だから僕たちは、組織を変えていける ~やる気に満ちた「やさしいチーム」のつくりかた~|SEカレッジ ウェビナーレポート
本日のテーマは、『だから僕たちは、組織を変えていける ~やる気に満ちた「やさしいチーム」のつくりかた~』です。
「これまでの工業社会の成長エンジンは業務の標準化だったが、知識社会での成長エンジンは斬新なアイデアである」、これはこのウェビナー中に紹介された言葉ですが、まさしく DX の根幹となる部分です。
この VUCA の時代にアイデアを次々と生み出し自走するチームをどのように作るのか、ベストセラーとなった「だかぼく」こと『だから僕たちは、組織を変えていける』の著者である 斉藤 徹さんに講演いただきました。
「 DX でなかなかアイデアが上がってこない」、「心理的安全性が高いチームのはずなのに」とお悩みのリーダーの方は必見です!
斉藤 徹
株式会社 hint 代表 / 株式会社 ループス・コミュニケーションズ 代表 / ビジネス・ブレークスルー大学 経営学部 教授
1991年、日本 IBM を退職、ベンチャーを創業。 携帯テクノロジーが注目され、未上場で時価総額 100 億円超なるも、バブル崩壊で創業者追放の憂き目にあい、 3 億円の借金を背負う。 裁判敗訴、競売、事業売却と、厳しい起業の荒波に揉まれる中で経営学を学び、現場で実践し、新しい視点で体系化し続ける。 その後、組織論と起業論を専門として学習院大学 客員教授に就任。 幸せ視点の経営講義が Z 世代に響き、立ち見のでる熱中教室に。 現在は ビジネス・ブレークスルー大学 教授として教鞭をふるい、 2018 年に社会人向け講座「 hint ゼミ」を開講。 卒業生は 800 名を超える。
著書に「だから僕たちは、組織を変えていける ーやる気に満ちた「やさしいチーム」のつくりかた」(クロスメディア・パブリッシング 刊)「業界破壊企業」(光文社 刊)、「再起動 ~ リブート」(ダイヤモンド社 刊)、「ソーシャルシフト」(日本経済新聞出版社 刊)など多数。
もくじ
なぜ、組織が機能しなくなったのか?
3 つのパラダイムシフト
―― 今日のウェビナーは斉藤さんのご講演のあと、質疑応答という形式で進めます。
では、斎藤さま、よろしくお願いします。
「やる気」と生産性の関係
「やる気」と生産性についてはベイン・アンド・カンパニーの調査で、「やる気に満ちている」社員の生産性は、「満足していない社員」の 3 倍、「満足している社員」の 2 倍生産性が高いことがわかっています。
残念ながら、日本ではやる気に満ちている社員は 6 % しかいないという調査結果が出ています。
そしてコロナ以降、ハイブリッドワークの導入が進み、その結果、上位 25 % のやる気に満ちた組織の生産性が上がりました。 移動しなくてよくなった分、生産性が上がるのは当然なはずですが、 75 % の会社は、生産性を落としてしまいました。
ハイブリッドワークの浸透によって、従来言われてきた「組織の統制力」ではなく、「組織とのエンゲージメント」が高い、いわゆる組織や仕事と心の繋がりが深い社員の存在が重要になっています。
成功が持続する新しい組織モデルとは?
「統制」から「自走」の組織へ
では、どういう組織像が求められているのでしょうか?
