NTTデータにおけるZ世代の育成と従来研修からの変革
もくじ
ユーザ思考が求められる、今の新入社員育成
「 Z 世代」と称される世代が入社するようになり、国内外で Z 世代に対するさまざまな意見を耳にします。
Z 世代、あるいは●世代が良い、悪いではありません。「最近の若い社員は … 」とぼやいてしまう方も実際に見かけますし、ジェネレーションギャップを強く感じている方もいることでしょう。
ただ、世代ごとに特徴が違うことは、育ってきた時代背景も異なり、至極当然です。必要なことは、世代の違いに悲観することではなく、新たな価値観を受け入れ、活かし、融合し、シナジーに繋げることだと考えます。むしろ VUCA * の時代、こうしたことができなければ、今後の企業価値あるいは競争力向上に繋がらず、成長は見込めません。
Volatility (変動性)、Uncertainly (不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity (曖昧性)の頭文字を取ったもので、何が起こるか予想がつかないことを意味する
一方、新たな価値観を活かすといっても、まだ右も左も分からない新入社員です。私たち人材育成に携わる者は、 Z 世代であろうと●世代であろうと、学生から社会人に早期戦力化することが変わらない責務です。
しかし、 Z 世代の台頭後、人材育成担当者の中には、従前の人材育成手法では思った通りの成果や成長が見込めず、悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。この後、紹介しますが、当社でも 2019 年にこれに直面し、大きな変化を迎えました。
この一番の原因は、 Z 世代という新しい世代が持つ傾向や特徴を認識しないまま、従来の価値観や考え方を正としていることではないかと推察します。
そこで、ここから当社がこの Z 世代の育成に対して、どのように考え、取り組んだのか、その背景と具体的な施策を紹介したいと思います。
Z世代とは
Z 世代とは、主に 1990 年代後半から 2010 年代中盤までに誕生した世代を指すと言われています。
例えば 1997 年に出生した方々( 2020 年入社の学部卒新入社員に相当)の価値観や感性に影響を及ぼした、社会・経済、テクノロジーの進化、教育、就職活動の 4 つの観点を見てみます。
- 社会・経済
- 物心ついたころから不安定な時代を過ごし、右肩上がりの高度経済成長期は歴史上の出来事だと感じている。
- 大企業神話は崩壊し、親世代が厳しい状況に陥るケースを目の当たりにしている。
- テロや自然災害等を多く経験したことや、環境保護の重要性が幼いころから教育され、社会課題への意識は非常に高い。また、変化スピードの速さを肌で感じている。
- テクノロジーの進化
- 物心ついたころにはインターネットが本格的に普及し、便利さと情報収集の速さに慣れている。
- SNS によるコミュニケーションは学生時代から日常的になっている。
- 興味、関心の近い仲間と密にやり取りすることや、ゆるいつながりの集団で共通認識を形成すること、オンラインで自己表現する習慣、 SNS に承認欲求を求める等が自然に身についている。(例:発信した内容に「いいね!」を求める)
- 教育
- 個性重視のゆとり教育の影響を受けている。
- グループディスカッション型の授業が増加し、自己表現が非常に闊達になっている。
- 大学でキャリアガイダンスや授業評価が導入される等、新たな取り組みが活発化し、学校から得られる情報や学校との関係性も、かつてとは変化している。
- 就職活動
- 数年来の「売り手市場」が続いている。
- 就職氷河期とは違い会社への忠誠は薄れ、「何とかなるだろう」という楽観的な感覚も多少有している。
- 働き方改革が進む中でワークライフバランスを非常に強く意識しており、ブラック企業を敬遠する層もいる。
- 就活ルール廃止に伴う「いつでも転職できる感」の影響もあり、新卒入社は長いキャリアの一つの通過点でしかないという考え方も高まっている。
