2021 年を振り返り 2022 年の IT 業界を考える|カレッジ祭 開催レポート

2 日間にわたり 8 つのテーマでセッションが行われた 「SEカレッジ ITフェスティバル」 から今回は “IT × 業界の今とミライ” をテーマとした 「 2021 年を振り返り 2022 年の IT 業界を考える」をレポートします。
伊勢の老舗の商業施設(商店、食堂など)を運営する「ゑびや」で、来店予測 AI を始め様々な DX を独自開発、売上を 4 倍にするなど圧倒的な成長を仕掛けた EBILAB から最高戦略責任者の「とっきー」さんこと 常盤木 龍治 さんと、同社のテックリードを務める「さぼ」さんこと 立花 豊 さんをお招きし、 2021 年に IT 界隈で話題になった出来事やニュースを振り返り、 2022 年の IT 業界の予想を伺いました。
NFT やメタバースなどバズワードから見えてくる未来や IT エンジニアの取り組み姿勢など、独自の切り口で本質に迫っていただきました。 ぜひご覧ください!

株式会社 EBILAB 最高戦略責任者 / 最高技術責任者 / エバンジェリスト
SAP 、東洋ビジネスエンジニアリング、アステリア等で数々の No.1 シェアソフトウェアに携わる。『 MIJS コンソーシアム』の副委員長をはじめ IT 外郭団体の要職を歴任。
2010 年より日本の産業構造の変革を加速する為にパラレルキャリアエバンジェリスト / プロダクトデザイナー / 事業戦略担当として、複数のイノベーション要素を持つテクノロジー企業で活動するスタイルに軸足を移す。 AI / IoT / Deep Learning / クラウドに精通し、 2018 年初頭より、ゑびやに事業戦略アドバイザーとして参画。

株式会社 EBILAB テックリード
Web アプリケーション開発を主軸にサーバーサイドからフロントエンドまで幅広く担当する。 EBILABではテックリード、アーキテクトとしてプロダクト開発に従事する。
もくじ
テクノロジー視点で Clubhouse の面白いところ、 NFT の行く末など
このセッションはブラジルにいる常盤木さんと、 EBILAB の沖縄拠点にいる立花さんとを繋いで行われました。 ちなみに常盤木さんはブラジルでテクノロジーで犯罪撲滅するというミッションのため短期滞在中でした。
なお、セッション中は常盤木さんの愛称、「とっきー」さん、立花さんの愛称「さぼ」さんとそれぞれお呼びしています。
―― こちらが 2021 年 1 月~ 3 月に起こった業界の出来事ですが、気になったトピックはありますか?

―― Clubhouse は、今までよりも音声のやり取りがスムーズだと評判になりましたね
裏側に Agora*が使われているのですが、スピーカー(話者)と聴いている側で、実はレイテンシが違うという設計になっています。
つまりスピーカー同士は「あうん」で会話できるけど、聴いている人にはやや質を落として配信だけを行うアーキテクチャになっていて、すごく面白い。
*Agora : 音声 / ビデオ通話 / ストリーミング などを簡単に実現できる、開発者向けの SDK やノーコードツールを提供する企業。
僕も Clubhouse を使って 2 月から毎週、沖縄起業家交流会をやってました。
こういう新しいテクノロジーが生活に及ぼす影響はユーザとして体験しないと、ただ知ったようなこと言う人だけになってしまう。 だから、僕はこういったことが出てきたときは、全部片っ端から全部試しています。
―― なるほど。 とすると、ここで挙がっている NFT もですか?
FiNANCiE*で NFT Art も取り扱い始めたので、試しに琉球アスティーダ*のものを買ってみたら 40 万だったのが、 400 万ぐらいになったこともありました。
とはいえ、国際租税の問題で金融製品の税制優遇がない状態なので、特殊じゃないと実は利益が出ない構造になっています。 金融商品のみにフォーカスされているのは、 NFT の本来のあるべき姿ではないのですが、こういった形で注目を集めているということは、いい方向なのかなという気はしています。
*FiNANCiE : ブロックチェーンのトークン(認証で使う token の意味ではなく、代用貨幣という意味)をもとにクラウドファウンディングができるサービス。 成立後、購入したトークンを売買できる。 gumi の創業者 國光 宏尚氏が開始
*琉球アスティーダ: 沖縄県に本拠を構えるプロ卓球チーム
―― NFT は引き続き、注目したほうが良さそうでしょうか?
そうですね。 ただ、どちらかというと、テクノロジーに人類の倫理観が追いついてないという感じなので(笑)、 10 年、 20 年とかけて成熟してくるんだろうなという感覚です。
さぼ 君も同じようなコメント書いてるよね。
そうですね。 僕もとっきーさんも、 P2P*の技術が大好きで、本当にいつ来るのだろうかと待ちわびているのですが、法的な整備などが追いついてこないことにはな、と思っています。
*P2P : Peer to Peer の略。 従来のサーバ – クライアント通信ではなく、端末 – 端末間で相互にリクエスト / レスポンスする通信のこと
そう P2P は、誰かが情報を支配している、今のインターネットを超えて、未来の平等の分散型のアーキテクチャによる、本当の意味で対等な情報共有の場が成し遂げられるための技術として、本来あるべきものです。 僕はとても価値がある技術だと思っています。
―― 話題の Web3 で主要な技術になりそうですね。では、続いて、 4 月~ 6 月ではいかがでしょうか?

