憂鬱な Java プログラマのための関数型言語入門 Scala Go Rust 研修コースに参加してみた
今回参加したコースは 憂鬱な Java プログラマのための関数型言語入門 Scala Go Rust です。
SI 業界で最も普及している言語は Java ではないでしょうか?
その証左として、例えば、新人研修では配属後に使う可能性が最も高いプログラミング言語が選ばれますが、 Java が圧倒的です。
とはいえ Python のシェアが増え、また新しいパラダイムと言われる関数型言語の勢いが増し、 Java のままでいいのかと思うこともあるでしょう。
このコースは、そんな業界で最も多い Java プログラマ向けに「関数型言語を味見してみよう」という内容でした! 読者の皆さんも書き方をみて、「わたしはこっちかな」「ぼくはこっちかな」とご賞味ください! ちなみに私は Go 言語がいいなぁと思いました!!
では、どのような内容だったのか、レポートします!
もくじ
コース情報
想定している受講者 | Java プログラミングの中級レベルの知識(もしくは同等レベルの他言語の知識) |
---|---|
受講目標 | Java と比較して Scala / Go / Rust の 3 つの言語仕様を理解し、簡単なプログラムが書けるようになる |
講師紹介
トレンドの技術で登壇する講師と言えば、米山 学 さんです。
Java はもちろん Python / PHP などスクリプト言語、 Vue / React など JavaScript だってなんだってテックが大好き。原点をおさえた実践演習で人気
実は過去にも関数型プログラミングのコースで登壇いただいています。
まずは今日のコースについて説明されました。
- Java 以外の言語をマスターしよう
- いちばん人気なのは Python / JavaScript
- 動的型付け言語
- 従来の Java が使われているところ (基幹業務システム) とは、ちょっと違う
- 関数型 Scala / Go / Rust の 3 つを欲張りに学んでみましょう
- いずれも静的型付け言語で Java と同じようなところで使えそう
- Java と比較しながら 3 つの基本構文を学ぼう
Java のこれまで
まずは Java のこれまでを振り返ります。
- オブジェクト指向や Web アプリケーション開発を広めた功績
- 言語ランキングは 1 ~ 2 位をキープしていたが、現在は下がり、レガシーになりつつある
- トレンドはオブジェクト指向から関数型へ
- 関数を宣言的に書いていく(わかりやすい)
- 引数が同じであれば結果は同じ(参照透過性がある) = テストがやりやすい
- オブジェクト指向は参照透過性がない
- マルチスレッド処理に優れている
いろいろな IT エンジニア向けポッドキャストでも関数型プログラミングの話題が増えていますよね。
各言語の特徴
では、今日味見する言語の特徴を解説いただきました。
- Scala
- 2004 年に公開
- Java 開発者でもあった Martin Odersky が開発
- 関数型の特徴を取り入れない Java が嫌になって開発
- Scalable Language が由来
- コンパイルしたバイトコードは JVM で動く
- “Better Java” というスローガンの通り、 Java の書き方に近い
- Scala から Java のライブラリが使える
- ユースケース
- 分散処理 OSS の Kafka や Spark で使われる
- Twitter のバックエンドで使われている
- 2004 年に公開
- Go
- Google が Google 内部の問題を解決できる言語として 2012 年にリリース
- 誕生秘話 Go at Google: Language Design in the Service of Software Engineering が面白いとのこと
- golang とも言われる
- シンプルで余計なものはない = 構文があまりない
- オブジェクト指向がない
- クラス、継承、例外処理などもない
- 構造体やポインターを使うなど、 C / C++ に近い
- オブジェクト指向がない
- 標準フォーマット (go fmt) や Lint ツールが標準装備されている
- マルチスレッド・並行処理に強い
- go routine / channel
- シングル・バイナリ・クロスコンパイル
- コンパイルすると OS で直接動くバイナリコードを生成する
- Windows だろうが MacOS だろうが Unix だろうが、どんな OS でも動く
- パフォーマンスがいい
- ユースケース
- Docker や Web アプリケーションのバックエンドで使われる
- Google が Google 内部の問題を解決できる言語として 2012 年にリリース
- Rust
- Mozilla Research の関連会社で 2015 年にリリース
- ブラウザエンジンの開発のために開発
- たった 6 年でランキング上位に入っている
- LLVM ( C / C++ などのコンパイラとしても使われる) 上で動く
- コンパイルするとマシンコードになる(実行速度が速い)
- C / C++ に匹敵する
- GC (ガベージコレクション) がない
- 所有権と借用の仕組みでメモリ安全性がある
- 変数に所有権があり、他の変数からは共有できない
- 使いたいときは「借用」(参照できる時間に制限がある)する
- ユースケース
- OS から web アプリケーションまで様々
- Mozilla Research の関連会社で 2015 年にリリース
それぞれ驚くべき尖った特徴があり、言葉だけ見ると、なんとも癖のありそうな(笑)雰囲気がありますよね。 オブジェクト指向が無いとか、 GC が無いとか、 Java が嫌いとか。
ちなみに、プログラミング大好きが集まるプログラミングコンテスト界隈では、無敵の C / C++ に匹敵するということで Rust に注目が集まっています。
実行環境
さて、問題なのはプログラムの実行環境です。 1 台で 3 つのコンパイラを入れるのは骨が折れますが、さすがは新しい言語です。インターネット上で動かせる Sandbox が用意されていました。
- Scala: Scastie
- Go: The Go Playground
- Rust: Rust Playground
