なぜメンタルは弱くなるのか? ~本当のこころの強さとは~|SEカレッジ ウェビナーレポート

SE カレッジでは旬のテーマをもとに、 1 時間のウェビナーを毎月 1 回以上、開催しています。
今回のテーマは、 「なぜメンタルは弱くなるのか? ~本当のこころの強さとは~」です。
陸自初の心理幹部として多数のカウンセリングを経験し、「自殺・事故のアフターケアチーム」のメンバーとして、約 300 件以上の自殺や事故にかかわってこられた 下園 壮太さんをお招きし、うつの正体やレベル別の症状と原因、その治療法を伺いました。
下園さんは、コロナが始まって 2 年、日本中が孤独と不安、イライラした感情に包まれたことを指し、「これは『うつ』の症状で、日本の半分がうつっぽくなってしまった」とおっしゃいます。 そして「そしてコロナが落ち着いてきた今が危ない」と指摘。
気になるその理由は? ぜひご覧ください!

MR (メンタル・レスキュー)協会理事長、同シニアインストラクター、元・陸上自衛隊衛生学校 心理教官
陸自初の心理幹部として多数のカウンセリングを経験。 その後、自衛隊の衛生科隊員(医師、看護師、救急救命士等)やレンジャー隊員等に、メンタルヘルス、カウンセリング、コンバットストレス(惨事ストレス)対策を教育。 本邦初の試みである「自殺・事故のアフターケアチーム」のメンバーとして、約 300 件以上の自殺や事故にかかわる。
現在は NPO メンタルレスキュー協会でクライシスカウンセリングを広めつつ、感情のケアプログラム(ストレスコントロール)などについての講演・講義・トレーニングを提供。 著書は 40 冊を超える。
もくじ
コロナで半分以上がうつっぽくなっている
―― 今日のウェビナーは下園さんのご講演のあと、質疑応答という形式で進めます。
では、下園さま、よろしくお願いします。
こころが弱ってしまう仕組みとは?
では、なぜ、こころが弱ってしまうのか。 理由として、刺激やストレスの大きさ / 不安・孤独 / 変化 / 我慢できる能力 といったことに目を向けがちです。
ですが、私が長年この仕事に携わり、観察してきた中では、一番影響が大きいのは、実は「疲労の度合い」です。 これによって、感情、つまりセンサーが 2 倍 3 倍になってしまいます。 今日はこれを簡単に説明します。
これは疲労が蓄積したときの段階を示したもので、 1 段階疲労、 2 段階疲労、 3 段階疲労と、疲労の度合いがだんだん深まります。

1 段階は、ダメージを受けても回復します。 徹夜だったら、 2 日ぐらいで抜けますし、上司から嫌なこと言われても、翌日ぐらいには忘れます。
これが何らかの原因で疲れを溜めこんでしまっていて、 2 段階の状態になると、実は受けるダメージは( 1 段階の) 2 倍になります。 同じ上司からの指導であっても 2 倍のショックを受けて、そしてここが重要なのですが、回復するのも 2 倍かかるのです。 これが 3 段階になると 3 倍になります。
では、疲労が蓄積すると、どのように兆候が変化するのか見てみましょう。

2 段階の下の方から身体的不調が出てきます。 不眠とか食欲不振、その他のいろんな症状が身体に出ます。 また精神症状も変化し、「だるい、億劫、面倒くさい」という言葉が口をつき、「イライラ」しています。 ただ、まだ表面は飾れる状態で、職場では気合いを入れて、なんとかパフォーマンスを出すことはできる状態です。
3 段階になると、疲労感、不安、負担感の他に、精神的には自責感、不安感、無力感を感じてしまっています。 これがうつ状態です。
うつを「病の症状」として捉える
そもそも病における「症状」とは、コロナを例にすると、熱や咳、味覚障害などの兆候が出ます。 これが「症状」で、罹った人はだいたい同じ症状で、だから「コロナ」という病気として括られます。
同様に、うつ状態も病気として括られます。 なので、きっちり共通した症状がでます。 そして、そのうつ状態という病気が抜けると、その症状は無くなります。
では、うつの症状を見てみましょう。