Apple が発表した AirTag が面白いですね。 周りの人で間違ってスーツケースを持っていかれたけど発見できた、という話を周りで聞いて、便利そうと思っています。
また技術も面白い。 近くにある iPhone など Apple 製品が通信をプロキシ (Proxy) しているので、本人のものじゃなくても、近くに Apple 製品を持っている人がいれば、それが代行して Apple のサーバと通信する。
ローカルでは P2P なんだけど、誰かがクライアント – サーバの通信をしてくれるという仕組みです。
それは面白いよねえ。 だって要は Apple 製品同士のネットワークを作っちゃったわけだから。 Proxy × P2P って発想が面白い。
デジタル庁に期待することなど
―― 9 月にはデジタル庁ができました。 どんな印象をお持ちですか?

知人も何人か入っていますが、人選がとても良いと思いますね。 ちゃんとしたオピニオンを持つ方々が、国の流れにしっかり意見を言えるようになりました。 定義プロセス自体に参画しているというだけでも、今までよりもはるかに風穴があいたと思いますよ。
メディアが言うような短期的にどうなるとかではなくて、 3 年先、 5 年先に結果が出るものだと思います。
ただ、個人的には、なぜマイナンバーカードを物理デバイスとして持たなきゃいけないのか、未だに理解できないですね。 人間に対して番号がもう振られているのなら、カードを普及させること自体がそもそもデジタルを一番阻んでいる壁に思えるので、これを国がどう突破するのか、これが僕が注目しているポイントです。
―― そう言われるとデジタルなのにという疑問がわきますね。 ほかの Topic は … どうでしょうか?
メディアがこの「東京オリンピック / パラリンピック期間 サイバー攻撃が約 4 億 5000 万回も運営に影響なし」を大々的に扱わなかったことに、この国の闇を感じますね。 トラブルなどで炎上するとスグにニュースになるけど、 人事とか IT って減点主義だから一生懸命やって対応したとしても、まったく褒められない。
このニュース自体、認知している人が、視聴者にどれぐらいいるのか、という疑問があるぐらいです。
僕もここで初めて知った感じです(笑)。 国のセキュリティエンジニアの皆さんが頑張ったってことですよね。 レベル高い! 凄いですね。
本当に偉大ですよ。
メタバースの正しい歩きかた
―― 次の 10 月~ 12 月は、結構、色々な話題が多いですね

