これからの SIer ビジネスの課題とは? ~未来を描くサバイブ戦略~|SEカレッジ ウェビナーレポート
本日のテーマは、「これからの SIer ビジネスの課題とは? ~未来を描くサバイブ戦略~」です。
経済産業省が 2018 年に発表した「 2025 年の崖」以降、内製化が進んでいます。 その発表資料では 2017 年に「ユーザ(情シス): ベンダー = 3 : 7 」だった IT 人材分布が、 2030 年には「 5 : 5 」になると展望されています。 つまり SIer 人口の減少 = SIer は減るという未来が描かれているのです。
それを裏付けるかのように、 2023 年 4 月にレポートした「リスキリング座談会 ~企業の成長に向けた学びなおしを考える~」では、事業会社のベネッセさんの DX 人材育成が進む一方、 SIer 側である野村総合研究所さんの危機感が感じられる内容でした。
この状況下で、 SIer がどう生き残るのか、 DX 時代に対応できる組織へのシフトチェンジを推進している DX 軍師「トッキー」さんこと 常盤木 龍治 さんと、八子 知礼 さんをお招きし、サバイブ術を伺いました。
DX 人材育成などの施策が芯を食っていないと感じる SIer の方だけでなく、実は DX 人材の採用に苦しむ事業会社にもグサグサ刺さるお話が満載でした! ぜひご覧ください !!
株式会社 EBILAB 最高戦略責任者 / 最高技術責任者 / エバンジェリスト
SAP 、ビジネスエンジニアリング、アステリア等で数々の No.1 シェアソフトウェアに携わる。『 MIJS コンソーシアム』の副委員長をはじめ IT 外郭団体の要職を歴任。
2010 年より日本の産業構造の変革を加速する為にパラレルキャリアエバンジェリスト / プロダクトデザイナー / 事業戦略担当として、複数のイノベーション要素を持つテクノロジー企業で活動するスタイルに軸足を移す。 AI / IoT / Deep Learning / クラウドに精通し、 2018 年初頭より、ゑびやに事業戦略アドバイザーとして参画し、同年 6 月、 EBILAB 創業と同時にファウンダーとして、最高技術責任者 / 最高戦略責任者 / ヱバンジェリストに就任。 愛称は「トッキー」。
八子 知礼
1997 年松下電工(現パナソニック)入社、商品企画開発に従事。 その後介護系新規ビジネス(現 NAIS エイジフリー)に社内移籍、製造業の上流から下流までを一通り経験。その後、アーサーアンダーセンを経て、デロイトトーマツコンサルティングに入社。 2010 年に同社執行役員パートナーに就任。 2014 年シスコシステムズに移籍。 テック業界中心のビジネスコンサルタントとして活躍。 現在は 2019 年に創業した INDUSTRIAL-X で代表取締役を務める。
著書に「 DX CX SX 」( クロスメディア・パブリッシング (インプレス) 刊)、「現場の活用事例でわかる IoT システム開発テクニック」(共著 日経 BP 社刊)などがあり、 Forbes Japan 、 JDIR などメディア掲載も多数
もくじ
IT 内製化の動きと SIer を取り巻く環境
―― ここに内製化の状況を調査した資料があるのですが、まず、この調査結果についてお二人のご意見を伺えますか?
―― 地方では SI ビジネスが変わっているのですね。 八子さんの印象を伺えますか?
この資料は、会社規模が小さいと IT エンジニアが雇えないということを厳然と示しています。 経営観点からしても 300 人未満の事業会社では IT エンジニアを豊富に抱えられず、いわゆる “一人情シス” になりがちです。
一方で古くから IT エンジニアを 5 ~ 10 名ぐらい抱えている事業会社もいて、それは方針によって分かれているという印象です。 この資料でもそれがわかります。
八子さんの話に同意で、 300 名以上の規模になるとコア業務とシステムが密着し、外注だけでは対応できません。 このため内製化を進める事業会社がこれからも増えるでしょう。 ただし基幹システムのリプレイスなどが発生したときは内製化が進んだ組織だけでも難しいケースも多く、 SIer との協力なしには進められません。
つまり、規模だけでなく、対象領域によっても内製 / 外注は分離していくと考えています。
内製化時代に SIer が生き残るにはトレンドへのキャッチアップ or ニッチ領域で圧倒的なシェアを握る
―― では、内製化はこれからも進むと考えたほうがよいでしょうか?
この業界はアウトソーシングとインソーシングの歴史を繰り返していて、今はノーコード / ローコードツールの発達もあり、 10 年 1 サイクルで 2030 年ぐらいまでは内製化のトレンドが続くと予想しています。 とはいえ、トレンドですから、またアウトソーシングの時代にもなるでしょう。
―― とすると、このトレンドには乗っかったほうがよいのでしょうか?
トレンドは追随 “してみる” ほうがよいのです。 過去にもクラウドやモバイルのトレンドがきましたが、それに対応できなかった事業会社や SIer は衰退しています。 このため、トレンドには一度乗ってみて、その意義や価値を検証する必要があります。
―― なるほど! トッキーさんはどのようにお考えですか?
八子さんの意見に同意です。 その上で、 SIer がトレンドに対してどのようにサバイブするのか?
それは業務理解の解像度を高くして、例えば、製造業のベルトコンベアの制御なら世界一であるとか、漁業向け水揚げ高の管理なら競合がいないといったように、ニッチ領域で圧倒的にシェアをもっているプロダクトやソリューションを持っていることです。 そこまでいくと内製化の時代にも飲まれません。
そうでないなら、トレンドにキャッチアップしてスキルセットだけでなく、それより重要なマインドセットも変えないと生き残れないでしょう。
ちなみに DX スキル研修をどれだけ受講させても、自身の IT エンジニアリング業務の DX 化に取り組んでいないようでは、まだまだマインドは変わっていません。
内製化のメリットをコスト削減を目的にするのは時代錯誤
―― その内製化に関して、別テーマとなりますが、そのメリットを調査した資料があり、一番に開発コストの削減が挙げられています。 こちらについてお二方のご意見を伺えますか?
