価値を生み出すデジタル戦略|カレッジ祭 開催レポート
2 日間にわたり 8 つのテーマでセッションが行われた 「SEカレッジ ITフェスティバル」 から今回は “IT × 声 × スポーツ” をテーマとした 「価値を生み出すデジタル戦略」をレポートします。
日本では 2021 年に爆発的に普及した Clubhouse で「声」のメディアが脚光を浴びました。 このセッションでは新しい「声」のメディアを使って、スポーツ業界でどのように価値を作ることができるのか、 J リーグ「 栃木 SC 」取締役マーケティング戦略部長 江藤 美帆 さんと、日本発の音声プラットフォームを手掛ける Voicy の CEO 緒方 憲太郎 さんがセッションし、次々とアイデアが生まれる模様が見られました!
過激にしないと見られない動画、(笑)ぐらいしか感情が表現できない文字など、「目」の世界とは一線を画す「耳」の世界の新しさに気付かされました 😲
ぜひご覧ください! ―― まずは、お二人はすでにご友人とのことですが、改めて取り組まれていることをお聞かせいただけますか? 他にもいろいろなツールを提供いただき、チャットボットや問い合わせ管理ツールなどデジタルサービスを使用しています。 例えば、サッカークラブって、色々な窓口からお問い合わせが一度にくるんですね。 ファンクラブや、スクールやアカデミー、ホームタウン活動や、体操教室のようなこともやっているので、様々なお問い合わせをいただきます。 対応する担当者も様々兼任しながら、確認するので返答がとても遅くなっていました。 そこで「 formrun (フォームラン)」という、問い合わせ対応にとても便利なツールを使って迅速に対応したりと、業務の DX を進めています。
社外向けにはファンサービスとかマーケティングを中心にデジタル化しています。 今、コロナで選手とファンの方々が触れ合う機会が全然ないので、 SNS での活動や YouTube でのライブ配信、 TikTok で「超曲がる蹴り方」などテクニックを紹介したり、新しいところでは、流行りのメタバースになるのですが、「 VR TOCHIGI SC WORLD 」というアプリを作って VR 空間を実現しました。 ログインすると自分のアバターが出てきて、ガチャを回したり、イベントの日になると選手が出てきてトークショーをしたり、仮想空間で触れ合うことができます。 スタジアムがそのまま仮想空間になっていて、イベントがなくても入場でき、ひと気のないスタジアムも体験できます。
―― VR TOCHIGI SC WORLD はイベントをやってなくても、メッセージがやり取りできたり、面白いですよね。 Voicy というサービスをやっています。ご存知ない方には YouTube の音声版と言うとわかりやすいと思います。 配信を希望する方の審査率が 2 % から 5 % ぐらいで、例えば、日経新聞や、カンブリア宮殿といったメディアや、茂木健一郎さんなどのパーソナリティが話しています。 Voicy の特徴は、全てのプラットフォームと比べて「発信をめちゃめちゃ簡単にできる」ことです。 今だいたい 1200 人ぐらい配信者がいて、配信者は声のファンクラブのようなものを作って、リスナーさんからお金をもらえる仕組みがあります。 最近では月に数百万円稼ぐ方や、トップでは年収 1 億円を超えそうな配信者がいます。
また to B 向けには、ドメインを指定したユーザだけが聴ける社内チャンネルを提供しています。 社長の日報チャンネルや、様々な社員へのインタビュー、行動指針の声など、いろいろ作ることができて、社内のどの部署がどれぐらい聞いていて、いつ離脱してるかも全部わかるので、例えば、社長のメッセージがどれだけ聞かれてないかというのも明確にわかります(笑)。
―― 印象的だったのは、 Voicy は録音がスムーズにできて、おっしゃるとおり、ここがポイントのように感じます 発信って手間がかかる方向に進むと、どんどん暇な人ばっかりが活躍するようになるんです。 YouTube も「好きなことで生きている」という CM を流していますが、ほとんどの方は「動画編集で生きている」状態で、一日中、それをできる人しか残っていません。
でも、「多くの人に伝えるべきは、むしろ忙しい人の発信」だと Voicy では逆の発想をしているので、忙しい人でもちょっと喋るぐらいで発信できるところまで手間を下げています。 もともと毎日講演するような方は講演会などでいい話ができたときは残したいと思っていたので、それが簡単に IT 化できて、しかも同じ話をしなくて済むようになりました。
―― それだけ発信するハードルが下がると、中身がポイントになりそうですが、スポーツ選手と声の相性はどうなのでしょうか? 選手ひとりで喋っているのを聴いたことがありますが、あまり面白みはなかったですね。 ただ、何人かの選手が喋っているのを聴くと、結構面白い。 選手同士の普段の会話に近くて、一般人が聞けない話とかもたくさん聞けました。
飲み屋の盗み聞きのようだから面白いよね。 そもそもの話をすると、スポーツ選手って、身体で「人の心を掴む」ことをやってのけているので、緊張感とか想いまで届けられる「声」とはめちゃくちゃ相性がいいんですね。