向かって左側が身体症状で、右側が精神症状です。 こういった症状が出てくると仕事ができなかったり、成績が低下します。 加えて、ありとあらゆる身体不調が出始めます。 耳鳴り、めまい、歯痛、肩こりなど、たくさんのバリエーションがあります。
これらの症状に共通するのが、病院に行っても、なかなか治らないし効果がないことです。 このあとうつへの対処法で説明しますが、治すには、例えば、うつに対するお薬を飲んだりとか、休養などをとることで症状が薄れます。
続いて、右側の無力感、自責感、対人恐怖、不安、そして死にたい気持ちも、すべて「症状」です。 私たちは誰かが「死にたい」と言ったら「どうして?」と思いますよね。 何か相当の理由があると。
一方で、コロナで苦しい症状がでているときに、「みんなに迷惑だから咳しない方がいいよ」とは言いません。 病気なのですから。 同じように、うつ状態になると、何の理由もなく、死んで終わりにしたいと思うようになります。 これは、うつという「病の症状」だと思ってください。
この「病の症状」は理屈でひっくり返そうと思ってもひっくり返せないものです。 それどころか、皆さんがひっくり返そうとすればするほど、まだ 20 % は理屈がわかってしまうので「そうできない私はダメだな、できない私は自助努力が足りないな」と、逆に苦しませてしまうことになります。
感情が引き起こす現代うつの典型パターン
今度はうつの原因となる「疲労」を考えましょう。
マラソンして疲労すると、全員がうつ状態になるかというと、そんなことはありませんね。 そうです、頭脳労働や肉体労働は、やったことが自分でもわかるので、休もうと思うし、自分の変化を疲労と結びつけられます。
では、その現代人の「疲労」の原因として一番大きいのは何か、それは「感情」です。 仕事は労働時間も残業時間も決まりがありますが、感情については、ずっと休みもなく働かせています。 情報化社会のなかで、ますます感情が刺激され、心臓がドキドキし始めます。 それだけで疲れますし、身体にも緊張が走りますよね。
そしてもう一つ、疲労の原因になるのが「環境の変化」です。

これはライブイベント、つまり環境の変化で引き起こされたストレスを数値化した表です。 成功やクリスマスといった良いことや楽しいことでもエネルギーを使っていることがわかりますね。
この表をもとに 100 人程度を対象にチェックしてもらい、疲労度を計算してもらいました。 そして、彼ら彼女らを一年間追いかけたところ、疲労度が 300 点以上だった人の 80 % は翌年に こころのトラブル になっていました。
現代人は気づきにくい「環境の変化」と「感情の消耗」によって、訳もわからないまま疲労が蓄積して、うつ状態になってしまうのです。
この表でコロナに関連がある項目をカウントしただけで 286 点あります。 もし、そこに転校や上司とのトラブル、あるいは入学卒業とかいったものが重なると、軽く 300 点以上になります。 非常に大きなストレスがかかっている状態です。

さらに追い打ちをかけたのが自粛です。 例えば、マラソンで持続的に走っていると疲労は大したことありませんが、走って止まって走って止まってと、いわゆるストップアンドゴーを繰り返すと、大変疲れます。 コロナも同様です。 2 年間で自粛が沢山あり、疲労がさらに増しています。
また自粛というのは何かというと “我慢” です。 ストレスの解消になっていたこと、例えば、飲み会や食事などができないようになっただけでなく、楽しいことをすることに罪悪感を感じて、 “我慢” しなくてはなりませんでした。 コロナはうつになりやすい要素が揃ってしまっているのです。
こころを健康に保つためには?
睡眠が一番
では、どうするとよいのでしょう?
まず皆さんにお願いしたいのが、問題解決しようとしないことです。 能力を鍛えようとか、今回のセミナーで「本当のこころの強さとは」と考えることもそうです。 うつ状態の人に「頑張れ」と言ってはダメという有名な対処法がありますね。 問題解決とは自分で自分に「頑張れ」って言うことなんです。