IT エンジニアを抱えることを開発コストとすると予算化しやすく、収益もわかりやすくなるので、この理由を一番に挙げるのはわかります。
ただ IT エンジニアにとっては、内製化の理由の第一に開発コストの削減を挙げる事業会社は願い下げです。 なぜなら、事業会社が IT エンジニアを抱えることで、この資料の 2 点目のアジリティが活かされ、 3 点目の自社ノウハウを IT で外販するようなイノベーションを生み出せる時代にも関わらず、 IT エンジニアを開発コスト = 兵力のように考えるようなものだからです。
八子さんはどう思います?
トッキーの意見の通り、競争力を高めるための IT なのに、コストとして考えているところがナンセンスですし、レベルが低いと言わざるを得ません。
―― 人月というコスト表現にもそれが表れるのかも知れませんね
まさしく! 人月と言っている時点で NG です。 もう集約型の人月の時代ではなく、少数でもイノベーションを生み出す時代なのです。
未来に求められる SIer の価値とは?
―― これまでも少し話が出ていますが、ここからは「これからの SIer のあるべき姿」をテーマとしてお話を伺えますか?
人月商売であるかぎり儲かりません。 理由も単純で、これから人口減少社会になるからです。
仕組みや自動化されたサービスこそが価値があります。 それを自社で開発して売る、もしくは事業会社と一緒にスピーディに自動化を進め、業務を高度化できる SIer が生き残れるでしょう。
私は常駐型人材派遣ビジネス 、いわゆる SES からキャリアをスタートして、そのキャリアの最初で携わった、 Visio で画面ノイズを取るだけの仕事でお金がもらえることに疑問を感じてしまいました。
そんな仕事ではなく、もっと IT エンジニアが主役になるべきだと思って、自社の上司や社長に事業開発や、自社製品開発を行なう提案書をいっぱい出しました。
―― トッキーさんはビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズを倒したいと思ってこの業界に入ったと別のウェビナーで伺いましたが、それだけに許せなかったのですね
だから沢山喧嘩もしてきました。 そして、それをやり続けていると確実に変化が生まれます。
私が八子さんと最初に出逢った際に、ビジネスエンジニアリング株式会社( B-EN-G )に所属していたとき、クラウドも無かった時代に、実行基盤や認証基盤をゼロから作って、製造業向け原価管理クラウドサービス 『 MCFrame online 原価管理』を、当時としては業務基幹システムとしては世界でもまだまだ珍しい時期にクラウド化に成功するという革新を生み出せました。
それからわかることは、新人だろうが若手だろうがベテランだろうが関係なく、提案を続けられる情熱があり、その提案を社会実装することで、劇的にエンジニアリングスキルが変わるのです。
SIer が変わるには、人から言われてやるのではなく、一人ひとりのマインドが提案型に変わることからなのです。
そう、 SIer はシステムを作るのではなくビジネスを一緒に作るべきなのですよね。
そのために、よく地方の SIer には IT 化を進めたい事業会社があるなら相互出資して新会社を立てるか、相互出向して血を混ぜよう、とよく提案しています。
そうでもしないとマインドを変えて、同じ方向を向けないからです。
―― なるほど、マインドを変えるには相応の覚悟が必要なのですね。
では、最後に視聴者へのメッセージをお願いします!
どんどん変化する業界で生きているのだということを強烈に認識された上で、 IT エンジニア個人、そして SIer の皆さんが自分たち自身のスキル、自分たち自身の組織のあり方、自分たち自身のサービスのあり方、何よりも自分たち自身のマインドセットを強烈に変えないと、生き残っていくことはできません。
一緒に頑張りましょう!
シンプルに言います。 苦手な面から逃げるのをやめましょう。
皆さん、すぐ得意を伸ばそうとされますが、 大切なのは、自分の逃避思考に向き合うことです。 これだけで SIer の組織がちょっとずつ変わります。 組織はボトムアップでしか変わらなくて、トップダウンでは変えられないものなのです。
自分がやってこなかったことを、ちゃんと許容できる人間になると、 変化の兆しに対して素直になれると思います。
―― 常盤木さん、八子さん、今日はたくさんのお話ありがとうございました!
まとめ
2030 年に SIer は減ると展望される中、そのサバイブ戦略を 常盤木 龍治 さんと 八子 知礼 さんにお話いただきました。
お二人とも SI ビジネスを体験し、その労働集約型のビジネス構造に疑問をもち、その変革に情熱を傾けたからこそ新しい立ち位置を築いたことがわかりました。 それだけに励ます言葉に力がこもっていましたね。
従来型の SIer である NTTcom さんが一人の IT エンジニアの取り組みによってテックカンパニーに変貌しているように、まず一人ひとりのパッションと行動が求められるのかも知れません。
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私はこの資料で言うと 2 ~ 99 人規模と、 100 ~ 250 人規模の事業会社からよく相談されるのですが、その経験に照らしても、資料の数字のイメージで合っていると感じます。
また、相談された経験をもとに資料を補足すると、 250 人規模未満だと製造や営業などの現場部門と IT エンジニアとの相互理解が進まない問題がよく発生します。 それによって中小企業でよく言われる 10 億の壁、 100 億の壁になることが多いですね。
そこで、地方においては、地域の SIer がこういった規模の事業会社にノーコードやローコードツールを導入し、それだけでなく従来の人月換算を変えて月額顧問料などで契約するケースが急増しています。