スポーツ IT 進化論|SEカレッジ ITフェスティバル2023 開催レポート
2 日間にわたり 9 つのテーマでセッションが行われた 「 SE カレッジ IT フェスティバル 2023 」 から今回は「スポーツ」をテーマとした 「スポーツ IT の進化論」をレポートします。
スポーツ・テクノロジーというと VAR や「三笘の 1 mm 」が記憶にあたらしいところですね。
それだけでなく、今やスポーツはテクノロジーを使って驚異的な進化を遂げています。 その進化を、野球・バスケットボール・サッカーそれぞれの業界の最前線で活躍する、横浜 DeNA ベイスターズ 壁谷 周介 さん、 B.LEAGUE 田茂井 憲 さん、南葛 SC 江藤 美帆 さんの豪華 3 名のパネリストに伺いました。
ワクワク感が止まらないお話をたくさん伺えました! ぜひご覧ください!
壁谷 周介
横浜 DeNA ベイスターズ 執行役員 チーム統括本部副本部長
田茂井 憲
公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ 執行役員 / B.MARKETING 株式会社 執行役員
システムエンジニアとしてキャリアをスタート。金融分野のシステム開発を経験後、セキュリティを中心にシステム監査に従事。 2017 年に B.LEAGUE に入社し、システムプラットフォームの整備、デジタルコンテンツの企画・販売、マーケティングの推進などを担当。 2022 年 7 月より現職。
江藤 美帆
南葛 SC マーケティング部長 / 株式会社マイナビ 社外取締役 / 株式会社カワチ薬品 社外取締役 / 株式会社リミックスポイント 社外取締役
アプリ「 Snapmart 」開発者。 Snapmart 株式会社の元代表取締役。 愛称:えとみほ。
元・J リーグ栃木 SC 取締役マーケティング戦略部長、元・株式会社ノジマ社外取締役。
もくじ
各スポーツでの DX の取り組み
データ定量化が進めば進むほど、感覚が重要に ― 野球 DX の現在
―― まずは現在テクノロジーを駆使して取り組まれていることをお聞かせください
―― WBC が開幕しましたが、ダルビッシュ選手なども、常にデータを見ながら投げているそうで、選手も積極的にデータを活用していますね
面白いのは、データの定量化が進めば進むほど、感覚がすごく重要になるのです。 データだけあっても選手が上手くなるわけはなく、それを感覚に変換できなければ意味がないのですね。 私の印象だと、一軍のトップレベルで活躍している選手ほど、データを感覚に変換する能力が高いです。
B.LEAGUE は AI を活用し、リアルタイムでハイライト映像を Twitter に投稿
―― 田茂井さん、 B.LEAGUE では現在、どのようなことに取り組まれていますか?
B.LEAGUE では年間 1000 試合以上を、ソフトバンクさんにご協力いただき、「バスケット LIVE 」というアプリで配信しています。 その撮影データと試合のスタッツデータをリアルタイムで掛け合わせ、 AI で分析しています。
それを基にリアルタイムで、試合のハイライトだけでなく選手に特化したハイライト、ダンクシュートなどのショートクリップ映像を作っています。 B.LEAGE では、全チームがこのショートクリップを使って、試合中にツイートして、視聴に誘導したり、 盛り上がりの空気を醸成したりと、マーケティングで活用しています。
―― ハイライトの作成はもう人間がやっていないのですね
やっていないですね。 それだけでなく注目選手がいれば、試合前に設定すると、自動でその選手のショートクリップを作ってくれます。
無人の AI カメラでスポーツ中継革命!? 「 B.LEAGUE 」のバスケ撮影現場に潜入 – IT をもっと身近に。ソフトバンクニュース
南葛 SC のファントークンの試み
―― 江藤さんは南葛 SC でどのような DX を進めているのですか?