こうした背景から、リアルタイムでのオンラインコミュニケーションを好む、 SNS で人脈を作る、社会貢献意識が高い、人の目(評価)が気になる、意見の対立を受け入れ対話する、現実主義 … といった側面が強く見られるのが特徴です。
Z世代が従来研修をディスラプトする理由
当社では、 Z 世代の一般的な特徴と類似する傾向が、 2019 年の新入社員研修ではじめて見られました。
当社の新入社員研修は、各種育成施策の中でも非常に大規模なプロジェクトです。入社後 2 ヵ月弱の新入社員研修を経て、夏に振り返りを行い、秋に次年度に向けた企画を開始します。 2019 年の新入社員研修も、前年度を踏まえて、改善を加え臨みました。
当社新入社員の基本的な傾向である、真面目で基礎能力が高く、様々な物事に対し前向きかつ要領よく対応できる姿勢は、従来通りの素養として発揮された一方、すべての新入社員に当てはまったわけではないものの、これまでとは異なる傾向として、以下の 3 点が顕著に見られました。
- 明確に自己主張する
- 自分の意見をしっかりと持っており、素直に主張・発信する。
- 一方、相手の立場や背景等を多角的に捉える、あるいは慮ることなく、その主張による影響力までは意識できていない傾向も見られた。
- 自身の基準や価値観へのこだわりが強い
- これまでの経験を元に、自分の中で絶対的な基準や価値観を構築する。
- 一方、その基準や価値観をもとに行動し、納得感がないと動かない、無駄なことはしたくない、異なる基準や価値観には拒否反応を示すといった傾向が見られた。
- 失敗を恐れ、承認欲求が強い
- 個人の意見や行動に対し、個別の反応やフィードバックを積極的に求め、自分という「個」にフォーカスされることを望む。
- 一方、大勢の場で失敗をすること、悪目立ちをして注目を浴びることを嫌い、絶対的な正解を求める、あるいはミスを恐れて消極的になっているケースが見受けられた。
いかがでしょうか。当社では上記はいずれも Z 世代の有している傾向によるものと、振り返っています。
また、この傾向が研修にどう現れたのか、以下にまとめています。
- “遠慮” や “建前” といった感覚はあまりなく、コース内容や人物などに良いも悪いも率直に意見・評価をする。
- 自分の納得できるレベルまで自主的に学習・努力して成果物を仕上げるが、それ以上は高める必要性を感じない。
- 自分の興味がある、自分に合っている、意味があると思うことは没頭するが、逆の場合、手が止まりがちになる。
ポジティブ / ネガティブどちらの現象もありますが、これがポジティブな方向に強く働くように仕組みや環境を整えることが課題でした。
さて、みなさまの新入社員研修はいかがでしょうか。もしかすると従来の新入社員研修は、研修のユーザである受講者より、企業あるいは育成する側の意向が優先された内容になっていたかもしれません。
当社では毎年、数百人単位の新入社員が入社します。しかし、その数百人の育ってきた環境や背景は異なり、それゆえ経験や多様性の幅も拡がるのです。
私たちは 2019 年の新入社員研修の経験により、多くのことを学びました。まずは Z 世代という新たな研修ユーザのことを、私たち自身がよく知ること。その上でより個々人に着目し、 Z 世代の社員が育つことができる、新入社員研修の仕立てや仕掛け、メッセージの出し方を考えていく必要性を気付かされました。
NTTデータにおけるZ世代を意識した取り組み
Z 世代新入社員のオンボーディングに、以下のような対応が必要と振り返っています。
- 対話を通じてキャリアや仕事に対する考え方を把握し、成長の方向性について認識を合わせる。
- 上から押し付けることはせず、仕事の背景や目的や意味を、常に伝え続ける。
- 楽しくてやりがいのある仕事ばかりとは限らないといった現実は包み隠さず伝え、しかしそうした経験は成長につながるということを丁寧に説明する。
- 各「個」人にきちんと目を向け、意見や主張を受け止める姿勢や体制があることを可視化する。
- 求められたときに、安易に「 How 」を与えるのではなく、「 Why 」を考えることを徹底させる。
