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社内資格制度で社員の自律的なスキルアップを促す|野村総合研究所における社内資格制度の作り方

calendar_month2022-04-19 公開 update2022-08-09 更新

IPA の IT 人材白書 2020 によると、 DX による IT 人材の多様化に伴い、社員のスキルの把握に「自社の独自基準」を挙げる企業が増加しています。 このスキル把握には独自の社内資格制度を設けることがほとんどです。

そこで今回はこの社内資格制度について、制度構築から 20 年以上運営を行っている 野村総合研究所 ( NRI ) の人材開発部にインタビューしました!

社内資格制度の制度設計や、どこまで注力すべきなのか、そして、そもそもどんな効果が得られるのか、掘り下げると、そこに込められた “社員が自律的にスキルアップすること” へのこだわりが伺えました。

お話を伺った方々
幸田 みちる
株式会社 野村総合研究所 人材開発部

産業分野のシステム開発を経た後、グループ会社にて個人情報保護体制の整備やセキュリティ教育に従事。
2016 年 10 月より現職。中堅社員を対象としたプロフェッショナル人材の育成を担当後、現在は 40 代以降の社員向けキャリアデザイン研修の企画・開発・運用を担当。
社内資格認定ではプロジェクトマネージャー資格を担当。

重田 大吾
株式会社 野村総合研究所 人材開発部

証券、資産運用、保険分野のシステム開発、プロジェクトマネジメントを多数経験後、 2020 年 10 月より現職。
現在は中堅社員を対象としたプロフェッショナル人材の育成、特にビジネスアナリスト向けプログラムを担当。
社内資格認定ではビジネスアナリスト資格を担当。

河越 雅弘
株式会社 野村総合研究所 人材開発部

公共・流通・証券分野のシステム開発を経験後、証券事業本部の人材育成に従事し、 2015 年 8 月より現職。
新入社員から若手社員の育成を担当後、現在は中堅社員を対象としたプロフェッショナル人材育成プログラムの企画・開発・運用を担当。
社内資格認定ではアプリケーションエンジニア資格を担当。
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どんな社内資格制度? 社内の誰もが納得する人選になる制度

―― まずはどんな社内資格制度になっているのでしょうか?

7 資格 17 区分の社内資格認定があり、キャリアフィールド( ITSS に準拠した 20 のフィールド)ごとに、高度な専門性をもつプロフェッショナル人材を社内認定し、将来のキャリア像、キャリアパスの目標にする、という狙いがあります。

出典 野村総合研究所 統合レポート2021 58 ページより

―― かなり資格が細かく整備されているので、開発系の社員の方はどこかには合致する資格がありそうですね。
各区分、深掘りして伺いたいのですが、今回はプロジェクトマネージャーを例として伺いたいと思います。 まずは認定までの流れを伺えますか?

プロジェクトマネージャーの場合、以下のようなステップで審査 → 認定まで行われます。

  1. 指定の外部資格を取得済み and 指定の社内研修を受講済み
  2. 難易度の高いプロジェクト案件を完了する
  3. 上長・所属組織が認定委員会に推薦
  4. 審査委員が案件の妥当性などを書類審査
  5. 審査委員による面接審査
  6. 審査委員会の合議 → 認定

―― かなりハードルが高いですね!

はい。 紹介したステップのうち、特に認定委員会への推薦は、上長と言っても本部長クラスが推薦するので、まずこの時点で相当ふるいにかけられています。 このため、誰もが納得する人選になっています。

―― なるほど! ノミネートされた時点で、社内でも「あの人なら納得」というレベルなのですね。 となると、認定者数も少ないのでしょうか?

プロジェクト案件数によって波はあるものの、年間で新たに認定される人は 10 ~ 20 名程度で、累計でも社員の数パーセントしかいません。

―― レベルの高い NRI さんの中でも、選りすぐりのプロフェッショナルということですね

また認定資格は取得して終わりという訳ではなく、更新審査があり、その審査基準を満たしていなければ、資格返上となります。

―― 徹底していますね。
一方で、認定理由のようなものは公開されるのでしょうか?

審査委員がその理由を開示することはありませんね。

人材開発部が社内ページに資格認定者へのインタビューを掲載するので、そこで認定者が選ばれた理由を推測しながら話す、ということはあります。

インタビュー中の幸田さん

社内プロジェクトマネージャー資格認定者に求められること

審査基準はプロジェクト案件での実績

制度のあらましを伺えたところで、プロジェクトマネージャー資格者がどんなレベルなのか、審査基準を中心に何をもって資格者とするのか、深掘りします

―― 認定基準になっているのは、何になるのでしょうか?

