ストレングスファインダーで強みをいかす野村総合研究所のダイバーシティ&インクルージョン
研修担当者向け Web マガジン トレタンでは “研修担当者も書き、知見を共有する場” となるよう、研修ご担当者の方々に原稿をお寄せいただいています。
今回は株式会社 野村総合研究所 河越さまに、 DX の素地ともなるダイバーシティ & インクルージョンの実現のために、クリフトンストレングス(旧 ストレングス・ファインダー)をいち早く導入した事例を寄稿いただきました。
もくじ
野村総合研究所のダイバーシティ&インクルージョン( D & I )
野村総合研究所(以下、 NRI )では、新たな領域を切り拓き、推進するために、多様な人材の連携と結集、すなわちダイバーシティ & インクルージョン( D & I )を推進しています。
ダイバーシティ & インクルージョン( D & I )の実現には、社員一人ひとりが多様な価値観を認め合い、それぞれの強みを活かし合う『 Mutual Respect(相互尊重)』の精神が不可欠と考えています。
また、 NRI グループでは様々な強みや個性を持つ社員一人ひとりの総力を結集することが組織の強みにつながると考えています。これが NRI における、ダイバーシティ & インクルージョン( D & I )です。
強みを活かす重要性
P.F.ドラッカーは著書において、強みを活かす重要性について以下のように述べています。
- 人が成果を上げるのは強みによってのみ
- 人が何かを成し遂げるのは、強みによってのみである。弱みはいくら強化しても平凡になることさえ疑わしい。強みに集中し、卓越した成果をあげよ。
出典「マネジメント[エッセンシャル版] – 基本と原則」(ダイヤモンド社 刊)
- マネジメントは人の強みを発揮させること
- 人のマネジメントとは、人の強みを発揮させることである。人が雇われるのは、強みのゆえであり能力のゆえである。組織の目的は人の強みを生産に結びつけ、人の弱みを中和することにある。
出典「創造する経営者 (ドラッカー名著集 6)」(ダイヤモンド社 刊)
また、ギャラップ(アメリカの世論調査及びコンサルティングを行う企業)の調査によると、従業員が強みに基づく人材開発を受けた場合、従業員のエンゲージメント、パフォーマンスが高まると報告されています。
出典Gallup 「クリフトンストレングスの科学について知る」より
クリフトンストレングス(旧 ストレングス・ファインダー)とは
NRI では 2020 年度より、自分の強みの把握と他者との共有を目的に、強みを「見える化」するツール「クリフトンストレングス(ストレングス・ファインダーから 2020 年に名称を変更)」を新入社員研修に導入しています。
ギャラップ社のクリフトンストレングステスト( 177 問のオンライン才能テスト)は、才能(本来の考え方、感じ方、行動のパターン)を測定し、それらを 34 の資質に分類します。結果は 20 ページ以上の個人ごとにカスタマイズされたレポートで提供されます。
実行力 | 影響力 | 人間関係構築力 | 戦略的思考力 |
---|---|---|---|
物事を実現させることができる | 管理能力があり、主張ができ、他者に伝えることができる | 個人をまとめて、チームを単なる個の集合より優れたものにできる | 良い意思決定のための情報を吸収して分析できる |
達成欲 アレンジ 信念 公平性 慎重さ 規律性 目標志向 責任感 回復志向 |
活発性 指令性 コミュニケーション 競争性 最上志向 自己確信 自我 社交性 |
適応性 運命思考 成長促進 共感性 調和性 包含 個別化 ポジティブ 親密性 |
分析思考 原点思考 未来志向 着想 収集心 内省 学習欲 戦略性 |
出典Gallup 「クリフトンストレングスについて」4 つの領域 34 の資質 より
新入社員研修におけるストレングス・ファインダーの導入例
資質や才能はダイヤモンドの原石であり、それを活かしてこそ、光り輝くダイヤモンド、すなわち強みとなります。
出典「さあ、才能(じぶん)に目覚めよう 新版 ストレングス・ファインダー2.0」(日本経済新聞出版 刊)
アセスメント結果のレポートを読み、「資質を知る」だけでなく、「資質を強みとして活用する」ことが大切です。
そのため、 NRI の新入社員研修では、クリフトンストレングステストに加え、ギャラップ認定ストレングスコーチ( NRI 社員)によるワークショップも実施しています。
ワークショップでは、新入社員同士で資質を強みとして発揮したエピソードを共有します。対話を通じ、自己理解および他者理解が進み、多様な価値観を認め合い、それぞれの強みを活かし合う関係の構築を狙っています。
クリフトンストレングスの効果
個人としては、自身の強みを認識し、仲間へ共有し、承認されることで、自己効力感・自己肯定感が高まり、いわゆるジョハリの窓の「開放の窓」が拡大していきます。
また、組織(チーム)としては、お互いの強み、価値観を認め合うことで、心理的安全性、関係の質(ダニエル・キム教授の「組織の成功循環モデル」のグッドサイクルの第 1 ステップ)を高めることが期待できます。