工業社会の組織モデルでは、優秀なトップが社員を統制する組織が効率的でした。 しかし今日では、一人ひとりが自走し、自分の中でやる気を持って、人間的にリスペクトし合いながらコラボレーションして、お客様ともリスペクトし合える関係を築く、自走できる組織が求められているのです。
ただ “言うは易し、行うは難し” で、統制する組織から自走する組織に変えるのは非常に難しく、単に自由後任な組織になり、もっと悪くなります。
では、自走する組織をつくるためにどうすればよいのでしょうか。
結果をつくろうとすると失敗の循環にはまる
まずは、自走する組織を阻害する「失敗の循環」についてお話します。
従来の統制する組織では、正しい入力さえすれば、正しいアウトプットが出てくる、それが前提になっていました。 しかし、今やこの結果をつくろうとすると、結果が逃げてしまうことが多くなりました。 なぜか、それは人は心を持っているからです。
どんなに正しい意思決定や正しい計画があったとしても、「いいから、とにかくやれ」と言われたら、みんなやりたくなくなってしまいます。 なぜかというと、人間は自己決定をしたい生き物だからです。
これは、ダニエル・キムという人が提唱した、「失敗循環モデル」というものです。 結果を高めようとすると、強制が増え、人間関係が悪くなり、他者に無関心になり、協働が進まず、さらに成果が落ち圧力が高まる悪循環に入ってしまうということを示しています。
昔はそれでも単純作業、例えば営業におけるテレアポなどをして商品や評価を伝える行動などは効いていましたが、今ではお客様が情報を持っていて、押し売りではなく、クリエイティブな商品と人間的なサービスを求めるように変わっています。
「成功の循環」に変えるには関係性からはじめる
失敗の循環から抜け出すためにはどうすればいいのでしょうか。
まず順番として、関係性から始めることが大切です。 なぜなら、よい関係性こそが心が動く鍵だからです。 このことを示したのが成功循環モデルです。
関係から入ると、相互理解が深まって、思考が前向きになっていきます。 多様な気づきが生まれて、しかも自分で決めたことだから、自律的な行動も増えて、関係がいいから、助け合いも進んできて …… となれば、自ずと結果が良くなる。 こういうチームだと結果が出やすいですね。 結果が出てくると、さらに帰属意識が高まるわけです。
知識社会における新しいリーダー像とは?
心理的安全性がキーになる
この人たちの関係はどうでしょうか?
彼に敵対する人間は追い詰められる → 彼に都合のいい情報だけが寄せられる → 間違った情報で作戦が失敗 → 責任者を解任、彼が現場へ直接指示 → 現場は疲弊 → 兵士が逃亡 という失敗の循環が生まれています。
これはロシアだけのことでしょうか? 小さいプーチンが君臨し、いいたいことが言えない組織になっていないでしょうか?
いいたいことが言える、健全な関係性をつくる、これが最初の一歩なのです。
これを一言で表したのが「心理的安全性」です。 これは、エドモンドソンという経営学の教授が 1999 年に発表した言葉ですが、現在、非常に注目されていています。
特に注目されるきっかけになったのが、 2012 年から 2016 年にかけて、 Google が行った「プロジェクト・アリストテレス」という取り組みです。 ここで Google が成功しているチームの共通点に 5 つの鍵があると発表し、その最も重要な基盤となるのが心理的安全性だと挙げたことで、世界に広まりました。
また、エドモンドソン教授は心理的安全性が必要になった理由をこう説明しています。
では、心理的に安全な場とはどういうものでしょうか? 同じくエドモンドソン教授が開発したのが 7 つの質問です。
皆さんの半径 5 メートルではいかがでしょうか?
リーダーの思考が心理的安全を脅かす?
