず,在庫数がa又はbとなってしまう可能性がある。

 なお,各トランザクションは,図 1 の (1) ~ (3) の順で在庫数データを処理する。

表 1 トランザクション T1,T2 の処理内容
トランザクション 処理内容
出荷トランザクション T1 白絵の具 5 本の出荷
入荷トランザクション T2 白絵の具 10 本の入荷
    トランザクション T1 の処理順序

  1. 白絵の具の在庫数データを読み込む。
  2. 白絵の具の在庫数データ = 白絵の具の在庫数データ – 5
  3. 白絵の具の在庫数データを書き込む。
    トランザクション T2 の処理順序

  1. 白絵の具の在庫数データを読み込む。
  2. 白絵の具の在庫数データ = 白絵の具の在庫数データ + 10
  3. 白絵の具の在庫数データを書き込む。

図 1 トランザクション T1, T2 の処理順序

解答群
ア 40  イ 45  ウ 50  
エ 60  オ 65

設問 1 は、「ロックが必要な理由を知っておきましょう」という問題です。

白絵の具の在庫数という同じデータを、トランザクション T1 とトランザクション T2 が同時に処理するとどうなるでしょう。

 

もしも、トランザクション T1 の 3. の処理が行われる前に、トランザクション T2 の 1. の処理が行われたら、

  1. トランザクション T1 の 2. の処理(在庫数を – 5 する処理)が失われる
  2. トランザクション T2 の 2. の処理(在庫数を + 10 する処理)だけが反映
  3. 在庫数は、もとの 50 を + 10 した 60

となります。

逆に、もしも、トランザクション T2 の 3. の処理が行われる前に、トランザクション T1 の 1. の処理が行われたら、

  1. トランザクション T2 の 2. の処理(在庫数を + 10 する処理)が失われる
  2. トランザクション T1 の 2. の処理(在庫数を – 5 する処理)だけが反映
  3. 在庫数は、もとの 50 を – 5 した 45

となります。

このような矛盾を生じさせないために、ロックが必要なのです。 45 または 60 になることがあるのですから、正解は選択肢イとエ(順不同)です。

共有ロックと専有ロックに関する午後問題(ロックで生じる待ち状態)

設問 2

 入荷トランザクション及び出荷トランザクションを処理する場合は対象データを占有ロックし,照会トランザクションを処理する場合は共有ロックする。

 なお,このデータベースを管理する DBMS では,あるトランザクションが共有ロックしているデータを,ほかのトランザクションからロックする場合,共有ロックの要求は成功するが,占有ロックの要求は共有ロックが解除されるまで待ち状態となる。

 表 2 に示すトランザクション T3 〜 T6 を,図 2 に示すとおりに実行し,ロックを要求した場合,それぞれのトランザクションの状態について正しい説明を,解答群の中から選べ。

表2 トランザクション T3 ~ T6 の処理内容
トランザクション 処理内容
照会トランザクション T3 白絵の具の在庫数照会
入荷トランザクション T4 白絵の具 10 本の入荷
出荷トランザクション T5 白絵の具 5 本の出荷
照会トランザクション T6 白絵の具の在庫数照会
図 2 トランザクション T3 ~ T6 の実行例

解答群

T4, T5, T6 とも待ち状態となる。
T5, T6 とも待ち状態とならない。
T4, T5 は待ち状態となるが, T6 は待ち状態とならない。
T4 は待ち状態となるが, T5, T6 は待ち状態とならない。
T6 は待ち状態となるが, T4, T5 は待ち状態とならない。

設問 2 は、「ロックをかけると、他のトランザクションが待ち状態になる場合があることを知っておきましょう」という問題です。

待ち状態になるかどうかは、共有ロックと占有ロックのどちらをかけたかで異なります。

  • あるトランザクションが共有ロックをかけた場合には、他のトランザクションは共有ロックをかけるなら待たされませんが、占有ロックをかけるなら待たされます
  • あるトランザクションが占有ロックをかけた場合には、他のトランザクションは共有ロックでも占有ロックでも待たされます

トランザクション T3, T4, T5, T6 は、どれも白絵の具の在庫数という同じデータを処理します。

T3 と T6 は照会(見るだけ)なので共有ロックをかけます。
T4 と T5 は入荷と出荷(どちらも更新)なので占有ロックをかけます。

したがって、待ち状態になるかどうかは、以下のようになります。


T3 が共有ロックをかけた後なので、占有ロックの T4 と T5 は待ち状態になりますが、共有ロックの T6 は待ち状態になりません。したがって、選択肢ウが正解です。

共有ロックと専有ロックに関する午後問題(ロックの注意点その 1 ~ 未解放)