プロジェクト案件での実績、結果を基準としています。 案件が無いことには推薦されません。

―― スキルで認定している訳ではないと … ?

具体的な審査に入る前に大前提としてスキルはある、ということですね。 これは指定の社外資格を取得済みであり、かつ、指定の社内研修を受講済みであるか、という点でチェックします。

プロジェクトマネジメントのスキルは尺度がないですからね。 スキルが高いとは何を指すのか、この定義は難しいです。

―― なるほど! 確かにリスクマネジメントスキルが高い、と言っても、実際のプロジェクト案件での動きを見てみないことにはわかりませんものね。 その案件で審査するとして、どのような点をみているのでしょうか?

プロジェクトマネージャー資格には 2 つのタイプがあり、新規開発とエンハンス(保守開発)があります。
新規では、収支、納期、品質、顧客満足度が基準を満たしているか。 エンハンスであれば収支、継続的改善顧客満足度、組織貢献などの基準があります。

その基準を満たしているか、案件の難易度、妥当性を書類審査で確認し、面接で人物評価を行っています。

面接では、そのプロジェクトの成果が本人によるものなのか、それも確認しています。

―― なるほど!

周りがしっかりしていたから成功できたのか、 PMO の支援があったからではないか、そういった点ですね。
例えば、アプリケーションエンジニア資格でも、実は先輩が後ろでお膳立てしていたのではないか、などよくチェックしています。

どの資格でも、その資格の人物像に合致した振る舞い、行動をしていたのかは、必ず見られますね。

審査員による面接では、まずそこがポイントになります。 なので、それをクリアに説明できることが重要です。

審査員もその区分のプロフェッショナルなので、審査員自身も経験がありますし、進捗や設計などのレビュー会議でレビュアーも務めているので、しっかり見抜いてきます。

――― 審査員も選りすぐりのプロフェッショナルだから、そこで認められたなら間違いない、と社内で思われるのですね

またプロジェクトマネージャー資格だけ特殊なエントリーシステムがあり、候補となる案件が始まったときに、このプロジェクトをマネジメントするのがプロジェクトマネージャー認定候補者です、ということが宣言されます。

これはプロジェクトでは計画があって、計画に沿ってできたか、という観点も審査の対象になるためです。

―― その候補となるプロジェクトマネージャーの方は胃が痛いですね(笑)

(笑)。 ただそれによって周りの方も支援してくれるようになります。

―― 周りが応援する文化、いいですね。

プロジェクトマネージャー認定者による内製コースが人気

プロジェクトマネージャー資格のスキルをどのように体系化しているのか、指定資格と指定研修の詳細を深掘りすると、そこには育成の文化が根ざしていました。

―― 必須の社外資格は何になるのでしょうか?

PMP ® ( Project Management Professional ) または高度情報処理技術者資格です。

―― 高度情報処理技術者資格が入ってくるあたり、高度情報の取得率の高い NRI さんらしいですね。

ちなみにビジネスアナリスト資格の場合は、もっと厳しいですよ(笑)

ビジネスアナリスト資格の場合は、情報処理技術者資格の IT ストラテジストまたは CBAP ® ( Certified Business Analysis Professional ) の取得が求められます。

CBAP ® ビジネスアナリシス ( BA ) の知識体系 BABOK ® ( Business Analysis Body of Knowledge ) に準拠した資格。 受験申込時に BA に携わった期間が 5 年以上必要とされる。

―― ハードルが高すぎです … 。
一方で、研修はどのように組み立てられているのでしょうか?

「キャリア実践研修」という名称で、社内資格ごとに用意されています。 プロジェクトマネージャー資格の場合、 2022 年度の場合、必須 / 選択あわせて 14 講座あり、そのうち 9 講座を受講することが求められています。

―― とても手厚いですね。 講座の体系や内容の詳細は、かなり作り込まれているので公開が難しいとのことですが、少しだけあらましを伺いたいと思います。 キャリア実践研修はどのように組み立てられているのでしょうか?

ビジネス / テクノロジ / エンジニアリング / マネジメント とカテゴリを分けていて、バランスよく講座を配置してます。

また、社内の知見を共有する機会と、社外の知見を得る機会を作ること、これもバランスを取るようにしています。

特に社内の知見については、徒弟制度的なものとは別に、組織的な人材育成の仕組みを作りたい、という目的があるので、社内の有識者、認定者が登壇します。 その中には、ケーススタディを用意して、その有識者、認定者がどんなことを判断し、考えたのか学ぶものもあります。

―― それは受講してみたい! ちなみに人気の講座はどのようなものなのでしょうか?

