特集1 投影するスライドはそのままでいいのか?を考える

コロナ禍により否が応でも、あらゆる業種・業務でオンライン対応が求められるようになりました。それは研修でも同じです。
では、オンライン研修で講師も変わる必要があるのでしょうか?この特集では、従来のオンサイト研修との違いと、そのオンライン研修で講師に求められるオンライン対応を紹介します。
fast_forward前回の記事はこちら 特集「オンライン研修で講師が求められること」
最初に考えないといけないことは「投影するスライド」を変える必要があるかどうかです。
オンサイト研修(実地研修)でも、パワーポイントなどで作成したスライドをプロジェクタで投影しながら講義を進めることがあると思いますが、それをそのまま使っても同じ効果が見込めるのか、それともそうじゃないので変えなければならないのか?
そこを最初にチェックしてみましょう。
メイン画面は一つで設計しているか?
オンサイト研修では、その空間すべてが研修に活用できます。配布資料、ホワイトボード(時には 2 枚)、受講生用パソコン、小道具等々。グループワークをする場合は、それらに加えて、グループ単位のホワイトボードや模造紙、カードなども使えます。
講師も動き回ることができるので、受講生の目線を大きく動かすこともできるわけです。
しかし、オンライン研修の場合は、あくまでも小さなパソコン画面の中だけで…今ならスマホでの視聴も想定しなければなりません。
そうなると、どうしてもメインは一つの画面になりますよね。せいぜい小さなワイプでもう一つ用意するぐらいでしょう。
もちろん、その一つの画面を、(1) (オンサイトで投影している)スライド、(2) PDF資料、(3) Webサイト、(4) ホワイトボード、(5) その他を切り替えながら進めても構いませんが、受講生には “一つの画面” であることに変わりはありません。
オンサイト研修のように、左を見ればホワイトボード、真ん中にスクリーンと講師、右を見れば別のホワイトボードというように、受講生の意思で必要なところにロックオンすることはできないですし、同時に表示させることもできないわけです(技術的には可能ですが複数画面にすればするほど、個々の画面は小さくなるので)。
受講生全員に VR ゴーグルをつけてもらえれば比較的同じような環境が作れるのですが、それはまだもう少し先かなと。今の VR ゴーグルは重すぎて首がつかれますからね。長時間はきつい(笑)。
そのため、講義の全体設計をするときに、 1 画面で設計することを考えなければなりません。
具体的には、(オンサイト研修ならホワイトボードに残したり、スライドといったり来たりできるのに対し)オンライン研修では前の画面を残せないので、全体像と表示中画面の位置付けを表現するところに工夫が必要になります。
- 事前に使用する配布資料をダウンロードして印刷しておいてもらう
- リード役の配布資料に全体像と、表示している 1 画面の位置付けを表現する
- 但し、プリンタの無い環境で配布資料を見ることができない受講生が居る場合は、それに対する配慮も必要
- 全てのスライドに全体像とその位置付けを表現する
- 体系化に向いたPreziのようなプレゼンテーション作成ソフトを使う
- 講師がつねに全体像とその位置付けを表現する
メイン画面が小さいことを意識しているか?
それともう一つは、受講生の受講環境の多様化への対応です。
事前に PC 環境に制限をかけて「 ○○ インチのフルスクリーン厳守」のようにすれば、それを想定してスライドを作成すればいいのですが、そういう前提を付ければ付けるほど、オンライン研修の “良い部分” を殺していくことになります。
どうせオンラインにするのなら、非同期にして「いつでも、どこでも、何度でも」に対応しなければもったいないですよね。
で、そうなると今のご時世、通勤時の隙間学習なんかも想定すれば… “スマホでの視聴” は必須だと思います。もちろん 縦型 ですよね。縦型で設計すれば、 6 cm × 4 cm の画面を 3 つぐらいは表示することも可能になるので。
でも、そうなると文字の大きさが変わります。
オンサイトの講義で使用する投影スライドは「最低 24 ポイント」というケースが多かったと思います。しかし、スマホの縦画面で見た場合は「最低 60 ポイント」だったりするわけです。その文字の大きさを前提にスライドを作成しなければなりません。
加えて、スライドがメインですから、そこに講師の解説をのっけることを考えて講義の全体像も組み立てなおさなければなりません。画面に表示される情報が少なくなるため、それを講師の話で補うという感じでの再設計です。
あとはそう。
オンサイト以上に、スムーズなズームイン・ズームアウトが必要になると思います。オンサイトの場合でも実施していると思いますが、スマホでの視聴を想定すると1画面が小さいので、その機能の利用頻度は高くなるからです。
そこでもたもたしていると集中力も切れますからね。
例えば Zoom で講義をする場合、講師のパソコン画面に複数の画面を表示しておき、それを比較的簡単に切り替えながら進めていくことができますし、個々の画面でもソフトによってはズームイン、ズームアウトができたりもします(ブラウザや PDF や画像の表示ソフトなど)。
しかし、”スムーズ” さで言えば、スマホの方が一歩も二歩も先に進んでいます。ピンチイン、ピンチアウト、スワイプなどほんとスムーズにできるますよね。
したがってオンライン講義をする場合に、スマホをいろいろなシーンで組み込んでいくことは、とても有益なことだと考えています。
それゆえ僕も、スマホ画面をパソコン画面に投影するソフトを使って、スマホを操作しながら講義を進めています。
集中力を切らさないスライドにしているか?