このコースではこの環境で実行します。
hello world
続いて、肩慣らしとして Hello World をそれぞれ書いてみます。
- Java
class Hello { public static void main(String[] args) { System.out.println("Hello, Java!"); } }
- Scala
object Hello { def main(args: Array[String]) = { println("Hello, Scala!") } }
- 実際には クラスがなくとも動く
object
を使うと、 1 回だけインスタンスが生成される;
は書かなくても自動補完される
- Go
package main import "fmt" func main() { fmt.Println("Hello, Go!") // fmt は go fmt }
- main パッケージ (package) に含まれる必要がある
- パッケージ内の main() から始まる
- 終端のセミコロン
;
は必要ない
- main パッケージ (package) に含まれる必要がある
- Rust
fn main() { println!("Hello, Rust!"); }
fn
で関数定義println!()
は関数ではなく標準出力用の「マクロ」- 文字列主力用のマクロなので int などは出力できない
なお、コメントの書き方はすべて Java と同じでした。 // 単一行
or /* 複数行 */
構文を比べてみよう
ここからは実際に構文をそれぞれ書いてみます。
変数宣言
- Java
int x = 1; var y = 1;
- Scala
val x: Int = 1 // val x = 1 // x = 2 // NG var y: Int = 1 // var y = 1 // y = 2 // OK
- val 変数は再代入不可
- 宣言と代入がセット
- var は再代入可
- 変数名 型 値
- val 変数は再代入不可
- Go / Rust
- 型推論を導入している
- 型を宣言しなくても良い
- Go
var x int x = 1 /* x := 1 */
- 再代入可
- 初期値を指定するときは
:=
を使う
- Rust
let x: i32 = 1; // x = 2 // NG
- 型宣言は不用
- 再代入不可なので、初期値を入れる
let
を使う ( JavaScript と同じ)i32
は 8 ビットの int- 再代入するときは、
mut
と、変数名の先頭に_
をつけるlet mut _x: i32 = 1; _x = 2;
はやくも洗礼をうけました。再代入不可はちょっと慣れないです。変数とは…
文字列
- Java
String s = "abc";
- Scala
val s: String = "abc"
- Go
s := "abc" var s string = "abc" b := s[0:2] // ab が出力される。 [] は slice と呼ばれる配列表現
- 文字を配列として扱える ( C と同じ)
- Rust
let s: String = "abc".to_string(); println!("{}", s);
String
は文字列ではないので、to_string() で文字列化している- {} はフォーマット用指定子。第 2 引数を代入
Rust メモリ管理のせいでしょうが、厳密すぎやしませんか…
関数宣言
続いて、関数ですが、 Java では関数が独立しておらず、オブジェクトの中にあります。
以下の Java の例はクラスの中にあるとして宣言しています。
- Java
void x() { /* ...*/ } // 引数なし戻り値なし void x(int i) { /* ... */ } // 引数あり戻り値なし int x() { return 0; } // 引数なし戻り値あり int x(int i) { return 0; } // 引数あり戻り値あり
- Scala
def x(): Unit = { /* ... */ } def x(i: Int): Unit = { /* ... */ } def x(): Int = {} def x(i: Int): Int = {}
- 関数宣言用に def がある
- Unit は戻り値の型を示す void と同じ。場所に注意
- Go
func x() { /* ... */ } func x(i int) { /* ... */ } func x() int { return 0 } func x(i int) int { return 0 }
- JavaScript とほぼ同じ
- 戻り値を書く場所に注意
- Rust
fn x() { /* ... */ } fn x(i: i32) { /* ... */ } fn x() -> i32 { return 0; } fn x(i: i32) -> i32 { return 0; }
- fn で宣言
- 戻り値を指定するときに -> を使う
関数を使う
関数型言語の特徴として、関数の引数に関数を入れて使うことができます。
- Java
- Java ではできない(ラムダ式などで書ける)
- Scala
def sum(a: Int, b: Int) = a + b val f = sum _ println(f(1, 2))
- 変数に直接代入することはできず、
_
で関数を生成する
- 変数に直接代入することはできず、
- Go
func sum(a int, b int) int { return a + b } func main() { f := sum fmt.Println(f(1, 2)) }
- Go は直感的に代入していることがわかる
- Rust
fn sum(a: i32, b: i32) -> i32 { return a + b; } fn main() { let f = sum; println!("{}", f(1, 2)); }
- Rust も Go と同じく変数に代入できる
高階関数
この参加してみたレポートでも何度目かの登場です。私は再帰のような表現が苦手で最初は「??」でしたが、見るうちに見慣れてきました。
ちなみに、コールバック関数を見ながら、これもそれの一種かと気づけました!
