DXプロジェクトを成就させるための虎の巻|研修コースに参加してみた
今回参加したコースはDXプロジェクトを成就させるための虎の巻です。
いま、多くの企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)プロジェクトに着手しています。
ただし、そのプロジェクト推進に多くが苦労しているようです。最新のテクノロジーを導入するだけでなく、トランスフォーメーションというように、それまでの企業のやりかたを変える必要があります。そこで特に、プロジェクトの計画段階や進めかたに課題が多いと思います。
そこでこのコースでは、DXプロジェクトについて、単なる理論的な解説ではなく実体験に基づいた事例を通じて、実際のDXプロジェクトで直面する具体的な問題とその解決策を学びます。そして、DXプロジェクトを進めるための思考法も学びます。
では、どのような内容だったのか、レポートします。
コース情報
想定している受講者 |
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受講目標 |
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とあるDXプロジェクトの顛末
まずは後藤さんの実体験として、とある自治体案件の話が語られました。
- 商店街の人流データをAIカメラで測定して、活性化につなげたい
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問題
- 財源
- 人によって温度差
- そもそも利益が出ていないので、別のところにお金を、という声も
- そこで、自治体からの依頼により、前後含めて1年ぐらいかけてレポートを作った
一見、あたりまえのようですが、以下のような問題がありました。
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地元のかたは実効性のあるIT投資に期待
- 裏を返すと、これまでのIT投資は手応えがなかった
- 膨大な調整や相談
- 本音では変化は歓迎されない
- 地方はビジネスの規模が小さい
その中で、お仕着せのIT投資でないものをとがんばったそうです。しかし最終的には、やはりAIカメラという無難な落とし所に落ち着いて、もやもやしたものが残ったとのことでした。
ほかの自治体や大組織でも、同じようなことが起きています。
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「やるべき」と「やったほうがいい」の区別がつかなくなる
- 有限の知識で無限の要望を満たそうとするのは失敗する
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報連相は大事だが
- 「意思決定のための報告」でなく「報告のための報告」ばかりになる
- ずっと調査、ずっと報告
新しいことを始めようとしても、つい調査や報告ばかりに時間とお金を使ってしまう……ありそうです。
あらゆる組織が陥りがちなDXの落とし穴
ここで後藤さんは、よくあるDX推進者が発信するメッセージ(文章)を例にして、ぱっと見て正しいこと言っているが、その中から違和感がある点を指摘しました。
- 「DXに必要なスキルは技術力よりも発想力や改革力、リーダーシップに重きを置きます」 *「技術力よりも」というのはどうか
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「構築するのはIT部門ですが、事業を考案してサービスを立ち上げるのはDX推進や企画の部門」
- IT部門を下請け扱いする変革リーダーには疑問
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「DXとはAIやIoT、ビッグデータなどIT技術を活用すること」
- 技術要素が先にくるのは筋が悪い
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「競争から共創の時代へ」
- 競争と共創は対義語ではない
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勇ましい話から始まることが多いが、出てくるのが「1つ目は社内業務の効率化」
- 事業変革および新規事業では?
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結局、短期的に結果を出そうとすると、効率化に取り組みがち
- それはIT部門がやってきたことじゃないの?
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「どんどんトライアンドエラーができる環境づくり」
- 失敗は成功の母というのは間違いがないが、それが保身のためだと意味が変わってしまう
なかなか生々しいですが、言われてみるとそうですね。
次の問題は、典型的なDX推進組織の構造です。
- 部長が責任者
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その下に課長
- この人が鍵をにぎる
- その人にアドバイザー
この座組を作った時点で、何をどこまで変えるのか誰にも決められない ので、DXがうまくいかないそうです。
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取り組みの範囲が決めらない
- 上は内部のスコープが決めらない
- 外部にもスコープが決めらず隙間ができる
- 担当者や責任者は明確だが、何をどこまでにやるかが決めっていない
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全体を見通せる人がいない
- 目的・目標を判断する人が手段がわからない
こうしたことから、調査、調整、段取りにお金をかけてしまい、DXという躍動感が出ないとのことでした。うーん、難しい。
落とし穴から抜け出すための考え方
大組織の「変革」的な取り組みにおいて、みんな頭がいいので、効率的に物事を進めることに関心が寄りがちとのことです。そこでよく出てくるのが以下のような声です。
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PoCをスピーディに実施できる仕組みを作ろう!