南葛 SC は、 J にも上がっていない地域リーグのクラブです。 まだ小さなクラブなので、選手社員という、選手でありながら営業としても活動している社員もいて、その社員教育として SE カレッジなどを使っています。 おかげさまで、選手の IT リテラシーが上がり、例えばクラウドサインや Sansan といったクラウドツールを利用し、営業活動が効率化されるだけでなく、選手のデュアルキャリア、セカンドキャリア支援といったことにも繋がっています。
一方、マーケティングでは FiNANCiE (フィナンシェ)というファントークンの仕組みを導入し、ファンディングを行いました。
ファントークンというのは、スタートアップ企業によくあるストックオプションのようなイメージで、クラブが成長すると、トークンの価値も上がり、売ることもできるのですね。 ちょっと儲かっちゃうのです(笑)。 ファンクラブとクラウドファンディングを足したような、クラブを応援できる新しい仕組みです。 もちろんトークンを保有している間はトークンホルダーだけの特典を受けられ、非公開のトレーニングマッチを観れたり、限定シートなどがあります。
私もホルダーなのですが、値段を見て「上がった、上がった」とちょっと喜んだり、成長を実感しています。 また FiNANCiE の中にコミュニティ機能があり、そこでユニフォームのデザインを見てもらったり、選手の本音が聞けたり、ホルダーがクラブの運営に参加している感覚も生み出せます。
他のスポーツ、クラブでも取り組めるので、オススメですね。
データはあるが分析できる人がいない! - スポーツ DX で苦労したこと
―― 皆さん、順調にテクノロジーの導入を進めていらっしゃるようですが、ここに至るまでの道のりで苦労したことなどはありますか?
私は 2012 年に横浜 DeNA ベイスターズに入ってから、ずっと DX に取り組んでいるのですが、最初のころは DX 推進者が私一人だったので苦労しました。 仲間を作りながら、外部の会社も入れて、なんとか進めていたのですが、トラックマンが入った 2015 年ぐらいから、もう Excel だけでは分析できなくなりました。
そこで Python などを使って専門的な分析ができる人を採用し、今は楽になっています。 データはあるけれど、分析できる人がいないという時代は本当に苦労しましたね。
今後、さらに組織を拡大したいと思っているのですが、最近データサイエンティストが採用しにくくなっているので、厳しいと感じています。 あとは、分析できる人を採用できたとしても、結局、野球の専門家の方たちがわかる言葉に変換しなくてはならず、それは今でも取り組んでいます。 幸い、長年の取り組みで野球の専門家にもテクノロジーへの “免疫” のようなものができて、新しいものを持ち込んでも「今度はどんなことができるの?」と関心を持ってもらえるようになりました。
―― そうすると、横浜 DeNA ベイスターズはプロ野球界の中でも DX が進んでいるのですか?
お陰様で他球団から採用した方にも「進んでいますね」と言われることもありますし、トップランナーでいたいと思っています。
一方でメジャーは遥かに進んでいます。 日本でもようやく、球界全体が進化し、 12 球団で共有したデータをもとに価値を発揮するような取り組みがいま進んでいます。
―― ありがとうございます。 田茂井さんはいかがですか?
