リスキリング座談会 ~企業の成長に向けた学びなおしを考える~|SEカレッジ ITフェスティバル2023 開催レポート
2 日間にわたり 9 つのテーマでセッションが行われた 「 SE カレッジ IT フェスティバル 2023 」 から今回は 「リスキリング」 をテーマとした 「リスキリング座談会 ~企業の成長に向けた学びなおしを考える~」をレポートします。
国会答弁で思わぬ脚光を浴びたことはさておき、「リスキリング」が注目されています。
特に DX が急務とされる中、それを実現する DX スキルの獲得、転換も急務です。 ただし、「 DX とは何か?」問題が起こりがちなら、「 DX スキルとは何か?」問題も起こりがちです。 経済産業省 / IPA も見かねて 2022 年末にデジタルスキル標準を発表するほどです。
その暗中模索を切り拓き、いち早くリスキリングを実行している 野村総合研究所、ベネッセコーポレーションの人材開発担当者をお招きし、誰に、何を、どのように行い、どんな問題にあたったのか、沢山の知見を共有いただきました! ぜひご覧ください !!
株式会社野村総合研究所 人材開発部長
荒田 祐子
株式会社ベネッセコーポレーション Digital Innovation Partners DX 人財開発部
2007 年ベネッセコーポレーションに中途入社。(前職はシンクタンクにてシステムエンジニア職)
約 7 年間、進研ゼミのデジタルサービス開発・研究開発等に携わり、 2014 年に人事職へ転換。 内定者・若手育成、キャリア支援、制度企画・運用を経て、 2020 年より現部門にて、デジタル人材育成等全社の DX 推進に携わる。
野村総合研究所とベネッセのリスキリングの取り組み
―― まずは NRI さんのリスキリングの取り組みを伺えますか?
―― なるほど。 では、何をアドオンされているのでしょうか?
もちろん各専門職種では随時スキルを追加しているのですが、 DX だけは職種を超えて必要だという認識で、 DX スキルをアドオンしています。
そこで「 + DX (プラス DX )」というコンセプトを掲げ、 12 の DX スキルを定義し、座学や大学との連携を含め毎年 100 講座程度を社員へ提供しています。
―― ありがとうございます。 続いて、ベネッセさんのリスキリングの取り組みを教えていただけますか?
ベネッセでも DX 対応力向上を目指して本格的に DX 推進に取り組むにあたり、リスキリングが始まりました。
目的は 2 つあり、全社員の DX リテラシー向上と、デジタルサービスに携わる DX 職種を一人でも多く育成することです。
この図でいうと、デジタル基礎が全社員の DX リテラシー向上にあたります。 このうちリテラシーチェックは、ほぼ全社員が受験しました。 デジタル基礎研修ではマインドや視野を広げることを目的として、毎年 4 月に社内外の DX 事例をオンラインイベントのように紹介しています。
リスキリングを実施する側の一工夫
―― ここからは具体的にリスキリングの内容を伺いたいと思います。 NRI さんではどのような内容を実施しているのでしょうか?
まず NRI はベネッセ様のように編集者の方や営業の方など様々な職種があるのではなく、基本 IT エンジニアとコンサルタントであるため、専門性の高い内容になっています。 ただ DX はゼロから学ぶことが多いので、レベル別に用意しています。
また + DX は受講を強制している訳ではなく、ほぼ挙手して受講するスタイルなので、魅力あるものにする必要があります。 そこで人材開発部がタイトルを工夫したり、第一線の講師をアレンジしたり、飽きさせないようにしています。 的を外すとまったく受講されないこともありますね。
―― 自由に学べるという環境では、かえって受講しないというケースが多いのですが、 NRI さんはいかがでしょうか?
それが NRI の場合、もともと学ぼうとする文化があり、年間でのべ 8000 人が + DX の講座を受講しています。
そういった文化に加え、こと DX においてはベネッセ様のように当社のお客様となる事業会社が知識や経験を増やし、ノーコードも含め内製化を進めています。 そのような外部環境の中、 NRI はどんな価値をお客様に提供していくか、が問われています。 当社の社員は自らお客様の一歩先二歩先をいき価値を作ろうとしているのでは、と考えています。
―― なるほど! もともとある “学ぼうとする文化” はどのように醸成されているのでしょうか?
入社 5 年目までに受講必須の研修というのが、それなりの数があり、そこで基礎を叩き込まれ、学ぶことが当たり前のようになっているのが影響しているかも知れません。
また採用活動の中でこういった育成の考え方、制度の発信を増やしているので、それをみて自分で学ぶ意識が高い方が集まっていると聞いています。
―― ありがとうございます。 では、ベネッセさんの具体的なリスキリング内容をお聞かせいただけますか?
