委託業務での情報セキュリティリスク|科目B情報セキュリティを解くための重要用語

この連載は、基本情報技術者試験の受験者を対象としたものです。
毎回1問ずつ、科目Bの情報セキュリティの問題を取り上げて、問題の中にある用語の意味と、問題の解き方を説明します。
用語の意味がわかれば、科目Bの情報セキュリティの問題は、それほど難しくない、ということを知ってください。
問題
今回の問題は、委託業務での情報セキュリティリスクがテーマです。
以下に問題を示しますので、本文、設問、選択肢に、ざっと目を通してください。
後で用語の意味を説明してから、再度問題を見ていただきますので、今はざっとでOKです。
問題(出典:令和5年度公開問題問6)
A社は,放送会社や運輸会社向けに広告制作ビジネスを展開している。
A社は,人事業務の効率化を図るべく,人事業務の委託を検討することにした。
A社が委託する業務(以下,B業務という)を図1に示す。

委託先候補のC社は,B業務について,次のようにA社に提案した。
・B業務だけに従事する専任の従業員を割り当てる。
・B業務では,図2の複合機のスキャン機能を使用する。

A社は,C社と業務委託契約を締結する前に,秘密保持契約を締結した。
その後,C社に質問表を送付し,回答を受けて,業務委託での情報セキュリティリスクの評価を実施した。
その結果,図3の発見があった。

そこで,A社では,初期設定の状態のままではA社にとって情報セキュリティリスクがあり,初期設定から変更するという対策が必要であると評価した。
【設問】
対策が必要であるとA社が評価した情報セキュリティリスクはどれか。
解答群のうち,最も適切なものを選べ。
【解答群】
ア : B業務に従事する従業員が,攻撃者からの電子メールを複合機からのものと信じて本文中にあるURLをクリックし,フィッシングサイトに誘導される。その結果,A社の採用予定者の個人情報が漏えいする。
イ : B業務に従事する従業員が,複合機から送信される電子メールをスパムメールと誤認し,電子メールを削除する。その結果,再スキャンが必要となり,B業務が遅延する。
ウ : 攻撃者が,複合機から送信される電子メールを盗聴し,添付ファイルを暗号化して身代金を要求する。その結果,A社が復号鍵を受け取るために多額の身代金を支払うことになる。
エ : 攻撃者が,複合機から送信される電子メールを盗聴し,本文に記載されているURLを使ってBサーバにアクセスする。その結果,A社の採用予定者の個人情報が漏えいする。
問題の中にある用語の意味
以下に、今回の問題中にある重要な用語の意味を示します。
ここでは、用語の一般的な意味だけでなく、その用語から問題を読み取るポイントも示しています。
用語の意味がわかったら、もう一度問題を読み直してください。きっとスラスラと理解できるはずです。
ファイルサーバ
意味「ファイルサーバ」は、ファイルの保存を行えるサーバです。この問題では、複合機でスキャンして作成されたPDFファイルを、メールに添付して利用者に送りますが、ファイルのサイズが大きい場合は、それをファイサーバに保存し、保存先のURLを利用者にメールで知らせます。
複合機
意味「複合機」は、コピー、スキャナ、FAXなど、1台で複数の機能を持った事務機です。この問題の複合機には、スキャンして作成されたPDFファイルをファイルサーバに保存する機能や、PDFファイルをメールに添付して送る機能があります。
URL
意味「URL(Uniform Resource Locator)」は、ネットワーク上にあるデータの場所を示す統一的な書式の文字列です。代表的なURLには、「www.seplus.jp/index.html」のようにWebサイトのHTMLファイルの場所を示すものがあります。この問題では、ファイルサーバに保存されたPDFファイルのURLが、利用者にメールで知らされます。そのURLをクリックすれば、ファイルサーバのダウンロードページに移動して、PDFファイルを入手できるのでしょう。
フィッシングサイト
意味「フィッシング」は、「魚釣り」を意味するfishingと、「洗練された」を意味するsophisticatedを組合せた造語だといわれています(他の説もあります)。偽のメールで、本物ソックリの偽のWebページ(これが「フィッシングサイト」です)に誘導して、そのWebページを操作した利用者の情報を盗みます。この問題では、ファイルサーバの偽のダウンロードページに誘導して、利用者にIDとパスワードを入力させて、それらを盗むのでしょう。
スパムメール
意味「スパムメール」とは、勝手に送られてくる迷惑メールのことです。英国のテレビのコメディ番組で「スパム」という言葉を何度も連呼して相手を困らせる、という場面があったことが由来だといわれています。この問題では、複合機の利用者に偽のメールが送られてきますが、その目的は、フィッシングサイトに誘導して情報を盗むことであり、何度もメールを送って迷惑をかけることはないので、スパムメールとはいえないでしょう。
復号鍵
意味平文を暗号文にすることを「暗号化」と呼び、暗号文を平文に戻すことを「復号」と呼びます。暗号化と復号の演算で使われる数値を「鍵」と呼びます。暗号化で使われる鍵を「暗号鍵」と呼び、復号で使われる鍵を「復号鍵」と呼びます。この問題の選択肢では、重要なデータを勝手に暗号化して、復号鍵を得るための身代金を要求する、という攻撃手法が示されています。ただし、それに関する記述は、問題の本文にはありません。
問題の解き方
A社では、初期設定の状態のままでは情報セキュリティリスクがあり、初期設定を変更する対策が必要であると評価しています。
この問題では、選択肢に示された文書の中から、対策が必要であるとA社が評価した情報セキュリティリスクとして最も適切なものを選びます。
用語の意味がわかって、問題の内容を理解できたら、それぞれの選択肢が適切か不適切かを判断できるでしょう。
図3に示された発見事項を見ると、誰がスキャンを実行しても、電子メールの差出人アドレス、件名、本文、および添付ファイル名が初期設定のままであり、さらに、初期設定の情報がベンダーのWebサイトで公開されているので誰でも閲覧できる、とあります。
このことから、初期設定の状態のままでは、攻撃者が複合機になりすまして電子メールを利用者に送り、そこにあるURLをクリックさせて悪意のあるWebサイトに誘導するリスクがあります。
したがって、「攻撃者からの電子メールを複合機からのものと信じて本文中にあるURLをクリックし、フィッシングサイトに誘導される」という選択肢アは適切です。
攻撃者が送るメールは、スパムメールを目的としたものではないので、選択肢イは不適切です。
添付ファイルを暗号化して身代金を要求するという記述はないので、選択肢ウは不適切です。
攻撃者が複合機から送信されるメールを盗聴するという記述はないので、選択肢エは不適切です。
【正解】
選択肢ア
もしも、今回の問題を見て「自分には用語の知識が不足している」と感じたなら、科目Bの問題だけでなく、科目A(および旧制度の午前試験)の問題も練習することをお勧めします。
科目Aの問題の多くは、用語の意味をテーマにしているので、知識の補充ができるからです。
情報セキュリティの分野だけでなく、それに関連するネットワークやシステム構成要素の分野の問題も練習してください。
それでは、またお会いしましょう!
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