講師インタビュー 山浦 恵 「書く力を上げて発信力を高めよう」
研修で「何を学ぶのか」も重要ですが、 「誰から学ぶのか」も重視される時代。SEプラスの研修で登壇する講師がどんなことを思いながらコースを実施しているのか、講師にインタビューしています。
今回は SE カレッジでも「文章力アップ」をテーマとしたコースで長年人気の 山浦 恵 さんです!
お話を伺うと、講師として長年活躍される一方で、それよりも長いキャリアがあるのが、なんと劇作家でした。
そんな意外な経歴や、もちろん山浦さんの得意分野、「書く」スキルについても日々の鍛錬のコツ、文章力とは何か、珠玉の言葉もインタビューしました。 ぜひご覧ください !!
1991 年現 TIS 株式会社に入社し、研修企画・研修インストラクターを担当。
2001 年 TIS 株式会社退社後、 2002 年個人事務所ミームエディターズを開設。
現在は「意味を編集する・伝える」ことをミッションにビジネス文書講座や教育教材開発に加え、プライベートでは演劇の台本も執筆など多方面で活動中。
著書に『「読む」「書く」で失敗しないための オトナの国語力養成帳』(技術評論社 刊)がある。
インタビュアー: SEプラス 寺井 彩香
劇作家としても活躍
―― 山浦さんは講師として長い経歴をお持ちとのことですが、現在までにどのようなことをされてきたのでしょうか?
―― そんな意外な仕事もあるのですね。 “意外な” という点では、演劇の台本( = 戯曲と言う)も書いてらっしゃると小耳に挟みました。 どのような経緯で書くようになったのでしょうか?
もともと大阪に住んでいまして、趣味で小劇場でよく観劇しているうちに、観客という立場ではなく段々と書きたいという気持ちになったのですね。
調べてみると兵庫県伊丹市で、有名な劇作家である北村 想さんが塾長(今は名誉塾長)を務める「伊丹想流私塾(いたみそりゅうしじゅく)」という戯曲塾があることを知りました。 そこに通って戯曲の書き方を学びながら、友達の劇団も手伝うようになりました。
―― そんな塾があるのですね
今でも戯曲を書いていて、おかげさまで、劇作家協会の新人戯曲賞の優秀賞に 2 回入選、最近では近松賞(近松門左衛門賞)の最終審査にノミネートされました。
―― えっ、プロ並みの実績をお持ちだったのですね! 知りませんでした … 。 詳しくないのですが、戯曲はどれぐらいの量を書くのでしょうか?
演劇が 1 時間 30 分ぐらいだとすると、原稿用紙で 90 枚ぐらいになります。
―― なんと。 かなり時間もかかりそうですね
構想や構成を考えるときのほうが長く、だいたい 4 か月~半年、長くて 1 年ぐらいかかり、実際に入力するのは 3 週間程度ですね。
―― 長くて大変ですね
ですが、とても楽しいものです。 最近は “能” から着想して、資料を集めたり、舞台となった場所を訪問したり、詳しい方に取材して台本を書いたりしています。
小学 6 年生と社会人に教える文章の「技」は同じ
―― 趣味で取材しながら構想を考えるのは、とても楽しそうですね。 一方で、講師の仕事はどのようなきっかけで始められたのでしょうか?
社会人 10 年目で大阪から東京に引っ越して、本格的に演劇の活動をするのにあたって、日々の生活のために講師業を始めました。
―― 講師はそれほどスグに始められるものではないと思うのですが、何かツテがあったのでしょうか?
もともと前の会社で教育担当だったので、そのとき付き合いのあった研修会社の 1 社から講師登壇の依頼を受けて始めました。
―― 前職のご経験が活きたのですね! どのようなカテゴリの研修からスタートされたのですか?
それが今と変わらず、最初の研修から「文章」がテーマでした。
―― 「文章」や「書く」ことを教えることも長い間、継続されているのですね。 そのテーマだとやはり対象は新人の方が多いのでしょうか?
