いま知りたい!量子コンピュータが創る未来とは?|SEカレッジ ITフェスティバル2023 開催レポート
2 日間にわたり 9 つのテーマでセッションが行われた 「 SE カレッジ IT フェスティバル 2023 」 から今回は 「量子コンピュータ」 をテーマとした 「いま知りたい!量子コンピュータが創る未来とは?」をレポートします。
「商用量子コンピュータが稼働!」
「量産タイプの量子コンピュータが登場!」
「量子誤り訂正に成功!」
こういったニュースを見るたび、量子コンピュータというと「未来感のあるスゴイもの」というイメージがわきます。 ただ、そのイメージに引っ張られ、仕組みや用途があやふやになってしまいがちです。
このセッションでは、量子コンピュータ研究の最前線で活躍される 武田 俊太郎 さんをお招きし、難しい量子の世界をわかりやすく、そして量子コンピュータの現在地と目的地を正しく紹介いただきました!
ぜひご覧ください!
武田 俊太郎
東京大学大学院 工学系研究科 准教授
これまで光を用いた様々な量子技術の研究に関わっており、現在は独自方式の光量子コンピュータ開発に取り組んでいる。
量子コンピュータとはそもそも何か
―― 量子コンピュータは今までのコンピュータのように 0 と 1 だけではない、ということがよく言われますが、これはどういうことでしょうか?
―― そんな “重ね合わせ” というデータが持てるのですね
例えば穴が 2 つあってボールを飛ばすと、左か右かを通るというのが日常の世界ですが、もっとミクロな世界では一つの電子や粒のようなものが、この 2 つの穴をあたかも同時に通るような現象が起きるのです。
それはなぜそうなるかというより、それこそがまさに “重ね合わせ” という物理法則なのです。 この物理法則を情報処理に取り込んで、重ね合わせという情報単位に拡張したのが、量子ビットです。
―― 電子よりミクロな量子になると、そんなことが起こるのですね。 その量子ビットはどういう仕組みで計算が速くなるのでしょうか?
重ね合わせを使うと、たくさんの計算を同時に行えるので、どんどん計算が速くなるかのように期待するかもしれません。 でも実際はそんな単純ではなく、解き方が工夫できたときに初めて計算が速くなるのです。
―― 量子コンピュータが何に使えるかも、まだまだ研究段階ということですね ……
つまり、これまでのコンピュータの延長にあるものではなくて、そもそも違う原理で動く新しいコンピュータであると理解していただくといいかと思います。
―― どういったところが今までのコンピュータとは違うのでしょうか?
―― その量子コンピュータの世界で、武田さんはどんなことをされているのでしょうか?
そして、これが実験装置です。
―― なるほど。 想像していたよりも手作り感がありますね
ごちゃごちゃしていて、何がなんだかわからないような装置ですが、手作業ですべて組み立ててみて、まずは量子コンピュータがちゃんと動くのか、少しずつ確かめながら、 装置を開発しています。
よく量子コンピュータの研究をしていると言うと、洗練された装置を使うようなイメージをされる方も多いのですが、実際の現場は泥臭くて、こういう光の回路となるミラーやレンズなどの部品を一個一個、手作業で数百個置いて、ドライバーを回して …… とやっています。
創薬、材料、最適化 - 量子コンピュータの未来
―― 現在のところまだ研究段階であることがわかりました。 少し気が早いかもしれませんが、今回のテーマでもある、量子コンピュータが創る未来として、将来的に我々にどのような恩恵があるのかといった話も伺いたいと思います
素材というのはミクロに見ると、いろんな原子を組み合わせて作られているのですが、どれを組み合わせると役に立つ材料ができるのか、予想がとても難しい分野です。 これを今のコンピュータで調べようとすると大変なのですが、量子コンピュータを使うと、新しい素材が見つけやすくなるのです。 例えば、エネルギー変換効率が高い太陽電池や、リニアモーターカーに使える超伝導、車に乗せる高性能なバッテリーや、飛行機に使える軽くて丈夫な素材などが見つかるかも知れません。
そんな画期的ないろんな素材ができると、一気に身の回りに高性能なモノで溢れます。 エネルギー問題を解決できるような材料が見つかるかもしれませんし、創薬においては、オーダーメイドの薬ができる時代がくるかもしれません。
―― エネルギー貯蔵に活かせそうなのは、熱いですね。 その他に量子コンピュータが活用される分野はありますか?
カーナビのルート検索や、製造業におけるリソースの最適化、金融のポートフォリオの最適化など、さまざまな最適化の計算においても、量子コンピュータで速くなる可能性があります。
よく挙げられる例は、トラックの運送ルートの最適化です。 あるスタート地点からゴールまでならルートは比較的簡単ですが、配送業者のトラックがいろいろな場所に荷物を届け、また倉庫に戻ってくるという場合、どういうルートで回ると一番効率がいいかといった計算は結構複雑で、これが量子コンピュータによって計算できるようになれば、短時間で効率よく輸送できるようになる可能性があります。
―― 逆に量子コンピュータによってデメリットになるものはあるのでしょうか?
実用化はまだまだ先? - 各国の量子コンピュータ開発状況
―― 正直なところ、実用化はいつくらいになりそうでしょうか?
IBM や Google といった量子コンピュータを開発している大手企業がロードマップを出していますが、そのロードマップでも実用的な量子コンピュータに必要だと言われる 100 万量子ビットのレベルまでは全然見せられていません。
―― 日本企業の進捗はいかがでしょうか?
また、先ほど挙げたように量子コンピュータの開発方式は様々にありますが、代表的な方式では日本にも著名なトップスターの先生が揃っています。 どの方式が生き残るかもわからない、今は本当に戦国時代のような状況ですが、私たちは光量子コンピュータというニッチな方式に着目して、光ならではのアプローチで今開発しようとしているというところです。
さまざまな方式のプレイヤーが、それぞれの方式の独自の強みを生かして研究しているので、まだまだチャンスはあります。
量子コンピュータは意外と勉強しやすい!
―― 武田さんのオススメの量子コンピュータの勉強方法を教えていただけますか?
また、そもそも入口から基礎的なことを学びたいのであれば、情報源や書籍がたくさん出ています。
もっと情報収集しやすい方法もあります。 例えば、 Twitter や YouTube での講義動画です。 特に Twitter を使うと、量子コンピュータの新しいニュースに加えて、専門家によるセミナーなどが頻繁に開催されていて、それが Twitter 経由で流れてくることが多いですよ。 私も Twitter で情報収集しています。
―― ありがとうございます。 最後に視聴者の皆さんへ向けたメッセージなどありましたらいただけますか。
量子コンピュータは、数学的には行列計算、線形代数と呼ばれる分野で、理系であれば大学で必ずやっているはずです。 簡単なルールさえ知れば、量子コンピュータの計算は十分勉強できます。
プレイヤーが増えていくことが、今後、量子コンピュータの発展にとても重要なので、ぜひ、少しでも興味のある方がいらっしゃれば、これを契機に学んでいただけると嬉しいです。
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