オンライン × オフラインで実現する未来の顧客体験|カレッジ祭 開催レポート

2 日間にわたり 8 つのテーマでセッションが行われた 「SEカレッジ ITフェスティバル」 から今回は “IT × エンターテインメント” をテーマとした 「オンライン × オフラインで実現する未来の顧客体験」をレポートします。
女性に大人気のスマートフォンアプリゲーム「アイドリッシュセブン」のプロデューサーを務める 下岡 聡吉 さんをお招きし、顧客から熱い支持を集め続ける UX を考える方法や、オンラインとオフラインがクロスする現状について、お話を伺いました。
オフライン、オンラインの境界線がなくなる時代に、何が求められているのか、そのヒントが掴めるセッションでした! ぜひご覧ください !!

株式会社 バンダイナムコオンライン
チーフクリエイティブオフィサー / エグゼクティブプロデューサー
『アイドリッシュセブン』プロデューサー
もくじ
新しい変化によって生まれる変化を芋づる式に「いくつもの未来を考える」 – 下岡さんの未来を先取る UX の企画方法
―― アイドリッシュセブンが 7 周年を迎えロングヒットしていますが、ファンを魅了する顧客体験をどのように企画しているのでしょうか?
いまの状態で発想すると、例えば、コロナ禍で環境が変わって、これまでオフラインのつながりの中にあった「自分の居場所」に加えて、それとは別に、オンライン上に「自分の居場所」があるケースが増えてきていますよね。
Twitter 、 Youtube 、TikTok 、Instagram といった SNS がどんどん変わり、実名の SNS もあれば、匿名の SNS もあって、好きなように選ぶことができる。
そうすると、現実に存在している自分と、現実には隠している自分、例えば、オフラインで繋がっている人には見せないけど、 Instagram ではラーメンに詳しいインスタグラマーとして有名になっている人もいるわけです。
このように顧客の環境は常に変化し、サービス自体の定義も変わります。 だから、環境が変わったと認識したときに、その変化に対してコンテンツやサービスがどう変われば、一番顧客が喜んでくれるのか、それを突き詰めて発想するようにしています。
―― 顧客の環境という点では、ここ 1 ~ 2 年で激変しています。 どうすると顧客の変化を予測できるのでしょうか?
予想するのが難しいので、プロトタイピングが必要です。 つまり、いくつもの未来を考えて企画を立てるんです。
“いくつもの未来を考える方法” として研究開発がわかりやすいので、例にしてみましょう。
例えば、 VTuber は今まで事前にモーションキャプチャで撮って配信していたものが、コンピュータの性能が上がり、今ではリアルタイムに、また手間もお金も掛けずに配信できるようになっています。
また、いま音声合成がとても “なめらか” にできるようになり、キャラクターを動かす技術も AI が進化し、音楽に合わせて、決められたアクションとアクションを自動で組み合わせて、キャラクターがあたかも楽しんでいるようにできると、研究開発を行っている弊社のグループ企業からレポートされています。
その上で、私の役割として、こういった技術進化の使い道を考えるだけでなく、これによって生まれるかも知れない変化、 “VTuber が人間そっくりのキャラクターをカジュアルに作れそう” に対しても打ち手を考えます。
研究開発にもアンテナを張り巡らせ、新しい変化を予想し、その変化が生む変化にもプロトタイプを芋づる式に考えること、これが “いくつもの未来を考える” ということですね。
「広がりそうなところには目をつけて手をつける」 – 下岡さんの未来をプロトタイピングする方法
―― そのプロトタイピングは具体的にどのように進めているのでしょうか?
エンターテイメントの世界では、どうしてもボリュームが必要になるんですね。 開発がある程度必要なので、開発したものを好きでいる人が増える予想ができないと、なかなかサービスに踏み切れません。
例えば、アイドリッシュセブンを出した当時、テレビというメディアと同じように携帯はみんなが持っている状態でしたが、それがガラケーなのか、スマホなのかという違いがありました。
スマホであれば、同じゲームでもできることがガラケーとは違うし、ガラケーのコンテンツの延長線にはないアプリが出始めていることをみて、スマホは 100 % 、 1 人で 1 台 2 台と持つようになるという潮目を感じました。
この潮目のように「広がるものがあれば、そこにはサービスを出しましょう」というのが、一つ目です。
次に、アイドリッシュセブンは “ファンと共に成長するアイドルを創出する” ことが目的でしたが、世界を見渡せば同じことを考えている人は必ず何人かいるので、「最速で出す」ということが必要です。

