いまさら聞けない IoT基本のキ 研修コースに参加してみた
今回参加した研修コースは いまさら聞けない IoT基本のキ です。
IoTというとイメージするものは何でしょうか? センサー? ロボット? ビッグデータ? AI?
バズワードはときに様々にバイアスを掛けてしまいます。
今回のコースは “IoT” というバズワードに対する様々なイメージや考え、期待を解きほぐし、ビジネスの観点、技術の観点、どちらからも整理できたコースでした。
また、IoTはまだPoC (Proof of Concept: 実証段階) フェーズを出ず、その段階でどのようにビジネスや開発を始めるのか、講師からのアドバイスもありました。
参加された方の事前アンケートでも 「お客様がIoTに興味がある」「IoTとは何か説明できるようになっておきたい」といったニーズが高く、そういった方には今回の内容はふさわしいものでした。
では、その内容をレポートします。
もくじ
講師紹介
講師は 久保 幸夫 さんです。
情報処理技術者試験対策などの講師を務められているほか、書籍やマイコン、電子工作、ネットワークの雑誌で執筆されています。
コース内容
今日のコースの内容を以下の通り、紹介いただきました。
- 人によって様々なものを “IoT” と捉えているので、まずその解説
- IoTで扱う技術の範囲とその技術者の育成について
これを通じて、IoTの全体像を掴んでほしい、というのがコースの狙いでした。
IoTを分類する
IoTとは?
冒頭にも記載したとおり、”IoT” そのものの定義は曖昧であり、人によって捉え方が様々です。
デバイス屋や、ネットワーク屋、データ屋、様々に “売りたいIoT” が違うので、話を聞く側にもバイアスが掛かってしまいます。
また、成功した海外事例は話半分に聞くほうがよく、成功の主な要因がIoT導入ではなく、単純にIT化できたからという背景もあります。
では、IoTとは何かと言うと、昔から組み込みや制御に使われている M2M (Machine 2 Machine) がベースとなっています。
M2Mの時代は独自のプロトコルで工場内など特定範囲の機械を繋いでいたのが、IoTではインターネット (TCP/IPやHTTPなど) などのオープンな通信プロトコルを採用することで、繋がる機械の範囲が圧倒的に広がり、それによってデータが大規模に収集できるようになりました。
IoTの分類の仕方
では、人によってバイアスが掛かってしまう中、どのようにIoTを “分類” するとよいか、久保さんから色々な切り口を紹介いただきました。
- 要素技術で分類する
- 業界で分類する
- 規模で分類する
例えば、電力という業界であれば、スマートグリッド、スマートハウスなどのシステムが話題になり、製造業であれば「つながる工場」「第4次産業革命」などの用語が飛び交います。
予め、用語や技術を “業界” で分類できていると、お客様や会話する相手が指すものを理解しやすくなります。
なお、よくIoTの事例として紹介されることが多い KOMTRAX (コマツ社の建設重機遠隔管理システム)、みまもりほっとライン(iポット誕生秘話) は長い年月の取り組みによって実現できたので、IoTを使っても一朝一夕で成果が出る訳ではありません。
また “規模” の観点で分類することで、例えば、お客様が考えているIoTが、現実的に改善・解決してほしいことなのか、夢物語を話しているのか、それにより取り組み方を変えられます。
お客様に合わせたIoTを考える “身の丈IoT” によって、成熟度を上げていくことが重要です。
IoTの技術要素
IoTの3つの階層
これまでは特にビジネスの観点からの “IoT” でしたが、今度は “技術” の観点からIoTを分類します。
IoT (Internet of Things) の技術は、
- ネット (Internet) やクラウド
- 通信 Things と Internet を繋ぐもの
- モノ (Things) 側
この3つの階層に分類できます。
IoTに関する技術用語や製品が出てきたときは、どの階層の問題を解決するのか考えてみると理解しやすくなります。
IoTの通信プロトコル
M2MとIoTの違いでも触れましたが、大きく変わったのはオープンなプロトコルを使うことが従来と違う点です。
ここでは、IoTで使われるプロトコルを紹介します。
TCP/IP や HTTP 1.0/2.0 といったインターネットのプロトコルを使うとありましたが、それでは問題があります。
実はIoTのデータは、データ量が小さいことが多いため、HTTPなどの標準的なプロトコルではオーバーヘッド(必要なデータ以外の付随するデータ)が大きくなりがちです。
データの量が多いと、パケット通信などの通信コストの増大や消費電力が多くなることから電池の寿命が短くなるなど問題が発生します。
このため、以下のような軽量(仕組みが簡単な)IoT向きのプロトコルが注目されています。
- MQTT: IBMが開発したものでデータ量が少ない通信に適している
- CoAP: UDPを組み合わせている
また、無線通信でも一般的なWiFi(無線LAN)やBluetoothに加え、以下のような IoT向きの無線が使用されています。
- BLE:Bluetoothの省電力版
- ZigBee: IoT向け無線プロトコル
さらに、最近では、これらの通信に加え、「省電力で長持ちでワイドエリア」に伝送できるLPWA (Low Power Wide Area network) という通信が注目されています。
これらにはLoraやSigfox、NB-IoTなどの種類がありますが、中でもフランスの Sigfox が世界的に構築しているLPWAネットワークが注目されています。
Sigfoxは、伝送速度が100bpsと非常に遅く、1回のデータ長は12バイト、1日当たりの通信回数も上りは140回、下りの場合は4回という厳しい制限がありますが、その分コストが安いのが特長で、ルイ・ヴィトンの鞄の追跡サービスのインフラに採用したことで話題になりました。
