子ども向けプログラミング教育を再考する ~今、求められるプログラミング的思考とは?~|SEカレッジ ウェビナーレポート

SE カレッジでは旬のテーマをもとに、毎月 1 時間のウェビナーを開催しています。
今回のテーマは 「子ども向けプログラミング教育を再考する ~今、求められるプログラミング的思考とは?~」です。
年々人気が増している子ども向けプログラミング教育について、 2021 年度よりスタートしたプログラミング教育必修化の現状や、小学校のうちにプログラミングを習うことのメリットなど、小学校向けプログラミング教育に携わる 山本 大 さんと 鈴木 翔太 さんをお招きし、お話を伺いました。

株式会社レベルエンター 代表取締役
プロジェクトマネジメントや 1000 人規模のプロジェクトでのアーキテクトを経て、役員として経営に従事。業務で IT 研修トレーニングの講師を担当し、数多くの IT プロフェッショナルを育てる。より若い時代から IT に触れる経験が必要と考え、 2015 年 8 月に株式会社レベルエンターを創業し若年層向けの IT 教育に携わる。

ヒューマンアカデミー株式会社
大学では機械工学を専攻。卒業後、地方大手学習塾にて、数学科の講師として勤務、小・中学生のべ 3,000 人に授業。算数数学、理科の一般的な授業に加え、中高一貫校入試対策の適性検査およびプレゼンテーション指導講座や、フィンランド教育に着想を得た読解・思考力育成講座、 LEGO ® のマイコンを使用した小学生向けロボットプログラミング講座、理科実験講座などに携わる。
ヒューマンアカデミー株式会社では、小中学生向け電子工作&ロボットプログラミング( C 言語)の上級者向けロボット講座の教材制作を担当。ブロック組み立て&ビジュアルプログラミングの通常ロボット講座、 Scratch による小学生向けプログラミング講座の担当や、Arduino 、 micro:bit を使用する各種ワークショップ用教材の開発なども担当。
もくじ
算数で Scratch ?? 必修化されたプログラミング教育のいま
―― まず、学校におけるプログラミングの授業の現状を、学校教育に詳しい鈴木さんから解説いただけますか?
特徴的なのは、文部科学省はプログラミング教育の一番の目的に「プログラミング的思考」を置いているわけではなく、「情報活用能力」を挙げていることです。
この「情報活用能力」というのは、さまざまな教科を学習していく上で必要な、
- IT の知識やスキル
- プログラミング的思考を含めた考え方や表現
- 積極的に IT に触れる姿勢
この 3 つの要素からなる能力としています。これを早くから育てようとしています。
―― 情報活用能力というと、具体的にはどのようなプログラミング教育が行われているのでしょうか?
よく勘違いされるんですが、プログラミングが教科として独立しているわけではありません。
例えば、算数の授業で Scratch を使って、
「 1 + 2 + 3 + 4 + … って 50 まで全部足すような計算って大変だよね。じゃあ、プログラムで作るとどういう手順になるか考えてみよう」
ということをやったり、
家庭科では
「自分の街を紹介するクイズゲームをプログラムしてみよう」
という題材であったり、あくまで、これまでの授業の中にプログラミング要素が入るというイメージです。
―― なるほど、既存の教科の中にプログラミングも入るという感じなんですね。一方、山本さんや鈴木さんが携わっている、学校ではないプログラミング教育ではどのようなことをされているのですか?
私どもは Scratch のようなプログラミング教育で使うようなソフトや教材を開発しながら、従来の学習塾がプログラミング科目を開くときに講師になったり、コンサルティングするなどお手伝いしています。
その一環で、先生方と子どもたちを体育館に集めて、ブースにわけて様々なプログラミング授業を同時に実施して、それを縁日のように先生が見て回る、といったイベントも開催しました。
ヒューマンアカデミーでは、フランチャイズで教室を全国展開していて、様々なプログラミング講座を開催しています。例えば、ブロックでロボットを作って、それをプログラミングして動かすものや、あるいは Scratch で、毎月違ったゲームを作る講座などがあります。
―― 学校とは少し違うのですね。一方で、保護者の方々は学校と塾のプログラミング、どのように考えているのでしょうか?
