講師インタビュー 開米 瑞浩 「読解力と図解力でドキュメントコミュニケーションに上手くなろう」
研修で「何を学ぶのか」も重要ですが、 「誰から学ぶのか」も重視される時代。SEプラスの研修で登壇する講師がどんなことを思いながらコースを実施しているのか、講師にインタビューしています。
今回は SE カレッジで「図解力・読解力」という独自のジャンルで人気を誇る 開米 瑞浩 さんです!
「図解」というと、絵心のような図を描くスキルを想像してしまいますが、開米さんに伺うと、実はそうではなく、「読解力」がキーになるとのこと。 また図解力と読解力は昇進にも効くそうです !? どういうことなのでしょうか?
その真意をインタビューでぜひご確認ください !!
元・組み込み系 IT エンジニア。
「人と話をするのが苦手」であったことから、「口下手でも上手く説明できる方法」を求めて図解を多用するようになり、ITシステムの複雑な仕様や障害報告等を図解する工夫を重ねた結果、逆に「説明上手」という評判を得る。
これがきっかけで「説明する技術」のトレーニング、広報資料のライティングやコンサルティングを行う。
著書に「エンジニアを説明上手にする本」「エンジニアのための図解思考 再入門講座」(いずれも翔泳社 刊)などがある。
インタビュアー: SEプラス 寺井 彩香
人気を博した初連載
―― 開米さんというと “図解” という独自ジャンルの執筆や登壇が多いのですが、これまでにどのようなご経験を積まれたのか、伺えますか?
―― そうすると、プログラミングから図解のスキルが培われたのでしょうか?
いえ、プログラミングというよりは、開発で使用するドキュメントが非常にわかりにくかったことに起因しています。
とにかく当時のドキュメントは読みにくくて、なんとか理解しやすくしようと工夫していると、図解するとわかりやすくなることを体感しました。 それから周りに図解を教えたり広めたり、もしくは代わりに描くということを始めました。
―― 開発ドキュメントが読みにくい、というのはよく言われますものね
例えば、地図を文章でわかりやすく説明するのは難しいですよね。 「地図のあちらとこちらが繋がっていて、~」という説明を延々としなくてはなりません。
IT エンジニアリングも同じで、データの流れ、システム構成など繋がりがあるものが非常に多く、開発ドキュメントはどうしても複雑になります。
―― なるほど。 それで図解を周りに教えるようになって、書籍の執筆につながったと … ?
それに近いかも知れませんが、当時所属していた会社が 2000 年前後に出版社の翔泳社と縁があって、それで書籍の企画を持っていったのがキッカケです。
―― 持ち込み企画がキッカケだったのですね
書籍の企画だったのですが、回り回って新雑誌の連載で、掲載されることになりました。 それがとっても人気になったようで、担当の編集者に聞くと、その雑誌が発刊中(およそ 1 年で休刊)、私の連載が一番人気だったとのことでした。
当時の掲載雑誌 NEXT ENGINEER( 2003 年 3 月に休刊)
―― そんな人気連載だったのですね!
その人気のお陰で、「連載と書籍でこれだけ人気があるなら、これだけで仕事ができるのでは」と思うようになり、独立するキッカケにもなりました。
―― 人生何が起こるかわからないですね
そうですね、実はこれが縁で、他の雑誌でも連載を持つようになり、 5 年ぐらい連載を書いていました。 ちなみに連載中は、 10 代の頃に小説家になろうと思って文章構成をいろいろ工夫した経験が役に立ちました。 人生、何が役に立つかわからないですね。
図解力と読解力とは
―― では、開米さんが得意とされる “図解力” と “読解力” について伺いたいのですが、まずは図解力と読解力とはどんなスキルなのでしょうか?
一言で申し上げると、論理的に複雑な情報を整理整頓してわかりやすく描く、それが読解力と図解力です。
論理的に複雑な情報とは、先程、例で挙げた地図のように、因果関係や相関関係が入り組んでいるものです。
そういった情報を説明するには図が必須になるのですが、ただし図を描くことに慣れていないとできません。 これは多くの IT エンジニアが悩んでらっしゃいます。
―― 図を描くというのは、あまり機会がありませんものね
その図解に加えて、他の人に教えていると、図の描き方がわかっても、情報を読み取るときに弱点があることに気づきました。 図解の課題を出しても、実は情報の構造をうまく読み取れていなかったのです。
図解の前に読解力が必要だったのですね。
―― なるほど、 “整理整頓” という意味はそういうことだったのですね
はい、図解をするためには読解力が必要で、さらに言うと、読解力には図解力が必要なのです。 両者は表裏一体だったのです。
―― それで研修で 2 つのスキルをテーマにしているのですね。 素朴な疑問ですが、開米さんはその読解力と図解力をどのように身につけられたのですか?