メタバースと言うと、周りでもフォートナイトやマインクラフトとか、あつ森もそうだし、やる人が増えていますね。
そういった中で、テックジャイアントである Meta が旗をあげてくれると、マーケットが一気に拡がるという期待が持てます。
ザッカーバーグは嫌われ者ですけど、 3 年先とか 5 年先にコモディティ化することを先に宣言してしまうやり方が極めてエヴァンジェリスト的で、シリコンバレーでもジャック・ドーシーと真逆だなと思います。
かつて iPhone や iPad が出たときに、みんなおもちゃだって馬鹿にしてたのに、数年するととだいたいコモディティ化して、その上に産業が乗ってきたでしょう。 このメタバースも同じです。
また「メタバース」という言葉に乗る必要はなくて、ファクトとしてもうメタバースが存在しているので、 3D 空間であるかどうか、 Zoom の配信のようなストリームデータなのかどうか、そういった定義はあまり関係ありません。
それより「違う場所にいながら共通した共通知が得られる」体験が、どのように産業モデルを変えるかという観点を持つために、 “触っておいた方がいい” と思います。
―― その「触っておく」というのは、どういうことを指すのでしょうか?
僕らもそうですが、 EBILAB 代表の小田島が新しいもの大好きなので、 Oculus Quest 2 が出た直後に、「社員みんなの分、買ったから」って送られてきましたからね(笑)。
VR で職場体験もやっていますし、ユーザへの導入も進めています。
みんなヘッドマウントディスプレイをつけて VR 空間でミーティングとかしてますよ(笑)。
―― では、見るとか、読むとかではなく、自社で使ってみる、作ってみるということですね。 それにしても代表までテック好きとは
メタバースに限った話ではありませんよ。 今はコモディティ化されてて、導入コストが安いですからね。
昔のように数千万円するような代物ではなく、たった数万円で購入できるものをケチるなんて、少なくともテックの時代に生き残れないですよ。
―― ということはメタバースの仕事もトライされる予定なのでしょうか?
もうバリバリありますね。
こういったトレンドは先行者利益が明確に出る領域ですから、プレスリリースも速攻で出しましたし、自分たちでも使い倒し、良い点と悪い点を先に知っておくことで、「メタバースっていったら、とりあえず EBILAB じゃねーの」と言われるようにします。 こういうことは僕らの戦略として大切にしています。
―― なるほど、そういうポジション取りができるようにブランディング活動をするということですね
僕らのメインターゲットの飲食小売業は、新しいテクノロジーがでたらスグに触るという方が少なく、「聞き先」がいないのが現実です。 だから新しいテクノロジーが出ると真っ先に「聞き先」になることは、会社としても重要ですし、僕は IT エンジニアとしても重要だと思います。
「テックの世界にいるのに、それ知らないの?」と言われないようにすることは、老害にならないための大切なポイントだと思います。
―― では、続いて … 、宇宙テックでしょうか
ちなみに僕は小学校 5 年生のときに一人で映画「 2001年宇宙の旅」(スタンリー・キューブリック監督)を観に行くほど宇宙オタクです(笑)。
宇宙テックという点では、通信技術のラグ制御が興味深いですね。 衛星通信もそうですし、時空間のデータのズレをどう調整するか、離れたところとの通信になればなるほど、ベタな通信制御であったり、ラグ制御であったり必要になるところが、テクノロジーって面白いなと思いますね。
―― YouTube でも前澤さんから同中で配信されていましたものね
ヒカキンさんと一緒に話してらしたよね。 あれは面白かった。
宇宙と地上で通信するんですか、それは凄い!
―― いまのセッションも東京と沖縄とブラジルを繋いで出来てますものね
確かに地球規模!
もう年々、ラグがなくなってきてますよね。 恐ろしいですよね、 Zoom って。 コモディティ化された価格で、これだけ通信ラグを減らせて、参加する人に分断を与えていないのですから。
こういうことがメタバースであれ、宇宙テックであれ、今後も起こると思いますよ。
日本がデジタル化しない理由
―― 続いて、 2022 年のトレンド予測についてもお話を伺いましょう。 2022 年のトレンド予測ですが、気になるものはありますか?