No. | コメント | 効果 | |
---|---|---|---|
ジョハリの窓 | その他 | ||
1 | 自分にとって当たり前に感じられることも強みとなることがわかった。 | 未知 → 開放 | 自己効力感 |
2 | 今まで知らなかった自分の特性を知ることができた。 | 自己肯定感 | |
3 | グループメンバーからのフィードバックによって新たな気づきもあり有意義であった。 | 盲点 → 開放 | |
4 | 自己理解だけでなく、グループメンバーの強みを知ることができ、相互理解を深めることができた。 | 秘密 → 開放 | 関係の質 (成功循環モデル) 心理的安全性 |
5 | 人それぞれ全く違う強みを持っていることを再認識できた。 | ||
6 | 確信をもって自分の長所を人に伝えるのは少し難しいと感じていたので、この結果を使って自分をもっと知ってもらおうと思う。 | ||
7 | 自分の長所や短所について、他の人と共有することに若干の苦手意識があったが、やってみると案外話せたし、メンバーの資質を知り、互いに理解をすることは楽しいことであることを知った。 | ||
8 | グループワークで他のメンバーの強みや弱みを共有し、互いへの理解を深めたことで、今後のグループワークをより円滑に進めることができると思った。 |
強みの理解から発揮へ
新入社員研修中は、日報により、経験学習サイクルを回し、経験から得た学びを実践に繋げています。
クリフトンストレングスの観点でも「資質を強みとして発揮できたこと」のふりかえりを行うことで、資質を活用【経験】し、行動をふりかえり【内省】、「資質を強みとして活用する」方法、つまり仕事における自分ならではの「勝ちパターン」を見つけること【概念化】を図っています。
また、新入社員研修の最終プログラム( 4/23 )では、全体ふりかえり・目標設定を行っています。
目標設定では「〇年後に実現したいこと・なりたい姿」を新入社員が考え、そのために必要な「この 1 年間に実践すること」を宣言しています。ここに資質を活かした取り組みを記入し、翌年 3 月のフォローアップ研修で確認することで、継続的な資質の活用、ひいては、「勝ちパターン」が確立されることを期待しています。
新入社員の特徴と新入社員による考察
クリフトンストレングステストでわかった NRI グループの新入社員の上位資質(トップ 5 )をご紹介します。
No. | 資質 | 特長 |
---|---|---|
1 | 人間関係構築力 | 一人ひとりが持つユニークな個性に興味をひかれる。異なるタイプの人たちの集団をまとめ、生産性の高いチームを作ることに長けている。 |
個別化 | ||
2 | 人間関係構築力 | 意見の一致を求める。意見の衝突を嫌い、異なる意見でも一致する点を探る。 |
調和性 | ||
3 | 戦略的思考力 | 物事の理由と原因を追求する。状況に影響を与える可能性のあるすべての要素を考慮に入れる能力を備えている。 |
分析思考 | ||
4 | 実行力 | 多くの物事を整理し組織化することができると同時に、この能力を補完する柔軟性も備えている。すべての要素と資源をどのように組み合わせたら、最高の生産性を実現できるのかを考えるのが好きである。 |
アレンジ | ||
5 | 戦略的思考力 | 学習意欲が旺盛で、常に向上を望んでいる。結果よりも学習すること自体に意義を見出す。 |
学習欲 |
NRI のダイバーシティ&インクルージョンの考え「一人ひとりの強みをいかす」を想起する資質、個別化(一人ひとりの個性に興味)、調和性(意見の一致)、アレンジ(すべての要素と資源の組み合わせ)が挙がっています。
最後に
新入社員研修でクリフトンストレングスを活用することで、自己理解および他者理解が進み、多様な価値観を認め合い、それぞれの強みを活かし合う関係が構築され、ダイバーシティ & インクルージョンが浸透していました。
NRI グループでは、新入社員研修以外にも組織開発やリーダーシップ開発など、様々なストレングス・ワークショップを実施し、関係性向上・生産性向上へ繋げています。
また、社員の強み・弱みの傾向を把握し、それに応じた育成計画・研修提供も進めています。
「 VUCA 」、「オンライン」、「 Z 世代」… と人材育成を取り巻く環境が変わる中、様々な効果が期待できる「強み」の観点から人材育成に取り組んでみてはいかがでしょうか。
株式会社 野村総合研究所
人材開発部
公共・流通・証券分野のシステム開発を経験後、証券事業本部の人材育成に従事し、 2015 年 8 月より現職。
新入社員から若手社員の育成を担当後、現在は中堅社員を対象としたプロフェッショナル人材育成プログラムの企画・開発・運用を担当。
IT 企業情報交換会、新人育成情報交換会、学び場 (Bar) など、 HR 担当者を中心にした同業種・異業種交流の場を定期的に開催。
ギャラップ認定ストレングスコーチの他、キャリアコンサルタント、 IT コーディネータとしても活動中。
クリフトンストレングスの上位資質( TOP 5 )は、 1. 調和性、 2. 最上志向、 3. アレンジ、 4. 慎重さ、 5. 学習欲。