モノ Things について
続いて、モノのお話です。エッジとも言われます。
このモノにはセンサー、デバイス、電子回路基板など様々にあります。
この中でも、IoTのプロトタイプ作成やトレーニング用に注目されているのが、RaspberryPiやArduinoといった小型のマイコン電子回路基板です。
Arduinoのプロセッサは、8ビットの組込み制御マイコンですので、性能は低いですがハードウェアの拡張性が高いので、デジタルやアナログの数多くのセンサーなどを接続できる特徴があります。
またRaspberryPiは、Lunix系のOSが動作する小型コンピュータで、LANやWiFiを搭載しており、インターネットに簡単に接続できる特徴があります。
これらは値段も安いため、これらを活用してIoTの試作品 (プロトタイプ) を作ることが幅広くおこなわれています。これらの試作品を評価し、その反響や使用シーンを見ながら改良を行い、IoTシステムやサービスへ展開するケースが出ています。
なお、小規模なシステムではRaspberryPiなどをそのまま実システムとする場合もありますが、大量生産が必要な場合は、専用のハードウェアを製作することになります。
IoTで必要な技術を身につけるには
技術の階層がわかったところで、次はその技術をどう身につけるのか、というお話です。
理想的にはすべての階層がわかって開発できる、フルスタックエンジニアですが、、そんな方は 「まず」いません。
このためIoTの開発プロジェクトでは、他の専門技術者や企業と一緒に開発することになります。
このため、IoTを開発できる技術者ではなく、ジェネラルな知識とスキルで “IoTに対応できる技術者” を目指すことが現実的です。
そこで重要になるのが、「IoTの全体像を把握している」かつ「他の階層の技術者とコミュニケーションが取れる」、この2つです。
このコミュニケーションという点では、例えば “リアルタイム” という言葉の感覚値は組み込み技術者と、Webなどの技術者とでは全く違います。
また、全体を知る体験するには、本やセミナーに加えて、電子工作などのハンズオンのセミナーに参加してみることをお薦めいただきました。
特にIoTの場合、デバイスが置かれている環境や気象条件によって動きが変わってしまうので、プロトタイピングがとても重要になります。
あわせてIoTの開発では先程のRaspberry Piなどを使ったプロトタイプから量産品を開発したように、プロトタイピングからはじめて、ブラッシュアップしながら完成品を作るアジャイルな開発の進め方がマッチします。
IoT開発特有のセキュリティ
また最後にセキュリティについても解説がありました。
先程の技術同様、セキュリティについてもフルスタックに対応する必要があります。
あわせてIoTならではの盲点として、最近、普及が進んでいる監視用IPカメラの例を挙げていただきました。
IPカメラは、ビルや施設の「安心・安全」のために設置されています。
最近では、クラウドサービスを活用した監視システムのソリューションも増えていますが、セキュアなクラウドサービスや暗号化されたVPN(仮想通信網)を使用して、セキュリティに注意していても、カメラの取り付け方法が悪いと、セキュリティの盲点になる可能性があります。
特にレイヤが低い物理的なセキュリティ対策が遅れていて、いくらクラウドやネットワークなど上位レイヤをセキュアにしても、物理的なセキュリティが甘いと、上位レイヤのセキュリティ対策は意味が無くなってしまいます。
また久保さんが強調されていたのが、
「セキュリティは、一番低いレベルにそろう」
ことで、ここでも全体視野を保つことが重要で、一例として下記のようにマトリックスにして洗い出すことを挙げていただきました
また、その他IPAから “IoT開発におけるセキュリティ設計の手引き” が公開されていますので、そういったものも参考にすると視野が広がります。
久保さんから締めとして、セキュリティ面でも徐々に完成度を高める方法がよく、IoTの開発全般を通じて、クラウドやビックデータの解析技術、通信プロトコルや対応製品の移り変わりは早く、最初から完全なものを目指すのではなく、プロトタイピングからはじめて、PDCAを廻して完成度を上げることが重要とまとめていただきました。
まとめ
IoTというバズワードをビジネス、技術両面から解説いただきました。
ビジネス面ではIoTといってもお客様にも何を求めていて、お客様がどのようなフェーズにあるのか、身の丈にあったIoTを目指すことが重要だというのがわかりました。
技術面では階層が分かれていて、フルスタックに出来るというより、ジェネラルに対応できる技術者が必要で、それにはプロトタイピングを体験するのが一番だということでした。
まだIoTで成功したという国内事例も長年取り組んだ成果であって、まだ試作・実証を進めながら開発を進める段階のため、プロトタイプを開発しながらお客様と一緒に開発するという体制が必要でした。
久保さんにも質問したのですが、現在の人月での契約では成果が出しにくく、また違った契約方法も求められています。
IoTが日常に溶け込むにはまだ幾つかブレイクスルーが必要に感じられましたが、一方で 前述のSigfox社は2012年にLPWAネットワークをローンチしてから急成長しています。また日本でもIoT向けSIMをはじめとしたエコシステムを構築したSORACOM社(2014年11月設立)は200億でKDDIが買収したと報じられています。
急成長している市場だけに、問題は山のようにありますが、それだけに問題解決できることも多いにあると感じられたコースでした。
久保さん、ありがとうございました。
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