全社員向けはデジタル基礎研修などを実施していると先ほど触れましたが、 DX 職種向けには 7 つの職種を定義、さらに必要なスキルとレベルを定義したスキルマップも開発しました。
また、 DX 職種向け研修も準備し、手挙げ制で個別に選択して受講してもらっています。
ただ皆、目の前の業務に忙しいため、年間で 3 日間のリスキル休暇を利用してもらったり、研修内容を業務に近づけ、すぐに現場で活かせるよう、内容も工夫しています。
―― リスキル休暇で忙しい方が集中できる時間を取れるのはいいですね。 その内容面の工夫というのはどのようなものでしょうか?
まだ数は少ないですが、 DX 人財開発部が事業部に入り込んでコースを開発していますし、これからそういった研修を増やしていきたいと思っています。 DX 人財開発部は HRBP と呼ばれる部門人事も兼務していて、事業課題を解決できる人を育成することもミッションなのです。
―― “入り込む” のはなかなか難しいのではないでしょうか?
やはり事業部によって DX への熱量の差があるので、一筋縄ではいきませんね。 他の事業部でうまくいった事例をアレンジして横展開するなど、工夫しながら進めています。
リスキリングで苦労するのはスキル評価
―― 色々と苦労されていることが伺えたのですが、リスキリングを実施するときにどのようなことが大変なのでしょうか?
+ DX で定義した 12 のスキルのレベル評価・見える化をするのが大変でした。
結果、 NRI では自己申告でレベルをつけるようにしました。 これを言うと他社からも驚かれるのですが、厳密なチェックをしようとすれば、その評価工数も跳ね上がり、その見合いで、自己申告という結論になりました。 これは今でも悩んでいるところで、他にいい情報を探しています。
ベネッセ様は DX 職種のスキル評価をしていると伺いましたが、どのように進めてらっしゃるのでしょうか?
7 つの DX 職種を定義して、評価しているのですが、おっしゃるようにとても難しいものです。 いまはスキルマップをもとに毎年現場所属長が評価したものを、部門人事と CDXO とで水平評価しています。
研修も含め、他社や業界でのレベル・評価基準を探したのですが、やはりベネッセの特色が入るので、世の中の基準を意識しつつも、独自のものになりました。
これからのリスキリングの課題
―― では、リスキリングを含め、これから取り組む育成の課題や進めようとしていることを伺えますか?
ジョブ型とはまた違った、挑戦していくことを後押しする新しい人事制度をこの 4 月に導入し、自発的にキャリアを考える機会をもっと作ろうとしています。 「マイキャリアデザイン」と呼んでいるのですが、定年後も含めたキャリアデザインプログラムを進めています。
―― なぜ強制や必須ではなく、自発が必要なのでしょうか?
昨今、人的資本経営が注目されていますが、当社は昔から「人」が資産の会社です。 自発的に学び続ける力が、社員の成長、ひいては、当社の成長には必要と考えています。
―― おっしゃるとおりですね。 続いて、ベネッセさんはどのような課題に取り組まれるのでしょうか?
ベネッセは事業改革のスピードをとにかく上げるためにも内製開発を進めていて、 DX 人財の育成もそれに合わせたレベル・スピードが求められています。 この育成のスピードアップが課題なので、いま現場部門と一緒になって育成計画に踏み込むところまでコミットしようとしています。
―― なるほど。 その内製開発で難しいときに、その期待に応えるパートナーにならなければならない、というのが今の NRI さんのような IT 企業ということですね
その通りです。
―― 最後にリスキリングに取り組む方に向けてメッセージをお願いします
ベネッセもまだまだリスキリングに取り組んでいる最中であるので、アドバイスのようなものは難しいのですが、これまで取り組んできた中では、リスキリングには自社独自にあったやり方が必要だと思いました。
現場との丁寧な対話を重ねて、その自社独自のやり方にたどり着くことを願っています。
DX にかぎらず、学んだことがすぐに成果につながらないので、どの企業様も「鶏が先か、卵が先か」という問題に直面すると思います。 そうすると話がまったく進まなくなってしまうので、とにかく学び続けられる環境を整えることに注力するとよいと思います。
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まず NRI では「リスキリング」という言葉を使っていません。 これはリスキリングに「スキルをリセットして転換する」という意味があるためです。
そうではなく今持っているコンサルティング力やエンジニアリング力のスキルに “アドオンする” 、それが NRI の考え方です。