- PoCそのものよりそっちに目線が向いてしまう
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「健全な多産多死」ができるような内規を整備しよう!
- これもメタな方向
こうした議論が不要や有害とまでは言わないが、「変革のための○○」ではなく、変革そのものをもっとやったほうがいいのではとのことでした。
そもそも、プロジェクトの成功のイメージが間違っているのでは、と後藤さんは指摘します。
- アイデアから戦略、計画、調達、実行と、順番に正しく実行していくと右上がりで成功するというイメージを描きがち
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それは誤解ではないか
- これはルーチンワーク
なお、今回のコースのタイトルも「成就」であって「成功」とは言ってない、と後藤さんは断りを入れました。
ここでDXプロジェクトのイメージとして後藤さんが取り上げたのが、野球の考えを変革したビル・ジェイムズさんです。映画「マネーボール」のモデルになった人です。
- 野球オタクが、1977年に1本のレポートを自費出版(ガリ版印刷)
- 通説を批判的な目で見る本
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野球を統計的な側面から考え直す
- 昔からデータ化はされていたが、数えやすいものを数えただけじゃないか
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9年間毎年出して、結実したのが「チームの得点数を予測する数式」
- 塁に出ればいい、という考え
- 点をとるより、アウトをとられないこと
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趣味のサークル活動だが、そこに知的能力が高い人が集まった
- 次々と仮説と検証がなされた
- これらの理論群を「セイバーメトリクス」と命名した
- 1982年には著作が全米No.1のベストセラーに
そして、ここからが本番です。
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既成の野球界からは、嫌われ続けた
- メジャーリーグのスコアシート管理会社はデータ提供を拒み続けた
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本当のテーマを理解しない人も増えた
- 数字を弄ぶことに熱中し、深層にある哲学を理解しなかった
つまり、作り上げたけど成功しなかったという例です。そのうえで、その後に起こったことが変革となりました。
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財政難の球団(オークランド・アスレチックス)が、SABRメトリクス理論を活用
- 低予算で好成績
- 書籍「マネー・ボール」出版→映画化
- ただし、有名になったのでマネされて、アスレチックスは優勝はできなかった
映画「マネーボール」はヒットしましたし、セイバーメトリクスも話題になりましたね。一見、スマートに考えられた理論だと思ったのですが、既存の考えと衝突してなかなか受け入れられなかったんですね。
なぜビルの思想が社会に影響を与えたかを考えます。
- 人を惹きつけ、行動に駆り立てるテーマだったから
- 変革的な取り組みをトップダウンでやるとうまくいかない
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変革は異端から
- いまの常識は正しくないんじゃないかという仮説
- そこにみなが興味を示したとき
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本当に必要なのは、人の「関心」を得ること
- 関心が集まることで、仮説がブラッシュアップされていく
- そこからある日成果が出る
- 中心にあるテーマが大事
- 戦略がいいから、計画がいいから生き残れるのではない
DX担当者がいかに筋のいいテーマにめぐりあえるかが本質なんじゃないか、との後藤さんの言葉でした。
戦略よりもテーマ、そしてそれが人を惹きつけてブラッシュアップされることが重要、と。やはりDXは一朝一夕にはできないものですね。
自分のDXプロジェクトを俯瞰するワークショップ
ここまで話を聞いて、自分のDXプロジェクトの取り組みについて俯瞰し、各自がワークシートにまとめる、ワークショップが行われました。
- 1枚目は事業を整理して書く
- 2枚目はこれまでの常識について書く
- 3枚目はそれを具体化、詳細化する
DXにあたり、これをフレームワークとして考えるとよいとのことでした。
最後に後藤さんは、今回の話は現場の即効性はないかもしれないとの話をしました。
- これまでの経験があって、なかなか難しい
- それを見てみぬふりをしてしまうと変わることを拒んでしまう
- いまの矛盾をしっかり考えることじゃないかと思う
まとめ
以上、DXプロジェクトについて見てきました。変革プロジェクトである以上、右上がりに成功していくイメージでは間違いというのは、なるほどですが、難しいですね。
なお、SEカレッジではほかにもプロジェクトの進めかたについて、「プロジェクトリーダーの基礎知識」や「失敗事例から学ぶプロジェクトマネジメント」など、さまざまなコースを揃えています。プロジェクトマネージャーなどプロジェクトを推進する人は、そうしたコースも受講してみてください。