海外だとスポーツ選手はよく喋るし、スポーツ選手が講演会でめちゃめちゃ稼いでるんですよ。 でも、日本のスポーツ選手は全然喋れないんです。 そもそも教育上、アメリカはスピーキングを一番初めに習って、次にリスニングを習うんですね。 アメリカが「喋る」→「聞く」と進むのに対して、日本は「読み」→「書き」で、次は「そろばん」なんですよ。 いつまでたっても喋らないんですよね(笑)。
―― 確かに(笑) あと、スポーツ選手の中には何を話すのがよいのかもわからない人が多くて、一般人からするとスポーツ選手に聞きたいことが一杯あるのに気付いていない。 だからダウンタウンさんの番組のように、いじられて面白い話が出てくるんですね。
その中で僕がやってみたいのは、試合前のロッカールームの音声とかを引っこ抜きたいんですよね。 それを聞きながら試合会場に行けたら、もう聞いているファンたちはめちゃめちゃワクワクすると思うんですよ。
―― いいですね! ふふふ、聞かせられないこともいっぱいあるんだよ(笑)。
そうそう(笑)。まあ、試合終わった後で、今日帰りにカツ丼食おうとかそういう話だけでも多分面白いですよね。
―― スポーツ選手の情報発信という点では SNS の活用はどうなのでしょうか? そうですね、それこそ SNS も海外の選手が昔からバンバン発信していて、例えば、イニエスタ選手も、スペインにいた頃から活発に発信していました。 彼らの場合、SNS や自分が関わっているメディアをうまくブランディングに活かして、それらが莫大なお金を生んでいます。
日本ではチームで禁止されたり、快く思われなかった時代が長くあったんですが、ここ 3 ~ 4 年ぐらいで、ほとんどの選手が少なくともインスタグラムのアカウントを持っています。
びっくりしたのが、とある場所で、好きな J リーガーのランキングを見たのですが、そのトップ 50 の中にお二人だけ、 J2 、 J3 の選手がいたんです。 そのお二方が何をやっていたかと言うと YouTube で、チャンネル登録数が何万人といるんです。 今、地上波でも露出が少なくなった中で、一般の子どもたちやファンが J リーガーを知る方法に SNS が出てきているのを実感しました。
―― 今回のテーマである “声” と “スポーツ” でいうと、どのようなコンテンツが有望なのでしょうか? 声には大きく 2 つの能力があるんです。 まずは、“ながら” で聴けるという機能です。 試合を見ながら実況中継を聞いたり、移動中でも聴けるといったところが強みのひとつです。
もう一つは人の人間性や熱量が、そのまま届くということです。 「熱量」のわかりやすい例を言うと、社長の想いとかを文字で書くと、「また、こんな綺麗事、言いやがって」みたいになっちゃいますよね。 「声」ではその熱量がそのまま届きます。 やっぱり文字って感情を表現しにくいんです。 令和の時代になっても (笑) までしかできない。
確かに(笑)。 さらに文章を書くのはハードルが高い。
その上、誤読が多いし、炎上しやすいし。
Twitter とかだとラフなことを書くと炎上しがちですが、 Voicy で配信したときは、ちょっとラフな物言いをしても炎上する気がしなかったですね。
話を最後まで聞ける人は、だいたいまともですから(笑)。
なるほど(笑)。 あとは、さっき挙がった “ながら” という意味では、私、 YouTube って、ほとんど画面見てなくて音だけ聞いてるんですよ(笑)。
今、 Youtube は音声広告を出そうとしていますからね。
やっぱり!
YouTube ユーザーの 15 % が画面を見ていないそうだから。 “視る” というより “聴く” 感じになっていて、よっぽどのコンテンツでもない限り、ずっと視ていることができませんよね。
なので、「目」の世界はその場でいいなと思って思わず投げ銭させるとか、過激にして一気に課金させるっていう感覚です。
一方で、「耳」の場合、聴いただけで理解するには、そこそこ知識が必要なんですね。 だから「耳」の世界は理解して、確認した上で、サブスクリプションする人たちとすごく相性がいいです。
何回も聴いてるとその人に一回も会ったことないのに、なぜか知ってる人みたいに錯覚しますよね(笑)。本当に不思議だなと思います。
その「声」の機能を活かして、例えば、ファンクラブだけが聞けるラジオや、スポンサー企業だけに届けられる放送をつくると、聞いている人たちの熱量がどんどん上がるんじゃないですかね。
あとは、ファンが発信するラジオ。 ファンから喋りたい人を公募して発信するもので、多分ノーリスクで、すぐにできるし、低コストでできます。
ファンの公募って面白いですね。 私が YouTube で視ている J リーグの番組でもファンが勝手にいろいろな分析をしたりとか、好き勝手に言っているものがあって、聴いていてすごく面白いですよね。 忖度もないですし、こういう見方もあるんだなと気づかされます。 これ面白いですね。 ちょっとやってみたい。
ファンの中には、顔を出したくないって人が一杯いるんですよ。 そういう人を引っ張れることはメリットですね。 特に女性はメイクしなくてよくなるので、例えば、試合が終わった後は誰かと喋りたくなるのですが、それを家に帰ってからメイクせずにサッと発信できちゃいます。
そのハードルが低いのはいいですね。 なるほど、参考になります!