- 失敗を恐れずに挑戦することを支援し、結果を受け止め、また認めた上で、適切なフィードバックをすることで内省と成長を促す。
上記を念頭に置きながら、当社では 2020 年の新入社員研修以降、 Z 世代を意識した取り組みを実施してきました。
経験学習モデルの導入
例えばその一つが、「スモールステップと経験学習」です。
「ありたい姿」を描かせつつ期待する姿を共有し合い、そのゴールに対して一段ずつの成長ステップを可視化することで成長実感を与えるよう、研修全体を通じたストーリー設計を行っています。
そこで、従来の Input → Output の講義形式から、 Output → Input の 経験学習モデル* を導入しています。特に、 Z 世代の特徴の一つとして見られる自己評価が高い(「知っている」「できている」感がある)受講者に対して、学習内容の必要性を感じさせるためにも有効です。
具体的には、 2020 年にビジネス基本スキルに関するカリキュラムから、はじめに経験・試行錯誤させてから解題するアプローチを小さく取り入れ、 2021 年にはこれを研修全体の設計に拡げています。
経験学習の 実践 → 内省 → 概念化 → 実践 … というサイクルは、「まずやってみる」という現場観にも近しいところがあり、新入社員研修だけでなく配属以降も見据えた実践的な取り組みとして有効であると考えています。
D.コルブが提唱した学習モデル。経験から振り返りと観察を経て、次に活かす教訓や学びを得ること
自習タイムを通して「自育のマインド」を醸成
その他にも、 2021 年の新入社員研修からは、「自習タイム」を設けています。
当社では新入社員に対して、
- 研修受講は新入社員にとって、社会人としての最初の仕事
- その仕事の中で、育てられる(他動詞)ではなく、自ら能動的に育つ(自動詞)
- 新入社員研修という機会は十分に与えるので、成果を出す = 育つことについて、ひとりひとりが責任を負う
ということを表すメッセージとして 「自育のマインド」 を説いています。
経験学習のプロセスは、この「自育」の習慣化にも繋がりますし、 Z 世代の「個」を重視することにも通じます。
これらの取り組みの通り、新入社員全員が一律の目標設定、ゴールを目指し、同一レベルのスキルを保有することは、研修(育成)の最適解ではなくなってきています。
つまり、これまで当社が取り入れてきた「長期間一斉受講型」の研修形態は、今後は一層立ち行かないと考えているのです。より「パーソナライズ化」された新入社員研修を実現するにあたって、まだ道半ばではあるものの、新しく導入した「自習タイム」はスタートラインとして非常に有効でした。
具体的には、受講者自身に裁量を持たせている研修日程を、 4 営業日ほど設けています。これは当社の新入社員研修全日程の、およそ 1 割です。
実施するに当たり、以下のように仕立てを工夫しました。
- カリキュラムの切れ目や意図的なタイミングでそれを設けていること
- 学び放題の e ラーニングコンテンツを用意していること
- 単に自習して終わりではなく、「 Why 」「 What 」の意味付け(目標を設定させ、振り返らせる)や、相互にそれを共有(発信とフィードバック)させること
予習をしても、復習をしても、新入社員研修内で扱わないコンテンツを学習しても構いません。この時間を有効活用して、自分にとって「今必要なものは何か」をきちんと考えさせ、「自ら学ぶ」経験を繰り返させることは、 Z 世代新入社員の特徴を押さえた動機付けと、「自育」の定着へと繋がっていると考えています。
「個々人へのフィードバック」に課題
一方、まだまだ取り組み切れていない点もあります。例えば、「個々人へのフィードバック」がそれに該当します。
これは特に、新型コロナウィルス感染拡大防止の観点から当社でも 2020 年より採用している、研修の全面オンライン化も大きな要因の一つです。
なお、研修のオンライン化の詳細は割愛しますが、様々な工夫を施すことで集合形式の研修とそん色ない、学習効果や学習環境の提供ができ、新入社員の成長もきちんと見られています。