- 高階関数
- 引数に関数を返す
- 戻り値に関数を返す
では、言語ごとに見てみましょう。
- Scala
/* x は通常の関数 */ def x() = { println("OK") } /* 引数に関数を受け取る */ def y(f: () => Unit) = { f() } y(x _) // OK /* 関数を返す関数 */ func x() { fmt.Println("OK") } func y() func() { return x } func main() { f := y() f() // y()() これでも同じ結果になる y() で x 関数が返り、 x() が実行される }
- 引数に関数を受け取るときは
f: ()
で引数を指定して、=>
で戻り値の型を指定
- 引数に関数を受け取るときは
- Go
func x() { fmt.Println("OK") } /* 引数に関数を入れる */ func y(f func()) { f() } func main() { y(x) } /* 戻りで関数を返す */ func x() { fmt.Println("OK") } func y() func() { return x } func main() { f := y() f() // y()() }
- 個人的にはわかりやすい
- 引数や戻り値に func() を指定
- Rust
/* 引数に関数を入れる */ fn x() { println!("OK"); } fn y(f: Box<dyn Fn() -> ()>) { // Box でポインタを作成。 dyn は動的という意味。ここではメモリ・ヒープ領域を動的に確保する f(); } fn main() { let f = Box::new(x); y(f); } /* 戻りで関数を返す */ fn x() { println!("OK"); } fn y() -> impl Fn() -> () { // impl で関数型を宣言 return x; } fn main() { let f = y(); f(); }
- ややこしいと思うのは私だけでしょうか…
個人的には Rust のように () のみで書かれると、どうしてもコレは何だっけと思ってしまいます。
ラムダ式
続いて、ラムダ式です。ちなみに、なぜ人類はラムダ式やクロージャになると、どんどん略しちゃおうと思うのでしょうか (恨み節) 。
- ラムダ式とは
- 無名関数を書くためのもの
- クロージャと呼ばれたり、 JavaScript ではアロー関数だったり呼び方が異なる
- 無名関数を書くためのもの
- Java
() => 1; x => x * 2; // 引数 1 つなら () は省略 (x, y) => x + y; // 引数 2 つなら () は省略できない
- 言語によって => か -> になる
- Scala
() => 1 x => x * 2 (x: Int, y: Int) => x + y
- ラムダ式と呼ばず関数リテラルと呼ばれる
- Go
func() int { return 1 } func(x int) int { return 1 } func(x int, y int) int { return x + y}
- ラムダ式用の記述ではなく、無名関数だけがある ( JavaScript とほぼ同じ)
- Rust
|| 1; |x| x * 2; |x, y| x + y;
||
パイプで表現する- -> や => は使わない
- ラムダ式は用意されず、クロージャと呼ばれる
このあと、実際にクロージャのユースケースとして関数内にクロージャを書く例を紹介いただきました。
オブジェクト指向のクラスとインスタンス
最後に、関数型言語においてクラスやインスタンスのような概念は無い、ということを詳しく解説いただきました。
- オブジェクト指向では「状態( State )」と「振舞い( Behavior )」をまとめている
- Scala はクラスが扱える
- Go や Rust ではクラスはなく「構造体」で表現している
// Go は type キーワードを使う type foo struct { x int } func (f *foo) set_x(x int) { f.x = x } func (f *foo) get_x() int { return f.x }
ここまで解説いただいたところで、このコースは修了しました。
まとめ
業界の大多数を占めつつ、少し先の見通しが見えにくいと感じる Java プログラマが次に学ぶ言語として、関数型言語の 3 つを味見してみました。
皆さん、いかがでしたか? 私は Go 言語がいいなぁと思っています!
それはそれとして、オブジェクト指向普及期に「慣れない」という声が挙がっていたのと同じように、オブジェクト指向に慣れてしまった方からすると関数型言語は異質にみえます。特にイミュータブルで、メッセージパッシングのような往復がなく、一方通行というのはなかなか慣れません(私だけでしょうか)。
ただし従来の Java で使われていたような基幹系システムには、関数型言語の特徴はマッチしそうに感じるので、このコースで各言語を味見できたのは良い体験でした!
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