保護者の方からのプログラミング塾の人気は非常に高く、過熱気味です。というのも、教員の多忙さ、専門教員の不足もあって、学校教育に新しいカリキュラムを導入するのは、すごく大変なんですね。
人気の背景の 1 つには、学校の先生だけではやりきれないという考える保護者の方が多いように感じます。
―― 保護者の方々にも人気なんですね。それは鈴木さんもお感じになりますか?
そうですね。今までならプログラミングやゲームをつくるというと、遊びのように見られてしまいがちでした。今ではそれが「習い事」として認知され、子どもに通わせたい習い事ランキングといったものにプログラミングがランクインしています。
―― 学校と塾とではプログラミング教育の違いはあるのですか?
さきほどお話したように、学校ではこれまでの教科の中にプログラミングの要素が入りますが、塾はプログラミングに特化しているのが特徴ですね。
どうしても学校の取り入れ方だと先生が使ったプログラムに少し触れるだけになってしまい、断片的になってしまいます。一方で、塾では Scratch などを使ってプログラムの書き方やブロックの意味などを体系的に教えています。
―― 情報活用というコンセプトは良いとしても、なかなか学校のプログラミング教育には難がありそうですね。実際、どのような課題があるのでしょうか?
GIGA スクール構想で学校の ICT 化は進んでいるのですが、一方で ICT の使い方や授業での取り入れ方は学校単位で決められていて、例えば、授業中にインターネットに繋いでよいかどうかも学校によってマチマチで足並みは揃っていません。
学校や先生の裁量が思った以上にあって、公立の学校でも、先進的な学校ではコンピュータを使った授業があり、先生方もそれを使いこなしいるところもあれば、そういった授業も無い学校があって、学区によって異なっています。
だからと言って、足並みを揃えようとすると、どうしても低いレベルに合わせることになるので、それはそれで問題です。
プログラミングを学んだ子たちは話し方が変わる
―― 続いて、プログラミング教育の効果という話題に移りたいと思います。小学生の段階で、プログラミング的思考を身につけるということが、今後の人生にどんな価値があるのでしょうか?
例えば、中学校の入試は昔と様子が全く違っていて、いまの入試では、あえて受験生が知らないであろう題材を出して、その場で思考させるという問題が出題されています。
長野県のある中学校の入試では、長野県の気象に関するグラフがたくさん並べられて、なぜ長野県は高野豆腐づくりが盛んなのか、と問題が出題されていました。
つまり、世の中の変化が激しい中、こういった未知の問題でも考えられる能力を培うという方向にシフトしているんですね。そういった変化に、プログラミングの「いかにこれまで知っていることを使って、未知の問題を考えられるか」という思考が役立つと考えています。
鈴木さんのお話とも重なるのですが、僕自身、小学生の娘がいるので、プログラミングを通じてどんな子に育つかを考えたのがこちらの図です。

さきほどの文部科学省の情報活用能力とも似通っているのですが、プログラミング教育で大きくは 問題解決 と 姿勢 と リテラシー が変わります。
“問題解決” は、プログラミングをやっていると、未知の問題に対して道筋を立てて取り組んだり、大きな問題でも小さい問題に切り分けて考えることが癖づきます。
またプログラミングでは少しのことで動かなくなったりするので、手順を覚えるだけではなくて、手順を作るために原理まで理解しようとします。そういった追及する “姿勢” が身につきます。
最後の “リテラシー” は、僕が大人向けに教えているとテクノロジーを怖がる方が割りと多いのですが、今の子どもたちは慣れ親しんでいます。やはり大人には、恐怖心や、よくわからないものへの先入観がある一方で、小学生のうちからプログラミングをやっていると、「テクノロジーは怖くない、便利に、生産的に使ってやろう」という頭になります。
―― 鈴木さんから見て、プログラミングで培われるものはどのようなものとお考えですか?
