費用対効果、時間対効果でも有効な「教えない」研修|「教えない研修」特集 3

反転授業という単語を知らない方のために、まず反転授業についてご説明します。
従来の授業は、学校などで先生・講師が生徒・受講者に講義し、生徒・受講者は自宅で宿題をするという形態ですが、反転授業は自宅などで生徒や受講者はビデオ教材などを使って予習し、学校などでは予習を前提とした応用問題を解いたり、実習をする形態です。(これも一種の「教えない」ではないでしょうか)
自宅と学校で実施する内容が反転しているため、 “反転授業” と呼ばれています。
これまでの反転授業
これまでの授業では理解や暗記が中心となっていましたが、反転授業では応用問題や実習に取り組むため、より深い理解や応用力が身につくと評価されています。
学校教育においては、ネットワーク・ハードウェアなどのインフラ整備や保護者による学習の支援が課題と言われていますが、社会人教育ましてや IT 業界の方々が対象の研修であれば、このあたりの課題はクリアできているはずですので、今後メインストリームになっていくでしょう。
調べてみると 2000 年代にアメリカにおいて草の根的に広まった反転授業は、日本でも 2012 年から実践されているため、かれこれ 10 年近い歴史があることになります。
しかし、未だに反転授業が広く普及しないのは、学校教育が変わらないことが 1 つの要因であると考えています。
私たちが学んできた学校教育のスタイルがもっとも効果が高いと思い込んでいること、苦労することが重要であるという一種の根性論のようなものが背景にあり、新しいスタイルが感覚的に好まれず、普及しなかった要因であると考えています。
(現在では佐賀県武雄市で反転授業が 2013 年から実施されていたり、東京大学を始め多くの大学でも取り入れられています。)
「教えない」研修の芽が徐々に広がる
しかし、ここへ来てパラダイムシフトが起きようとしています。
特集 1 でも記載しましたが、コロナ感染症に伴う緊急事態宣言によって様々な ”オンライン◯◯” を実際に経験し、「オンラインでも良いよね」という風潮になってきたと感じます。
これにより、反転授業はさらに実施しやすくなりました。社会人教育や IT 業界の研修でも今後広まっていくと思われます。
反転授業以外にも、スキルアップを目的とした課題ドリブン(課題によって自ら学ぶ形式)の研修?(もう研修とは呼べないのかもしれません)もあります。
先生がいないプログラミングスクール 42 Tokyo や、大阪大学大学院、東京大学大学院、東京工業大学大学院など 15 大学で行われていた、 PBL(Project Based Learning: 学生同士でプロジェクトを立ち上げ、開発を進める。先生はサポートを務める)形式を取り入れた enPiT と呼ばれるプログラムなどがこれにあたります。
42 Tokyo は自身が伸ばしたいスキルテーマに沿った課題を自身で調べながら解き進めるもので、基本的には個人で進めるものですが、課題の出来を判定してもらえたり、必要に応じてサポーターからフォローしてもらえたりします。(これも「教えない」ですね)
2つ目に、教育システムが「実践的」である点です。具体的には、授業形態として従来の学校教育のように教師が一方的に講義を行うという形ではなく、学生同士が主体的に学びあう「ピアラーニング」方式を採用しています。
出典: 誰もが平等に挑戦できる「42 Tokyo」始動ーー学費無料のエンジニアスクール、DMMが主導 – BRIDGE(ブリッジ)
数カ月間の分散 PBL を通じて,PROG コンピテンシーの得点が対人,対自己,対課題のすべてで有意に高まることが確認された.
出典: enPiT ってなんですか? – 情報処理学会
反転授業・ハッカソン形式で進めた enPiT の演習では受講した学生全員が「意欲的・積極的に取り組めた」と回答
出典: ハッカソン形式の実践的IT教育の実施報告(坂本一憲(国立情報学研究所))
また、文科省においても「教えない」とまではいかないものの、 “アクティブ・ラーニング=学習者が能動的に学習に参加する手法” を推進しています。
従来の e ラーニングのように個人で受動的に受講するスタイルは、進捗も本人次第であり、出来ているのかそうでないのかもなかなか自身でもわからず、続かないことが多いのですが、自身の理解度を客観的に確認できる「教えない」研修は、時間も融通が利きやすく、時間対効果は従来の研修スタイルと比べても格段に高いと言えます。
研修に参加すれば学べるという半ば受け身なスタイル、研修を受けていれば学んだ気になるスタイルは、費用対効果や時間対効果という面では、懐疑的な方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
少しずつ広がりを見せている「教えない」研修は、学習効果(時間対効果、費用対効果)の面からも、今後ますますニーズが高まることでしょう。

株式会社クロノス 関東事業部 ゼネラルマネージャ
「研修の受講者だけではなく、受講された方のお客様にまで、広く多くの笑顔を作る」をモットーにIT企業の技術研修やPM研修などを担当。
最近はAIの研修やセミナーにも多数登壇・講演の実績がある。
- 著作
- [記事]AI人材育成(トレタン)
- [記事]AIでシステム開発はこう変わる(AINOW)
- [書籍]Seasar2によるWebアプリケーションスーパーサンプル(SBクリエイティブ)
- [雑誌]eclipseパーフェクトマニュアル(技術評論社)
- [記事]Webの上のポジョをシームレスにつなぐJBoss Seam(@IT)
- [記事]IT人材の必要性と効果的な採用方法(@人事)
- など