本質的に考えましょう。
うつの原因は「疲労」なのですから、まずは「休むこと」です。 休むと言っても、「睡眠」することがポイントです。 とにかく、ちょっとうつっぽい、なんかおかしいって思ったら、いつもよりも 1 時間 2 時間寝る。 昼寝でもなんでも構いません。 私はうつっぽい方には、 9 時間寝てください、とお願いしています。
ただ症状に不眠、不安がある場合だと、休んでいても、不安と不眠でずっと休めないかもしれません。 そうした場合、抗不安薬とか睡眠薬といったものをうまく使うとよいでしょう。 受診して、医療の力を借りるのはとてもいいことです。
相談先を育てよう
また 2 段階になると、すでに思考が偏り、自分の軸がズレている可能性があります。 その軸を直すには人と相談することです。 ただし、うつ状態になると相談しません。 うつ状態になって死にたいと思っても相談しなかった人が 73 % 。 自殺未遂でも 51 % の人が相談していません。
これは対人恐怖であったり、不安であったり、相談しても悪いことが起こるのでは、とネガティブに考えてしまうからです。
そこで皆さんへのアドバイスとしては、「相談先を育てておいてほしい」ということ。 うつ状態は、自分一人では気がつきにくい。 頭のいい人ほど自分の判断は正しいと思ってしまいます。 さらに対人恐怖や自信の低下とか自責の念から不安が強くなって、相談しづらくなっています。
ですから、日頃からうつになっても相談できる人にあたりをつけて、そしてその人間関係を育てておいてほしいのです。 家族でも同僚でも友人でも先輩でもカウンセラーでも構いません。 バーチャルではなく生身のお付き合いをして、私をちゃんとわかってくれる、助けてくれるという実感を持てる方を見つけて、関係性を育てましょう。
質疑応答
―― ご講演ありがとうございました。 それでは質疑応答の時間に移ります。 最初の質問です。
「メンタル不調の不調を、周囲が気をつけるサインはありますか?」
職場で一番わかりやすいのが、仕事ができなくなることですね。 また仕事はできていても本人は「できない、自信がない」と言い始めることもです。 そして、大きな兆候がイライラしはじめることです。 そういうときは、ちょっと呼んで「眠れてる?」と聞いていただくとよいと思います。
―― ありがとうございます。次の質問はこちらです。
「睡眠以外で健康を保つ方法はありますか? 」
まずは睡眠を取ってください。皆さんスグ、それ以外それ以外とおっしゃるのですが、私のこれまでの経験では睡眠が一番です。 とにかく騙されたと思って睡眠をたくさん取ってみてください。
―― 数多くの質問をいただいていますが、最後の質問です。
「私の場合、性格的に自分が疲れていることに気づけないケースが多く、家族に指摘されて気づくケースが多いです。 自分が疲れていることに自分で気づく方法としてはどんな例があるでしょうか?」
ご家族がわかってらっしゃるというのは、すごくありがたい話です。 なので、ご家族の方に、どんなところで気づくのか、まずは訊いてみたらいかがでしょうか。 それが自覚できるものであれば、気づけるようになります。
自覚できない場合は、家族の言葉に耳を傾けましょう。 段階が進むと、家族の言葉も聞かなくなりますので、それは覚えておくとよいでしょう。
―― ありがとうございます。では最後に、視聴者の皆さまに下園さんからメッセージをお願いします!
今、いろいろなことが復活しようとしていますが、実は多くの人がなかなかエンジンをかけにくい状況にあります。 そこで自分はダメだなって思わないでください。 2 年間で多くの人が疲弊しています。 徐々に、徐々にエンジンをかけてください。
まとめ
元陸自の心理幹部で著作も 40 冊を超える下園 壮太さんをお招きし、うつの正体と原因、その治療方法についてお話を伺いました。
「うつの 3 段階」「うつは病気なので、共通の症状がある」「うつは疲労の蓄積から」「現代人の疲労は感情と環境の変化で無意識に溜まる」「治療には睡眠が一番」、短い時間ながら、ギュッと一番重要なトピックをまとめて紹介いただきました。
コロナの 2 年間を思い返すと、孤独と不安、イライラは身にしみて感じました。 子どもも含め私の家族も同じようなものだったので、これはうつっぽい症状だったのだ、と気づきました。 それだけに「落ち着いた今が危ない」というお言葉にハッとさせられました。
コロナからようやく落ち着きを取り戻している今こそ、「睡眠」と「相談先を育てる」ことを心がけたいですね。
SEカレッジ ウェビナーは旬のテーマをもとに継続して開催しています。ぜひご参加下さいませ!
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コロナも 2 年目になり、私がカウンセリングをしている中でも困ってらっしゃる方が多くなっています。
通常、疲労がたまってうつ状態になっているという方は、全体の 1 割ぐらいはいらっしゃる。それから、いわゆる「プチうつ」状態というのは 2 割ぐらいで、あとの 7 割が普通に元気にして仕事をしている。
これがコロナになって一年ぐらい経ってからのデータを見ると、プチうつも含めて、半分がうつっぽくなっています。