仮に同じようなことをやっている人が 100 人いたとして、 100 人目にリリースしても、前に 99 人いると埋もれますよね。
―― なるほど、まずは市場やメディアの広がりを考えると …
“次に来る注目メディア” というのは、常にいろいろありますが、人を集める場所になる可能性があるところは、必ず見ておかなければいけないと思います。
―― そうなると、今はメタバースですか?
今は、バズワードっぽく捉えられがちですが、どれぐらいの規模の企業が、どれぐらいの投資をして実現しようとしているのかは、コンテンツを作る側として、やっぱり注目しますね。
人口が増えてくることがわかっていたら、その情報は絶対みんなが欲しくなるので、本当に起こるのかどうかわからないけど、手をつけます。 手をつけないと、その後、苦しくなるので、企画は絶対作っておかないといけません。
―― なるほど。メタバースが実際に普及するかどうかはわからなくても、人を集める手法が生まれる場所になる可能性がある以上、プロトタイプして企画は絶対に作る、ということですね
ただ “メタバース” と騒がれる前に、あるシューターゲームの中で、米津 玄師さんがライブをして話題になりました * 1。 もちろんメタバースがあって、そこでライブをやるというやり方もありますが、結局、人が集まる場所は、それ自体がメディア化するな、と感じました。
それと同時に、ファイナルファンタジー XI * 2 でみんなで集まって夢中になって遊んだことを思い出し、それならメタバースに参加するよりも前に、まず自分たちですべてコントロールできて、メディア化できる世界を作って、その世界でみんなと遊びたい、という気持ちがとても強くなりました。
開発中の「 BLUE PROTOCOL 」はそれが企画の原点になっています。

* 2
編集部注ファイナルファンタジーシリーズでは初めて、オンラインで多人数で同時にプレイできるロールプレイングゲーム( MMORPG )となった
「強烈な思い出を残す」 – 下岡さんが考えるアフターコロナの UX 設計
―― コロナによってオフライン / オンラインそれぞれの体験が変わっていますが、今後どのような体験が求められているとお考えでしょうか?
もともとオフラインしかできないと思っていたものが、今は意外にオンラインでもできる、と感じ始めてますよね。 さらに、オンラインにならないとそもそも面白くないと思うことも出てくるでしょう。
じゃあ、オンラインが一番面白いんだから、オンラインだけでいいんじゃない?って言われると、モヤるんです。
例えば、ご飯を食べる体験は絶対オフラインでしかできないから、もうこれはオンラインにしなくてもいいやとないがしろにするのは、サービスとして違いますよね。 その逆で、私たちのようなオンラインのビジネスは、オフラインでも、この身体でも、楽しめるようにするには何ができるんだろうかって発想するといいと思うんです。
例えば、アイドリッシュセブンでは、アイドリッシュセブンが扉になってオフラインで楽しめる体験を作ろうと、いろいろ企画しました。
JR 東海ツアーズさんと企画して、旅行の魅力を感じてもらえる、愛知や京都への「オフ旅」を実施したり、各地の交響楽団にお願いしてアイドリッシュセブンの楽曲をオーケストラで鑑賞するようにしたり、オフラインに拡張して、顧客に新しい楽しさを作れると、とてもうれしかったですね。
―― なるほど!
さらに言うと、ちょっと前は、オフラインでしかできないことをオンラインでもできるようにがんばっていましたが、今度は逆にオンラインでできることをどうやってオフラインに展開するのか? と逆発想すると、また新しい体験が生み出せます。
先日開催したアイドリッシュセブンの 7 周年のライブはその最たるもので、アプリ内でのライブがオフラインでも楽しめただけでなく、さらに、そのオフラインのライブをオンラインで視聴したファンの方々にも楽しめるよう工夫して配信できました。
―― オフラインとオンラインの垣根がなくなってきますね
それで言うと、先程、お話した僕にとってのファイナルファンタジー XI のオンラインでの体験は強烈で、オフラインが中心だった高校時代の思い出と同じぐらいの感覚で残っているんですよね。
その思い出に違いがあるかと言うと、ありませんよね。
―― 確かに !! 思い出は変わりませんね!
となると、オンラインとオフラインどちらも考えることが大事で、この二つの境界線がない今、思い出となるように作り込むこと、これからはそれが体験を最大化すると思っています。
まとめ
ゲーム、エンタメという栄枯盛衰が激しい世界で、「アイドリッシュセブン」というリリースから 7 年たっても熱い支持を集め続ける UX のつくり方について、プロデューサーの下岡さんからその一端を伺いました!
「一番先に市場を考える」ことと、「顧客の思い出に残す体験をつくる」こと、相反しそうな要素が下岡さんのプロトタイピングの中にあったことが意外で、顧客の熱狂とビジネスをバランスするプロデューサーらしいとも感じました。
市場と、オンラインとオフライン、どちらも重視する下岡さんの次回作「 BLUE PROTOCOL 」ではどんな体験が待っているのでしょうか? 今後のリリースに注目しましょう。

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現在の顧客や場の未来、といっても 100 年先とかではなく、 3 年から 5 年くらい先にどんな姿になるのか想像し、そこでどんなものを作るとよいか、という発想をしています。