私からは経験したことをお話します。ヒューマンアカデミーの前に勤めていた学習塾で小学生向けのプログラミング講座があったんですが、私はその小学生向けプログラミング講座と中高生向け他の教科の講師をしていました。
そのプログラミング講座に通っていた子どもたちは、そのまま中学校に上がって他の教科も習うのですが、プログラミング講座を受けていた子たちのほうが、会話の端々が論理的なんですよね。
―― 話し方が違うということでしょうか?
例えば、数学の問題を解かせて、「どういう考え方でこの答えになったの?」と聞くと、他の子よりも何ステップも多く語ってくれたり、「ここはこうなると思ったけど、なぜかならなかった」ということをちゃんと説明してくれます。
こういった論理的な考え方は小学校のうちから育てておいたほうが絶対によく伸びるんですよね。
最初に体系立てた説明は不要!派手な動きで子どもたちのハートを掴む
このあと質疑応答に移り、視聴者の方から質問が沢山寄せられました。ここではその中から 1 つだけご紹介します
―― 「小学生プログラミング教室を企画しています。初心者にプログラミングを体験してもらう場合、どのような作例を用意されていますか?」という質問ですが、いかがでしょうか?
今回は “この知識を覚える” というのを 1 つ決めたら、それを様々に工夫しながら作れる作例がよいですね。例えば、「音を鳴らす」いう命令を覚えたら、「キーボードを押したら鳴る」「和音を鳴らす」「メロディーを作る」という感じです。
そうすると、習ったことでできることが広がり、工夫するコツが身につきやすくなります。
子ども向けに気をつけているのは、最初の “つかみ” は「簡単で、派手に動く」から入ることですね。
僕が、子ども向けプログラミング講座を初めてやったときに大失敗したのが、それまでやっていた大人向けのプログラミング講座のノリで、最初から体系立てて教えてしまったんですね。「この仕組みはこのあと必要だから…」とか、「変数というのはこうでね…」とやっていると、子どもたちは、全然、見向きもしてくれなくて(笑)。
子ども向けには、特に最初の導入部分はぐちゃぐちゃでもいいから、自分が描いた絵が派手にぐちゃぐちゃ動いて、それでみんなで大笑いして 60 分が終わる、ぐらいのほうが全然効果が高いんです。
やっぱり興味を持った状態で取り組むのと、そうでないのとでは全然違いますからね。最初から体系立てちゃダメです。
プログラミング教育で教育が変わる
―― 最後にまとめということで、プログラミング教育に関して、視聴者へのメッセージをいただけますか?
プログラミング教育は、今までの詰め込み教育とは一番離れた存在、未来の教育の象徴と思っています。なので、プログラミング教育を題材に、これからの教育のあり方を考えるきっかけにしてもらえればと思います。
プログラミングというと、途端に「就職に有利なスキル」とか考えがちです。
そうではなく、例えば、インターネットによって 70 億人とコミュニケーションできるようになったように、最新のテクノロジーを使うことで、新しいことができるようになります。プログラミングを学ぶというのは、こういった可能性を広げられるものと考えてもらいたいですね。
―― ありがとうございました!
ありがとうございました。
まとめ
プログラミング教育の必修化によって、にわかに人気になった小学生へのプログラミング教育。
その授業の実際と、プログラミングを通じて得られることが具体的にイメージできました。それにしても、プログラミングが教科として独立していないというのは驚きですね。
また、教育現場に関わるお二人ならではの、プログラミング教育に限らない教育そのものの変化や教え方のノウハウが詰まった内容でした。 2 児をもつ身としては演習のさせ方や「簡単で、派手に動く」というのは真似したいポイントでした!!
SEカレッジ ウェビナーは今後も旬のテーマをもとに継続して開催しています。ご参加お待ちしております!
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1 年前に、プログラミング教育が必修化され、小学校でスタートしました。このプログラミング教育とは何なのか。まずは、文部科学省が発表した「プログラミング教育の手引き」という文書から、どういった狙いで導入されたのか紹介します。