このトレンドから方向性をまとめると、 5 年先、 10 年先に起こる人間の能力拡張に向いてるということなんですよね。
人間そのものの能力を上げるのではなく、何かを記憶する、何かを思考するときに支援するといったときに、テクノロジーが寄り添うようにくる。 トラストやワークモデル、顧客エクスペリエンスなどなど全部そうですよね。
社会と人がテクノロジーを軸にして繋がり、パソコンからどんどん離れていき、明示的にコンピュータと意識しなくなる要素が順調に進化していると感じます。
確かに、この 2 年くらいで Zoom やスプレッドシートとか、今まで使ってなかった人たちも使い始めていますよね。 EBILAB でも飲食やサービス業といった、普段 IT を使ってなかった方々にサービスを提供していますが、そういった方々が、どんどん IT を当たり前に使っています。
少しずつ社会に IT が浸透していることを感じます。
―― なるほど、 IT の使い方もどんどん変わるということですね
ブラジルも 3 年前までは、歩きスマホをしていると、後ろからバイクがきて強盗に遭うというほどでしたが、今やファベーラのような地域でもみんなスマホを持っていますからね。
―― なんと! リオ・オリンピックからも、どんどん進化しているのですか?
びっくりするぐらい変わっていますよ。 ブラジルはもともとテクノロジーとの相性が良いと言われていますが、その理由は為替変動とそれによる物価変動にあります。
3 年前だと 1 レアル 37 円だったものが、今は 1 レアル 21 円ですよ。
これほど為替変動が激しいとインフレが起きやすくなって、例えば、飲食店のメニューは、もう印刷コストとか掛けられず、デジタルサイネージか QR コードでメニューを開くかですよ。
―― それほどなんですね
日本ぐらいです、紙のメニューもあって、物価変動もないのは。
ブラジルだと Uber で 20 分乗っても 200 円とか 400 円ですからね。 そういった体験価値が低いものと高いものとの差が広がっています。
デジタル時代のプライシングもまだ踏み切れてないというのが日本のイマココです。
収入を増やしたいなら、とにかく発信すべし
ここから Q & A コーナーに移り、質問が沢山寄せられました。 このレポートでは 1 つだけ紹介します
―― 「今、日本ではインフレが進んでいますが、なかなか給料が上がらない現状で生きて行くのが大変になる印象があります。 稼げる IT エンジニアになるために努力すべき点は何でしょうか?」という質問をいただきました
すごくシンプルですが、自分が興味を持って調べたことに対して、自分なりにちゃんと理解・咀嚼をして発信を続けることです。 それで、その第一人者的なポジションが取れるようになります。
給料を本当に上げたなら、初心者向けでもよいので、「第三者に教える」ことにシフトするのが、僕は一番稼ぐ道として一番早いと思います。
そうですね。 僕も GraphQL に興味をもって、 1 年近く研究のように調べて、それをアウトプットしていたら、昨年、技術評論社の月刊誌 Software Design で記事を書きませんかとお話をいただいて、書きました。
そこからはじまって、今は GraphQL について登壇してくれませんか? という話も来るようになりました。
―― アウトプットを継続できるコツはありますか?
「はじめからすごい記事は絶対書けない」と認識することです。
はじめは見てもらえる数も少ないです。でも、そこでめげずに勉強してアウトプットすることを繰り返してみる。 そのうち、小さくてもリアクションがあるので、少しずつ積み重ねていく感じです。
今、すごい記事を書いてる人も 5 年、 10 年とかやって、今になっているので。 現在の能力で測らないで、習慣にして続けることが大切です。
ベタだけど、環境構築系は王道ですね。 インストールしてみたとか、環境構築で詰まったポイントを Tips でまとめるとか。 あとは、バグをどう解決したとか。 そういうレベルで全然いいと思いますね。
―― なるほど。つい、何か新しいことを書かなきゃいけないと思いがちなんですが、あくまでも自身が経験したことをアウトプットするのでもよいのですね。
今日は貴重なお話とアドバイス、ありがとうございました!
まとめ
EBILAB からお二人をお招きして、 IT 業界 の 2021 年から 2022 年のトピックを取り上げ、お話を伺ってきました。
どのトピックもニュースサイトやブログなどでよく取り上げられているものでしたが、お二人独自の視点が新鮮でした。 特にメタバースを「触っておく」という常盤木さんの言葉は、 IT エンジニアらしいアドバイスでしたね。
また将来的に賃金が上がらないのではないかという不安に対して、情報発信をすることの大切さを立花さんのご経験を交えてお話いただけました。
VUCA とも言われる未来ですが、お二人のお話が少しでも皆さんのお役に立つことを願っています!

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やはり Clubhouse ですかね。 去年の 1 月は、まだワクチン接種も始まっていなくて、家に居る時間が増え、閉塞感がある中、人と話したい欲求が高まっていたところに、 Clubhouse が登場し、爆発的に増えたという印象があります。