やっぱり社内講師が登壇する講座や、社外講師が進行する講座ながら、社内の複数人(部長層)がレビュアーを務めるような講座は、受講満足度も高く、人気です。

―― とても贅沢な講座ですね

その講座では重田が社内のレビュアーを集めるのにいつも時間を掛けているのですが、その甲斐もあって、レビュアーの皆さん、とても協力的です。

レビュアーの皆さんも楽しんでいますね。

―― 育成することを楽しむ上位者が多いのは NRI さんの社風ですね。 一方で、社内講師の講座が人気なのは、やっぱり滅多に聞けない話だから、ということなのでしょうか?

社内でも話題となるようなプロジェクトを経験した認定者が話すので、言葉の重みや、説得力が違います。

自分が経験したプロジェクト案件より、もっと難しいものをやってきた第一人者ですから、話題にするプロジェクトのシーンも「あるある」と共感しやすくて、それへの行動も「なるほど」と腹落ちしやすいのでしょうね。

―― スターエンジニアに学ぶようなものですね。
このキャリア実践研修はプロジェクト案件のエントリーから受講できるのでしょうか?

いえ、誰でも受講できるようになっていて、キャリアを積むうちに、その道のプロフェッショナルになろうと思って、自身で計画的にキャリア実践研修を受講する方が多いですね。

認定後も第一線で活躍

手厚い研修サポートの一方で、社内資格は取得して終わりではなく、プロジェクトマネージャー資格を名乗るからには更新も求められるのが NRI の社内資格制度です。 その背景を探ると、その認定制度の目的が垣間見えました

―― 資格認定者はずっと認定されるわけではなく、更新も必要とのことですが、どのような条件があるのでしょうか?

まず実績面で過去 3 年間でプロジェクトマネージャーもしくは PMO としてプロジェクトマネジメントしていることが求められます。

それ以外に、人材育成としてキャリア実践研修のようなところで社内講師を務めること、組織貢献として設計会議などに参加すること、自身のスキルアップに取り組まれているかどうか、これらが条件です。
このため中には、管理職などラインマネジメントに移行して更新できなくなった、という方もいらっしゃいます。

―― なかなかこれも更新条件としては厳しいものですが、どうしてこのような設計になったのでしょうか?

第一線で活躍し続けることが要件になっているからです。

―― なるほど! あくまで現役のプロジェクトマネージャーであることが求められているのですね

プロジェクトマネージャー資格認定者はロールモデルですから、そのロールモデルでいないとダメということですね。

インタビュー中の重田さん

ここがポイント! NRI の社内資格制度

社内資格制度を掘り下げると、そこには大変な工数を掛けてでも実現したい制度設計時の思想が込められていました。 そもそも社内資格制度は何の役に立つのか、 NRI の答えを伺いました

―― 認定するまでの期間はどれぐらいなのでしょうか?

先程のエントリーシステムで対象になったプロジェクト案件が完了後、候補者が書類をまとめて提出し、それから 2 ヶ月かけて審査が行われます。

―― 2 ヶ月ですか。 審査にもとっても工数がかかっていますね!

それだけ工数をかけて公平な審査を担保している、ということになります。

―― 一方で、育成面でも先程お話のあった社内講師の講座も非常に工数がかかりそうです。 まずプロジェクトマネージャー資格では社内講師の講座はいくつあるのでしょうか?

5 つの講座があります。

―― かなり多いですね! 講座のデザインはどなたが行わるのでしょうか?

人材開発部が行います。 選定、依頼、調整、内容の確認、当日の運営、すべて行います。 また講座一つに対して、年間で複数日程あります。

―― … めちゃくちゃ大変ですね

また講座内容もマイナーチェンジしていて、例えば、先程挙がったケーススタディでは、 作り込んだ案件を一つ演習していたのですが、複数の案件を挙げて学べるようにアップデートしています。

―― それはやはり受講者からの声を受けてのことでしょうか?