設問 3

 出荷トランザクション T7 の処理内容を表 3 に示す。次の記述中のに入れる正しい答えを,解答群の中から選べ。 なお,トランザクション T7 は、図 3 の 1 ~ 4 の順で在庫数データを処理する。
表 3 トランザクション T7 の処理内容
トランザクション 処理内容
出荷トランザクション T7 白絵の具 5 本と赤絵の具 3 本の出荷
    arrow_backα

  1. 白絵の具の在庫数データをロックする。
  2. 白絵の具の在庫数データを読み込む。
  3. arrow_backβ

  4. 赤絵の具の在庫数データを読み込む。
  5. arrow_backγ

  6. 白絵の具の在庫数データ = 白絵の具の在庫数データ – 5
  7. 白絵の具の在庫数データを書き込む。
  8. arrow_backδ

  9. 赤絵の具の在庫数データ = 赤絵の具の在庫数データ – 3
  10. 赤絵の具の在庫数データを書き込む。
  11. arrow_backε

  12. 赤絵の具の在庫数データのロックを解除する。

図 3 ランザクション T7 の処理順序

 データをロックしている時間を最も短くするためには, “赤絵の具の在庫数データをロックする。” を挿入すべき適切な位置はcで, “白絵の具の在庫数データのロックを解除する。” を挿入すべき適切な位置はdである。

 なお,ほかのトランザクションとのデッドロックの発生に対する考慮は不要とする。

解答群

ア α  イ β  ウ γ  エ δ  オ ε

設問 3 は、「ロックをかけると他のトランザクションが待たされる場合があるのだから、データの処理が完了したら、すぐにロックを解除しましょう」という問題です。

赤絵の具の在庫データは、 3. で読み込んでいるので、その直前の β の位置でロックをかけるべきです。したがって、空欄 c の正解は、選択肢イです。

白絵の具の在庫データの処理は、 5. で完了しているので、その直後の δ の位置でロックを解除するべきです。したがって、空欄 d の正解は、選択肢エです。

共有ロックと専有ロックに関する午後問題(ロックの注意点その 2 ~ デッドロック)

設問 4

 表4 に示すトランザクション T8 ~ T11 のうち,解答群の組合せの中から,同時に処理された場合にデッドロックが発生する可能性のある組合せを選べ。

 なお、トランザクション T8 〜 T11 では,各絵の具の在庫数データをどのような順番で処理するかは、分からないものとする。

表 4 トランザクション T8 〜 T11 の処理内容
トランザクション 処理内容
出荷トランザクション T8 白絵の具 5 本と赤絵の具 5 本の出荷
入荷トランザクション T9 赤絵の具 10 本と絵の具 10 本の入荷
出荷トランザクション T10 青絵の具 2 本と白絵の具 5 本の出荷
入荷トランザクション T11 青絵の具 10 本と黒絵の具 10 本の入荷

解答群

ア T8, T9  
イ T8, T9, T10  
ウ T9, T10, T11
エ T10, T11

設問 4 は、「ロックをかける順序によっては、デッドロックになってしまう場合があるので、注意しましょう」という問題です。デッドロックとは、複数のトランザクションが、すべて待ち状態になり、処理が先に進めなくなってしまうことです。

 

ロックと待ち状態に注目して、選択肢を見てみましょう。以下は、選択肢アの T8 と T9 を同時に実行した例です。 T8 と T9 の両方が待ち状態になることはないので、デッドロックは発生しません。

  1. T8 が白絵の具をロックする
  2. T9 が赤絵の具をロックする
  3. T8 が赤絵の具をロックしようとするが、 2. でロックされているので、待ち状態になる
  4. T9 が青絵の具をロックする
  5. T9 が赤絵の具のロックを解除する
  6. T8 が赤絵の具をロックする

以下は、選択肢イの T8, T9, T10 を同時に実行した例です。T8、T9、T10 が、すべて待ち状態になり、処理が先に進めなくなっています。これが、デッドロックです。したがって、選択肢イが正解です。説明が長くなるので、選択肢ウとエの例は示しませんが、どちらもデッドロックは発生しません。

  1. T8 が白絵の具をロックする
  2. T9 が赤絵の具をロックする
  3. T10 が青絵の具をロックする
  4. T8 が赤絵の具をロックしようとするが、 2. でロックされているので、待ち状態になる
  5. T9 が青絵の具をロックしようとするが、 3. でロックされているので、待ち状態になる
  6. T10 が白絵の具をロックしようとするが、 1. でロックされているので、待ち状態になる

 

解答設問 1 a – イ, b – エ(順不同) 設問 2 ウ 設問 3 c – イ, d – エ 設問 4 イ

いかがでしたか?

午前問題で共有ロックと専有ロックという言葉の意味がわかり、午後問題でロックの必要性や注意点などを理解できたでしょう。

この連載では、今後も、多くの受験者が苦手としている用語を取り上げて行きます。それでは、またお会いしましょう!

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