しかし、「個々人へのフィードバック」が適切にできているかというと、オンラインゆえ、この難しさが増したというのが事実です。
集合研修であれば講師は全体を見渡し、顔色や雰囲気まで見ながら、理解度や反応に合わせた調整、フィードバックが可能でした。しかしオンラインでは、いくらカメラオンで様子は見えても、受講者の”温度感”まで知り得ることは難しいです。特に1対多の状況は、ますますこれを難しくさせます。
フィードバックを受ける機会が少ないことは、自信が持てないこと、あるいは自己認識の希薄さ(できているつもりになる)に繋がりかねません
「パルスサーベイ」等も活用して、新入社員へ個別にフィードバックやアプローチするといった新たな仕組みの導入を開始はしたものの、より効果的なフィードバックを行い、更なる成長を見込むための工夫や改善は、今後進める予定です。
このように、当社も様々な取り組みに Try & Error をしながら、 Z 世代社員が育つ、新しい新入社員研修のカタチを、日々模索しているところです。
最後に
私が様々な企業の人材育成担当者と意見交換していても、 Z 世代を意識した育成の取り組みは、まさに十人十色です。
研修で扱うコンテンツも異なれば、新入社員の人数、研修期間、研修形態…等、様々であり、当社の取り組みが参考になることも、ならないこともあるでしょう。
しかし、共通して言える大切なことは、新たな価値観を有した「 Z 世代」新入社員が台頭していること、新たな研修ユーザを知り、その目線に立ち、今求められる研修の姿や育成施策を考えることです。
2020 年以降は Z 世代だけでなく、前節で少し触れた、「研修のオンライン化」もホットトピックになっています。
Z 世代の新入社員は「デジタル・ネイティブ」ゆえ、リモート環境下での研修受講や業務遂行にスムーズに適応できている一方、配属後、組織や人間関係への順応ができず、従来通りの成長が見込めていない可能性がある、という新たな問題を提起する声も聞こえます。
「 Z 世代」「オンライン」「 New Normal 」「 VUCA 」 … 人材育成を取り巻く様々なキーワードがあげられ、育成することの難しさを日々痛感しています。
悩みや問題は尽きないかもしれませんが、だからこそ私たちの基本動作として、相手や状況を知り、従来に捉われず、常にユーザ思考で考えることが求められます。
「 Z 世代」という新しい世代が持つ価値観から、新たなシナジーを生み出せるよう、みなさん一緒に人材育成を盛り上げていきましょう。
(株) NTT データでは、社員の能力開発を支援するための様々な研修体系整を整備し、高度な専門性と変化への対応力を有するプロフェッショナル人財やグローバルで活躍できる人財の育成に注力しています。
上記ページでは、当社の教育・育成に関する考え方、研修体系、プロフェッショナル人財育成の仕組み、併せて、近年の重要テーマであるデジタル・グローバル人財育成の取り組みについても紹介しています。
(株) NTT データの新入社員研修は、 (株) NTT データユニバーシティと共同で開発・実施しています。
(株) NTT データユニバーシティでは、 NTT データグループ向けの新入社員研修も開発・実施しているだけでなく、 NTT データグループの社内人財育成のために体系化したノウハウや方法論を活かしながら、人財育成・組織強化関連の各種サービスを提供しています。
上記ページでは、 2021 年度の新入社員研修の取り組み結果や、新入社員の傾向について紹介しています。
株式会社 NTTデータ
人事本部 人事統括部 人財開発担当
2011 年入社。入社後、通信事業会社様をはじめとする顧客営業に従事し、 2018 年 11 月より現職。同社の国内人財向け、主に新入社員から若年層社員の階層系育成や、リーダー層に対するデジタル人財育成をはじめとする、各種人財育成施策の企画・開発・運用を担当。
プライベートでは一児の父として、「夫婦ともにキャリアも育児もあきらめない」をモットーに、育児と仕事の両立を体現。 2019 年厚生労働省よりイクメンの星を拝命。