高校生のころ、数学の問題を解くときに、問題を理解しやすく整理するために、図を描いて問題の表現を変えながら解くようにしていました。 これは自分の理解だけでなく、特に友人に教えるときに役に立ちました。
―― その教えを受けたい人生でした … (笑)
そこで数学で論理構造を現せるのであれば、それは他分野の専門書でも通じるのでは、と思って試すようになりました。
というのも、当時読んでいた専門書がわざとわかりにくく書いてるのでは、と思うぐらい難解だったのですね。 それもそのはず、専門書の場合、小説やエッセイと違って、文章に理屈、ロジックがあるので、それがわかりにくい原因でした。
―― おっしゃっていた “論理的に複雑な情報” と同じ問題構造ですね
そう、文章だけではロジックが追いづらい。 それで読んでいた専門書で試してみると、同じように図解と読解がスムーズにできました。 それから複雑な構造をビジュアライズするのが得意になり、 IT エンジニアの仕事でも使えるスキルでした。
―― IT エンジニアはドキュメントを読むことがとても多いですからね
これは講師を始めてからですが、受講された方から「読解力・図解力の研修のおかげで昇進できた」と言われたこともあります。 講師にとってはとてもうれしいコメントであり、読解力と図解力は昇進にも効くことがわかりました(笑)。
―― (笑) 素晴らしい! どういう因果関係があるのか調べたくなりますね
これは別の受講者の方からですが、「お客様とコミュニケーションを取るのがうまくなった」と寄せれられたこともあったので、もしかすると、お客様からの評価が上がって、社内の評価も上がった = 昇進されたのかも知れませんね。
学校を作ってみたいという思いが講師に
―― 講師の話が出てきたところで、どういった経緯で講師として登壇されるようになったのか、伺えますか?
こう言うと不遜に聞こえてしまうのですが、もともと子どものころから、授業が面白くないと学校に不満を持っていました。 自分が面白いと思うことを追求できる、自分に合う学校があったらいいのに、自分の理想の学校を作れればいいのに、と思っていた時期がありました。
―― そんな思いを子どもの頃に思ってらっしゃったとは驚きです!
それから 10 数年経ったあと、知人から「新しいビジネススクールを立ち上げるので手伝って欲しい」とお願いされ、その裏方をしていました。 そこで、友人が前例のない講座を自分で企画して、受講者を集め、講師をして、まさしく学校を立ち上げている姿を目の当たりにしました。
その光景をみて、学校を作れればいいなという願望だったものが、「私もやろう!」という決意に変わり、講師をするようになりました。
―― そんな熱いエピソードがあったのですね! 講師を始めてみて、いかがでしたか?
最初はうまくいかなかったですね。 内容を詰め込みすぎて、受講者が消化不良になってしまっていました。
これは読解力を上げるコツでもあるのですが、「入れ替え可能な見出しをつけない」という法則を守っていませんでした。
これは目次の中で、見出しを入れ替えても通用するなら、見出しになっていないという意味です。 複雑な情報はいくつかのパートに分けてから繋げますが、そうするとだいたいこの法則にハマります。
つまり構造を明らかにしきれてなくて、複雑なままになってしまっている、ということです。
―― なるほど、それで受講者が消化不良になってしまったのですね。 それにしても面白い法則ですね!
研修でこだわっているポイントですね。 法則にキャッチフレーズをつけて、何回も言うことを意識しています。
―― それにはどのような効果があるのでしょうか?
複雑な情報を整理するのにパターンがあって、人は誰しもそのパターンを無意識にやっています。 それを言語化して「~の法則」と名前をつけて意識させると、記憶に残ります。 無意識から意識的にできるようになると、今度は応用できるようになります。
―― そのこだわりで研修で得た知識がスキルに変わるのですね、すごい … 。 そんなスゴ技をお持ちの開米さんでも研修で苦労されることはあるのでしょうか?
もちろんあります。 というより、いつも、ちょうどよい難易度の教材を作るのに苦労しています。
―― というと?
複雑な構造をもつ文章を練習問題にして、演習してもらうのが私の研修のパターンです。 ただし、この “複雑な構造を持つ文章” というものは、だいたい情報量が多く、専門知識も必要になってしまいます。
その専門知識の度合いを調整して、手頃な難易度をもつ練習問題を作るのがとても難しいのです。
―― 非常に難しい問題ですね
研修を広くオープンに募集すると、どうしてもこの問題がつきまといます。
このため 1 社向けの研修で、その会社専用に、普段扱っているドキュメントを見せてもらって、それをもとに研修することも始めました。 受講者の方も普段、見慣れた文章を使うので、熱の入れようも変わります。
―― スキルの定着に直結しますね! 私もお客様企業に声をかけてみます。
では、最後に受講される方にメッセージをお願いします!
読解力と図解力は相手への説明に使えるだけでなく、自分の理解を深める、自分の考えをまとめることにも役に立ちます。
ぜひ、研修でそのスキルを身につけて、仕事をラクに、速く、楽しくしましょう!
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大学に入って寮生活をしているときに同室の友人がパソコンを持っていまして、借りてプログラミングをしてみたら面白かったんですよ。 そこで、その後いろいろあって大学を中退してから、プログラマーを始めました。
ところがその仕事の中で人に複雑な説明をしなければならない機会が多く、コミュニケーション下手な自分には難しいものがあったため、図を書くようになりました。