最後の一つは、スライドの表現力に対する工夫です。
オンサイトのように集中できる環境ではないので、投影するスライドを作成する時には「いかに集中力をきらさないようにするのか?」という点を、しっかりと考えて作成しなければならないという点です。
- どうやって興味を惹くか?
- どうやってインパクト強く、印象深く、記憶に残すか?
これらを意識して確保できれば、オンライン研修の弱い部分(集中しにくい)を補強することができると思います。
それと、「学習効率を追求する」という点においても、オンサイト研修とオンライン研修の違いを意識したものにしなければならないと考えています。オンサイト研修は “その場限り、もしくはその場重視” ですが、オンライン研修は “非同期で、いつでも、どこでも、何度でも” になるからです。その強み(長所)を活かすことも考えないと、それこそ時間がもったいないですからね。
- いかに短時間で効率よく必要最小限のボリュームにするのか?
こうした点をしっかりと考えて、弱い部分(集中しにくい点)を補いつつ強み(何度も聞いてもらえる)を活かすことができれば、その時初めて、オンライン研修の価値をオンサイト研修以上に高めることができ、緊急避難的な暫定対策としてのオンライン研修から脱却できると考えています。
とは言うものの…実際にはとても難しいことですよね。「言うは易し、行うは難し」です。画一的な答えも無いので、追求し続けるしかない永遠の課題だと言っても過言ではありません。
永遠の課題…
- いかに興味を惹くか?
- いかにインパクト強く、印象深く、記憶に残すか?
- いかに短時間で効率よく必要最小限のボリュームにするのか?
僕がそう強く感じているのも…実はこれって、書籍(特に試験対策本)を書くときに考えないといけないことと同じなんですよね。
だから、もう 20 年間考え続けていることになります(まだまだ道半ばですが)。
そして、この 20 年間の試行錯誤でわかったことが…参考にするのは “エンタメ” だということです。
CM 、MV 、YoutTube 、アニメ、ドラマ、映画、漫画などです。
これらを見る時に、次のような点を参考にして応用できるものが無いかを考えています。
- 編集技術(動き、カット割り等)
- テロップ(画面に映し出される文字)の使い方
- 音楽( BGM や効果音)の使い方
僕自身、この分野はまだまだ未熟で素人の域を抜け出せずにもがいていますが、よろしければ皆さんも、一緒に “エンタメ” を見て、魅せる技術を学びましょう。
現状のレベル
という感じで、これまで偉そうに講釈を垂れてきましたが…かくいう僕も、つい最近(今回のコロナ禍で)、オンサイト研修で使っていたスライドをオンライン研修用にカスタマイズし始めたところです。
これまでオンサイト研修ばかりだったので、スライドや配布資料も全てオンサイト研修用のものだったからです。
それを、今、急ピッチでオンライン研修用のコンテンツに切り替えているところです。
だから、まだまだ未熟で大したものは出来ていません。試験対策本も、もう15年以上になるのですが…まだまだ改善したいところが山ほど残っているぐらいなので。
今のレベルはこの程度です。
labelご参考
これで 90 秒です。
オンサイト研修でこの部分の話をすると、軽く5 分~ 10 分は使ってしまうでしょう。学習効率に関しては 3 分の 1 から 6 分の 1 にすることができました。
しかし、表現力はまだまだです。
言い訳ではありませんが…いやガッツリと言い訳ですが、まだ始めたばかりなので …表現力の弱いパワーポイントは止めてkeynote に切り替えただけのものです。今後は、動画編集、アニメーション制作も行い、それらを駆使することで表現力を高めていきたいと考えています。
コンテンツはどんどん進化させていかないと意味がありませんからね。期待していてください。

株式会社エムズネット代表。 大阪を主要拠点に活動するITコンサルタント。本業のかたわら、大手IT企業のITコンサルタント、プロジェクトマネージャやITエンジニア向けに、資格対策研修やプロジェクトマネジメント研修などを実施している。
保有資格は、情報処理技術者試験全区分(累計30個、内高度系23個)をはじめ、IT コーディネータ、中小企業診断士、技術士(経営工学)、販売士1級 など多数。
- オフィシャルブログ
- 「自分らしい働き方」Powered by Ameba
- 主な著作
- 情報処理教科書 プロジェクトマネージャ(翔泳社刊)
- 情報処理教科書 データベーススペシャリスト(翔泳社刊)
- 情報処理教科書 高度試験 午後Ⅰ記述(翔泳社刊)
- ITエンジニアのための【業務知識】がわかる本(翔泳社刊)