先程の 7 つの質問で、リーダーとメンバーとで回答が全く異なります。 実はリーダーというのはチームの中で圧倒的に心理的安全性が高いのです。 リーダーとメンバーでは、感じている安全性が違うということ、まずそれを認識することが大切です。
またリーダーには、思考の癖があります。 完璧主義であったり、コントロール欲求であったり、過度の所属欲求、犯人探しの本能もあります。 これは別にリーダーが悪い人だからというわけではなく、リーダーが自然に持ってしまう思考の癖なのです。 これが、メンバーの心理的安全性を崩してしまいます。
では、新しいリーダー像とはどのようなものでしょうか。
心理的安全のためには、リーダーが導く必要があります。 そのために、リーダーは「素のまんまの自分」を見せる勇気を持つことが重要です。 リーダーが弱さを見せると、チームがリラックスした雰囲気になりますよね。 そこで初めて思いやりと、助け合いの精神が生まれます。
昔は統制する側でしたから、リーダーは強がってる方がよかったのですが、今は見透かされてしまいます。
なぜ仕事をするのか Why を伝えて学習ゾーンに導く
ただ、心理的安全性が高くなっただけでは、それだけではまだ不足しています。 やる気に満ちている、という状態ではないからです。
心理的安全性が高いだけでは村社会に陥ってしまいます。 価値を創造するより、関係を重視するようになってしまい、意見が遠慮されるようになってしまいます。
そこで必要になるのが Why (仕事をする意味) を伝えて、メンバーの内発的動機「しよう」に繋げることです。
これによって Google の 5 つの鍵でいう、 4 番目の自分にとっての仕事の意味がわかっている、 5 番目の社会に対して仕事の意味が共有できているチームに繋がります。
この意味を共有すると、どのようなことが起こるのか、一つ例を挙げます。
ミシガン大学のコールセンターでの出来事です。 そこでは卒業生に電話をかけて寄付を募ることが仕事だったのですが、コンテストなどを行っても 100 人に電話をかけて、寄付してくれるのは 7 人だけだったのです。
あるとき、寄付金の一部である奨学金を受け取った学生から手紙が届きました。 その手紙には奨学金への熱烈な感謝の気持ちが書かれていました。
それを聞いたコールセンターの職員たちは「自分の仕事は若者の人生を変えるぐらい大切だ」ということに気づき、寄付金が今まで以上に集まるようになりました。 今度は奨学金を受け取った学生たちを呼び、コールセンターで話してもらうと、 1 ヶ月後には週あたりの寄附金額が 172 % アップする成果を生み出したのです。
講演は以上となりますが、これまでのお話で、皆さんが心理的に安全な場をつくりだすリーダーになっていたかどうか、明日から実践できそうなことがあったかどうか、ぜひ考えてみていただければと思います。
まとめ
VUCA 時代をサバイブするために、組織がどのように変わるべきなのか、やる気に満ちたチームにつくることをテーマに、 “だかぼく” こと「だから僕たちは、組織を変えていける」の著者、斉藤 徹さんに講演いただきました。
工業社会に効いた統制型の組織から、知識社会にふさわしい自走型の組織をつくるには、まず関係性を変えることが大切であり、それには心理的安全性が必要である、という論理立てたストーリーはとても腑に落ちました。 一方で心理的安全性が高まるだけでは関係性を重視するあまり、意見が出にくくなるという指摘には、ハッとさせられました。
これを書いている私自身、仕事をする理由 Why はまだまだ突き詰められていないと感じたので、これから “だがぼく” を読んでヒントを得たいと思います!
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まずは今、なぜ組織が機能しなくなったのか?ということについて、その背景を探りましょう。
インターネット以降、情報革命によって時代が指数関数的に変化しました。 そのインターネット以降を 3 つのパラダイムシフトで捉えています。
1 つ目は、インターネットが登場した時のデジタルシフト。
2 つ目に、ソーシャルメディアによって人々が深く繋がることになったソーシャルシフト。
3 つ目に、コロナとオンライン会議によって生まれたライフシフト。
この 3 つのパラダイムシフトによって、時代は大きく変わり、求められる組織像も大きく変わってきました。
この変化をピーター・ドラッカーはたった一言でまとめました。
20 世紀の偉業は、製造業における肉体労働の生産性を 50 倍に上げたことである。続く 21 世紀に期待される偉業は、知識労働の生産性を、同じように大幅に上げることである。
―― ピーター・ドラッカー「ポスト資本主義社会」より
かつての工業社会の統制型の組織マネジメントではもう限界だということは、 10 年以上前から言われています。
では、今日のマネジメント、あるいはリーダーに求められるものは何か。 それは、一人ひとりがやる気に満ちた場をつくれるかどうかなのです。