新入社員向けが多いものの、若手やマネジメント層から多岐に渡ります。 変わったところでは中学入試や大学入試で論文添削などもあって、実は社会人以外にも需要があります。
書くことは発信力に繋がるので、どの世代にも変わらず、必要なスキルです。
―― なるほど! コロナ禍もあってより一層発信力が必要になりましたよね。 そういった学生向けにはどのようなことを教えるのですか?
さすがに書く内容は異なりますが、実は小学 6 年生と社会人に教える文章の「技」は同じなのですね。
―― 確かに言われてみると、文章構成や文法が変わる訳ではありませんものね。 では、長年講師を務められてきて、心がけていることはございますか?
嘘をつかないことです。
―― というと … ?
講師をしていると、自分で得た知見ではなく、ただ聞いただけの話、知識を大仰に言ってしまう、思っていないことを言ってしまいそうになることがあります。 こういったことがないように気をつけていて、受講者には 100 % 自信を持って言えることを伝えています。
そのために、曖昧なことを伝えないように、戯曲の取材同様、伝えたいことを中心として周辺の 3 倍 4 倍の範囲は調べています。
―― そんな入念な下調べをしてらしたのですね。 長年、下調べと研修を積み重ねられて、講師として「うれしかった」ことはございますか?
ある公開講座で、受講していた新入社員のお一人が途中、「書くことが苦手」とボヤいてらしたのですね。 それを聞いてフォローしながら、最後の報告書を書く演習を迎えました。
誰もが演習を終えて帰る中、その方は最後まで残って、一生懸命、最後の項目まで書いてらっしゃいました。 その姿を見て、苦手だったのに最後まで書こうとする気持ちの変化に胸を打たれました。
―― 講師冥利に尽きるシーンですね!
「書く」スキルは 1 日では変えられませんが、研修で行動や気持ちは変化させられるかもしれないと気づきました。 それが講師として最も注力し苦労するところなので、とてもうれしかったですね。
文章力アップの秘訣
―― その「書く」スキルについて、私も広報として文章力を上げたいと思っています。 コースでのお楽しみの部分もあると思いますが、コツのようなものを教えていただけないでしょうか?
小学校時代から周りで起こった出来事をノートにまとめる習慣がありました。 振り返ると、このように何かを見たり聞いたときに、自分の言葉でまとめる、ということが鍛錬になったと思います。 これには見たことや聞いたことを構成し直すことも含まれます。
―― なるほど、見たまま、聞いたままをそのまま書いても、ただ写しただけですものね。 アドバイスありがとうございます!
また、よく「量より質」と言われますが、量を書かないと、質の向上には繋がりません。 継続することが大事ですね。
―― 継続することが一番難しいのかも知れませんね。 研修では、このコツも含め、どのようなことを教えてらっしゃるのでしょうか?
受講者が取り入れやすいように、具体的な「技」を伝えています。 それに加えて、「伝えたい気持ちと技の両方が必要になる」と教えているのですが、これが大変なのですね。
―― 気持ちと技 … ですか?
能の世阿弥が書いた『風姿花伝』という本があります。 ちなみに私は「無人島にどの本を持っていきたいですか?」という定番の質問にはこの本を答えるぐらい好きな本でして(笑) この本に「花は心、種は態(わざ)なるべし」という一節があります。
―― どういう意味なのでしょうか?
私はこれを「まず技の蓄積があって、次に自分の心が現れた花が咲く」と捉えています。 研修では、気持ちやパッションがあれば伝わる、という受講者もいます。 ただ、その気持ちやパッションを意図どおりに相手に伝えるようにするには、工夫が必要で、それが「技」なのです。
―― 文章力に悩むすべての人に伝えたくなる、とても良い言葉ですね!
では、最後に受講される方へメッセージがあればお願いします
「書く」ことは発信力にそのまま直結します。 ただ、書くことは 1 日では身につかず、日常から書くことを心がけて、初めて身につけられるものです。 そこで必要となる技を研修でぜひ知って欲しいと思っています。
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就職してから 10 年は企業で人事・教育を担当して、それから講師業を始め、ちょうど 20 年経ちました。 また講師の仕事だけでなく、「書く」仕事もしていて、教材の作成や変わったところでは昇格試験の作成や添削もしています。