あとは例えば、監督とか苦悩してるシーンのリアルな「声」を普通に届けたらいいと思うんですよ。 「マジで明日のポジショニングどうしよう …… 。 ここにこの選手入れたらここが余るしなあ …… 。 よし、決めた! ちょっとみんな明日楽しみにしてて!」とか。 聴いたら、絶対もっと応援したくなるでしょう。
それ絶対、面白い!
リアルな「声」でいうと、選手による相手選手の評価も聴いてみたいですね。 選手から見て「あの人のトラップは鳥肌もん」とか、「あのバックが入ると攻めにくいから嫌なんだよ」とか、褒めあってもいいと思うんですよ。 「大迫半端ないって!」とか(笑)。 お互い「あいつ、バケモノかよ」と言ってるほうが面白い。
(笑)。 そういうリスペクトがある評価はいいですよね。 確かに、終わった試合の相手の選手評とか、このプレーのときにこんなことを考えてましたとか聴いてみたいな。
―― それでは最後にスポーツ × 声で生まれる価値は、今後どのようになるのか伺いたいと思います 今、日本はビジュアル重視になってきて、カッコいい / かわいい選手が注目される感じになってしまっています。 そうじゃなくて、「声」でいろいろな人に伝わる、いろいろな魅力を出せる未来にしたいなと思っています。
スポーツチームのスタッフはいろいろ掛け持ちでやっていて、めちゃくちゃ忙しいんですね。 私たちはデジタルツールを 4 年前から入れ始めて、今では SaaS を使うことに抵抗感はなくなり、業務の DX が進んでいます。 でも、顧客向けの DX や発信では YouTube や TikTok のようなデジタルツールが広がっても、撮るのは本当に大変なんですよね。 それが音声をデジタルに使うと、もっとハードルが低くなり、ファンも巻き込みやすくなるので、また違った新しい価値をつくれそうです。
―― お二方、今日はお忙しい中、ありがとうございました! スポーツをテーマに「声」という新しいデジタルツールを使うと、どのような価値が作れるのか探ったセッションでした。 これまでの目で視るメディアではなく、「声」を聴くという新しいメディアの特徴と面白さが伺えました。 一方で、江藤さんが前回登壇したウェビナーでは、「業務の DX 」は進むものの、「顧客向け DX 」は非常に難しいとお話されていましたが、今回のセッションではサッカー業界「外部」の緒方さんという刺激があることで、価値を生み出しそうなアイデアが次々と出てきたことが、とても印象的でした。 生み出すことが難しい顧客向けの DX には、内輪で話すだけでなく、外部と積極的にコミュニケーションすることが重要なのかも知れませんね。 label SEカレッジを詳しく知りたいという方はこちらから !! SEプラスにしかないコンテンツや、研修サービスの運営情報を発信しています。
株式会社 栃木サッカークラブ( J リーグ「栃木 SC 」) 取締役 マーケティング戦略部長
株式会社 ノジマ 社外取締役
株式会社 Voicy 代表取締役 CEO
大阪大学 基礎工学部 卒業後、大阪大学 経済学部 卒業。 それと時を同じくして公認会計士に合格。
2006 年に新日本監査法人へ入社後、 Ernst & Young NewYork 、トーマツベンチャーサポートでスタートアップから大企業までブレインとして経営者を支援。 途中 1 年間かけて地球一周放浪し、アメリカで医療系 NPO の立ち上げやオーケストラ公演をディレクションする。 2015 年、医療ゲノム検査事業のテーラーメッド株式会社を創業し 3 年後、業界最大手上場企業に事業売却。 2016 年に株式会社 Voicy 創業。 声の原体験にアナウンサーの父を持つ。パネリストお二人が進めている DX
では、緒方さん、お願いできますかアメリカのスポーツ選手は声でも稼ぐ
目の世界、耳の世界、それぞれの違い
スポーツ × 声でつくる価値
まとめ
IT専門の定額制研修 月額28,000円 ~/ 1社 で IT研修 制度を導入できます。
年間 670 コースをほぼ毎日開催中!!
様々なことに取り組んでいますが、社外向けには「 DX パートナー」という DX に特化してパートナー企業を募って、色々ご協力いただいています。
今回の主催である SEプラスさんには、 オンライン動画学習プラットフォームの SEカレッジ と LITERA-IT の 2 つを提供いただき、スタッフの社内 IT 教育に活用しています。