作り込んだ案件を何年も題材にしていると、 DX プロジェクトが非常に増加している背景もあって、案件が古いと言われることが増えました。 作る方としては工数がとても増えるのですが、毎年案件を見直しするようにしました。

―― 案件選定からとなると、輪をかけて大変になりますね

大変です(笑)。 ただ、認定事務局も行っているので、先程お話したエントリーされたプロジェクト案件が把握しやすく、この方なら色々な案件を話ができそうというのも判断がつきやすいですね。

最近ですと、講座の実施形式も変えてますね。

そうですね、コロナ禍もあって、ここ数年は反転学習も取り入れて、なるべく動画を使って事前学習いただいたり、実施した講話も録画して、あとで見返せるようにしたり、できるだけ受講時間を減らせるように工夫しています。

―― 反転学習は、実施する側の事前準備に工数がかかりますよね

社内講師と話して、事前に何をするのか決めて、動画を作ったり、それなりに準備が必要になりますね。

―― となると、社内講師の方も大変ですね

社内講師もこれだけをやっている訳ではなく、プロジェクトに入って、重い仕事を抱えている方も多いです。 なので、研修にできるだけ手間を掛けさせないようにする必要があります。

―― 確かに、社内講師の工数も馬鹿になりませんね。
これまでのお話を伺っていると、非常に工数をかけて社内資格制度に取り組まれています。 なぜ、そこまで工数をかけられるのか、その意図を伺えますか?

社員にとって目指すべきロールモデルが明確になるからです。 その中でもいろいろなタイプの人がいるということも伝えられます。

そのロールモデルがあることで、自分がどの道に進むべきか、実際に自分の周りにいる認定者を見ながら選択できるようになっています。

―― なるほど! 身近に具体的な目標となる人がいるから、自律的にスキルアップに取り組めるようになるのですね

ですから、社内資格制度は NRI の人材育成の根幹をなす仕組みと言えます。

―― 確かに、社内資格制度によって社員の自律的なスキルアップするマインドが構築できるのはプライスレスな効果ですね

作って終わりではない

具体的なロールモデルの提示により、社員の自律的なスキルアップを実現していることがわかりました。 そのロールモデルが合致しない、今の時代には合っていない、ということを避けるために、何をしているのか、伺いました

―― それだけロールモデルが重要となると、時代や現状に合わせてアップデートもされるのでしょうか?

資格の中にも、こういうスキルをもつ人も必要だよね、ということで新しいタイプが新設されることもありますし、活躍している人がいても、今の資格のタイプには無いことが、どうしても発生します。

プロジェクトマネージャーに 2 つのタイプ、新規開発とエンハンスがあるのは最たる例です。 初めは新規だけだったものが、エンハンスでも活躍されている方がいらっしゃることから、新たに追加されました。

また、最近ですと、データサイエンティスト資格が新設されました。 NRI として、どこに注力するのか、ということのメッセージにもなります。

またアプリケーションエンジニア資格で、プロジェクトマネージャーやビジネスアナリストだけがキャリアパスではないというメッセージをこめて、改めて、開発スペシャリストとしての資格を定義しました。

―― なるほど、社員の方々にとって目指すロールモデルが無い、といったことがないように、アップデートも続けてらっしゃるのですね

社内資格制度をつくるときに考えること

IPA の IT 人材白書 2020 によると社員のスキルの把握に「自社の独自基準」を挙げる企業が増加しています。 最後にこの社内資格制度の構築に取り組むトレタンへのアドバイスを伺いました

―― 最後に同じように社内資格制度構築や運用に取り組むトレタンに向けて、気をつけたほうがよいポイントなどはございますでしょうか?

まず制度に取り組む目的を明確にするのが優先です。 人材育成なのか、社内の報奨制度なのか、優秀な人材の冠なのか、それを明確にしないと運営規定や認定社員へ何を求めるのかなど、すべてがブレます。

―― それはここまでお話を伺っていて痛感しました

また、優秀な人材を審査しようとすると、審査できるプロフェッショナルが複数名いることが、まず第一です。 それがないと社内資格制度は成り立ちません。

―― 確かに! 幸田さんはいかがでしょうか?

これはプロジェクトマネージャー特有かも知れませんが、プロジェクト案件の多様性や変化は必ず発生するので、実は人物像やスキルを定めすぎないほうが、より柔軟な制度運営ができます。 人物像やスキルを定めすぎない代わりに、実際の認定者がロールモデルとして認知されやすい資格ですね。

―― なるほど! 確かに紙面上ではその多様性は表現しにくいですものね

一方で、納得感のある社内資格制度とするために、審査プロセス、審査基準は明確にしておくことが大事です。 例えば、 NRI では複数かつ、利害関係がないよう所属部門以外の委員による審査を行っていて、公正となるような運営をしています。

―― 信用が担保されていないと、形骸化もしやすいのですね。 納得のアドバイスです!
では、今日は貴重なお話、ありがとうございました!

(一同) ありがとうございました。
インタビューにお応えいただいた皆さま

 

(撮影 / 田川佳織 株式会社 野村総合研究所)

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