B.LEAGUE の場合、 Web コンテンツ管理システムや、チケットシステム、ファンクラブのシステムなどはリーグで統一基盤があります。 それを各チームで使っています。 このため、 B.LEAGUE から各チームの方にその使い方や知識を共有しているのですが、なかなか人の定着がうまくいかず、仕組みはあるけど活用しきれていません。
とはいえ、統一プラットホームでデータを一元管理できているので、全チームのデータを一覧できるダッシュボードを用意し、上手くいってるチームの要因を伝えるなど、データ活用のメリットを伝えています。 やはり、使う人が鍵になるので、それが一番苦労しているところですね。
デジタル人材の確保が今後の課題
―― ここまでは現在のお話をお伺いしてきました。 ここからは、今後の課題や展望をおうかがいできればと思います
J リーグの共通基盤を使わず、チケットを南葛 SC で販売できないかと模索しています。 それとあわせて、新小岩に新しくスタジアムができる構想が発表され、そのスタジアムとテックを組み合わせたいと考えています。 そのためにもデジタルに明るい人材が必要です。
―― 今までオンラインで盛り上がることを模索されたと思うのですが、「人が集まる」ことにも注力しようと
オンラインの視聴も一般的になったのですが、最近は声出しも OK になり、スタジアムでの熱狂も戻ってきています。 やはり、あの熱狂空間こそがスポーツビジネスの本質ですから。
―― 田茂井さんはいかがでしょうか
B.LEAGUE では 2026 年に新リーグになり B1 / B2 の基準が新しくなります。 その新基準の一つが平均入場者数で B1 だと 4000 人、 B2 だと 2400 人です。 現在、各チームがその人数を収容できるアリーナ建設に乗り出していて、まず一つ目の取り組みが、そのアリーナでの体験価値をつくるところです。
一つ目の専用アリーナ
沖縄アリーナ公式サイト
2 つ目は必然的にファンベースを広げる必要があり、リピーターを増やそうと、サービスやファングッズなどでタッチポイントを積極的に取り組んでいます。
また、これは告知も含みますが、サッカー、野球ときて、今度はバスケットボールで今年 8 月 25 日から沖縄アリーナでワールドカップがあります。 これも成功させるべく、準備を進めています。 ぜひ皆様、お越しください!
―― 盛り上がりそうですね! 続いて、壁谷さんはいかがでしょうか
江藤さんと同じで、やはり人材です。 仕事柄、アメリカのテックカンパニーの人と話をする機会が多いのですが、アメリカのスポーツ業界は、優秀な人材がどんどん流入しているのですね。 アイビー・リーグを出たような人たちが、コンサルティングや投資銀行と同じような感覚でスポーツ業界に行きたがる。 それぐらい魅力がある業界なんですね。
一方、日本のスポーツ業界の人材の流入度合いはまだ低いです。 日本でもテクノロジーに明るい優秀な人材が入るような魅力ある業界にならなくてはと思います。
スポーツ × IT の世界はおもしろい!
―― 最後に視聴者の皆さんに向けてメッセージがあれば、お願いします
おそらくこのセミナーを視聴されている方々は、スポーツ業界に興味ある方だと思います。 とても魅力的な業界だと思いますので、ぜひチャレンジしてください!
B.LEAGUE では、この後、採用プロジェクトを行う予定です。 興味がある方はぜひご応募ください!
最近では、スポーツチームのフロントスタッフや裏方の方々が SNS に結構いらっしゃいます。 実際そういう方をフォローしてみたり、交流を持ってみたりして、どんな仕事をどういう感じでやっているのか、ちょっとリサーチしてみてください。
また、これは南葛 SC の告知ですが、関東リーグ一部が開幕し、 4 月 2 日にホームゲームがあります。 ぜひお越しください!
4/2 ホーム開幕戦( VONDS 市原 FC 戦)チケット販売について | 南葛 SC オフィシャルサイト 葛飾から J リーグへ!
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野球の DX といえば『マネーボール』( 2011 年)という有名な映画があり、 2002 年くらいから、統計データから選手を客観的に評価する「セイバーメトリクス」という分析が行われてきました。 その後、 7 ~ 8 年ぐらい前から、それまではゴルフで使われていた「トラックマン」が導入され、そのトラッキングデータにより試合中のボールの動きや、選手の動きがわかるようになりました。
これにより、従来はデータをいい選手を獲得することに役立てていた時代から、データを選手の強化に使う時代へ変わったのです。
選手も自分が投げたボールの回転数や、打ったホームランの打球速度など、これまで感覚的だったものが、定量的に客観的に振り返られるようになりました。 現在は「ホーククアイ」という AI による画像解析により、さらに豊富なデータを取得しています。 これが今の野球で起きている DX です。